異世界転移ノ魔術師々

両翼視前

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第二襲 災炎嵐龍編

馬車に乗って ――グッドタイム・パス――

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 キリエと、アルム、ハイネはゼネからの依頼を受けてフォレス山のふもとを目指して馬車を走らせていた。

 本当はヴェールに転移魔術てんいまじゅつを使って、問題の場所付近まで転移してほしかった。
 しかし2日前、食堂〈ニヤの尻尾〉が全焼し、マスターもお亡くなりになった悲しい事件が起きてしまった。
 なので、遠い港町で修行しているマスターの娘のところまで報告しに出かけたそうだ。

 それはもう――朝早くに……。

♢ ♢ ♢ ♢ ♢

 窓に太陽の光が差し込む頃、キリエは着物みたいな普段着に着替え、部屋から出ようとする。

 階段からゆっくりと下りながらリビングを目指している時、


「――ヴェ肩書きクソールデカサボリ魔はどこにいった!」


 耳で直接、聞いてはいけないような怒り狂ったような声が部屋の中で響く。
 至近距離で聞いてしまったら最後、絶対に鼓膜が破れるような声量だからだ。

 朝から元気だなと眺めていると、ハイネがあわわわと慌ててふためいた様子で、
「あわわわ……キリエさん! ヴェールさんがどこに行かれたか知っていますか……!?」
 涙目で言う。

 横目でダイニングテーブルに『追い剝ぎゴブリン討伐ぐらい3人でやれるじゃろ。場所はフォレス山付近のふもとね。よろ~!』と書き記された紙がひらひらりとしており、放っておくとこの場にいない宝石眼の幼女みたいにどこかへ飛んでしまいそうだった。

 私は昨日の記憶を掘り起こす。

「確かヴェールは〈ニヤの尻尾〉のマスターに娘がいて、様子を見に行くと言ってた」

 アルムがハッとした表情でこっちにくる。

「じゃあ、もう出かけた後ってことかよっ!?」

 慧眼色の瞳が怒りに燃えるのを押さえつけて言ってくる。

「多分」

 私がそう言うと、徐々に徐々に目に怒りを灯していく。

「――処す! ヴェールアイツが帰ってきたら絶対に! しょすッ!」

 アルムの火山が噴火したかのような声がキリエの耳に怒声が鳴り響く。
 このままだと永遠に怒り狂ってそうだから、ハイネと共に落ち着くように止めに入った。
 
♢ ♢ ♢ ♢ ♢

 だから、今日は3人――怒り狂うものもいれば、それをなだめるものもいる。
 私はどちらかと言うと……、また、振り回されている……って思っていた。
 だから、今のキリエの目は死んだ魚の目のようになって傍観しているはずだ。

 朝はゼネに転移をお願いしたくて連絡魔術を発動したのだが、なかなか繋がらなかった。
 きっと忙しい仕事で今は連絡出来ないのだろうと諦めて、マナ・リアまで行って使える馬車を貸してもらった。

「肩書きクソデカサボり魔ッ! 帰ったら処すッ!」

 アルムの叫び声が馬車の中で鳴り響くと同時に、車輪が石を跳ね上げたかのように大きく揺れる。

「まぁ、落ち着いてください。ヴェールさんも急な用事になってしまいましたし、馬車のお馬さんがビックリして逃げ出しちゃいますよ」

 2匹の地図喰い馬がキリエたちが乗る馬車を引いている。
 とても賢くてペンで行きたい先を書いた地図を食べさせると、目的地まで10km圏内なら真っ直ぐ行ってくれる。
 また、自分たちに危険が迫ったら自慢の足で宿主の元に帰るように調教されているらしい。
 そんな特殊な馬に馬車で引いてもらって、目的地まで向かっていた。

「それにしても、事前連絡っつうものがあるだろ! キリエがいなかったら分からなかったんだぞ!」
「ヴェールさんもキリエに話したのだから、安心して出かけたのでしょう! いや、話さなくても出かけると思いますが……」
「そこが問題なんだろ! アイツが帰ってきたら絶対に処してやる!」

 アルムは赤き髪を揺らしながらぐぬぬと歯を食いしばりながら拳を強く握りしめる。
 見ているとなんだかヴェールが悪びれない笑顔で仕事を放り投げるような表情が容易に想像できた。

 なんていうか……ここでは日常茶飯事だから早く慣れたいと思う。

 ところで――、
「ヴェールのような優秀すぎるマスターがいるのに、なぜ追い剝ぎゴブリン討伐を依頼されたんだ……?」

 私はふと、疑問に思ったので質問した。

 追い剝ぎゴブリン討伐なんて実力はもちろん、実績がない下級ギルドに依頼されるべき内容だ。
 それをヴェールがいる強者つわものギルドの〈デイ・ブレイク〉にゼネは頼み込むのか?

「なんでなんだろうな~? せめて、出かける前にあの肩書きクソデカサボり魔が依頼内容を見せてくれたらな~!」

 アルムは首をかしげながら困った表情で答えると、
「最近は追い剝ぎゴブリン討伐依頼から行方不明者が続出していて、マナ・リアに届くはずの食物が止まっているそうです」

 ハイネが待ってましたと言わんばかりの表情でそう答える。

「じゃあ、ゴブリンのくせに強ェヤツと戦えんのかよ!」
「どうなんでしょうね……。少なくとも、行方不明者が出ている以上、人の皮は剝ぎ取り終わったと考察してもいいかもしれません」

 深刻そうな表情で考え込むハイネと、目を爛々と輝かせながらシャドーボクシングを始めるアルム。
 ふと――1つ意見が思い浮かぶ。

「追い剝ぎゴブリンの特性を生かして¨異世界転生教が暗躍している¨。それは考えられないだろうか……?」


 ――馬車の中が時が止まったかのように沈黙する。


「考えすぎかもしれないが……」
「まさか、俺たちは¨なんでもや¨みたいなところあるし――」

 アルムが食い入るように言った時、――車輪に石ではない物が当たったかのような音が聞こえ、2頭の馬が自分たちに命の危機が迫るような声を出した。

「襲撃かっ!」
 私は急いで馬車の窓から外の景色を見ると、車輪が青空に向かって天高くに飛んで行った。


 直後――車輪を失った馬車は地面に叩きつけられるように落下する。


 衝撃で尻餅をついたかのような痛みがする。
 恐らくは誰かが弓みたいなものでタイヤを狙ったのだろうか?

「痛ってぇ……」
「とにかく……迎撃しましょう!」

「「「魔術書アルバっ!」」」

 私たちは魔術書を出現させ、安全を確保しようと車輪が外れた馬車から外に出た。
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