上 下
22 / 23

指名

しおりを挟む
仕事と区別できないことに自己嫌悪に陥っていると、
ここで働き始めてから、たまに来てくれる、コンビニの時の店長が来店して指名してくれて
挨拶して、透さんの席を離れた。

ずっと緊張して粗相をやらかしてしまうより、店長が来てくれてよかった……。コンビニの頃から交際を申し込まれたり、困ったこともあったけど
お客様として来てくれるのは、正直ありがたい。

三店舗持っているコンビニの経営も、相変わらず順調のようで、高いお酒でも気前よくいれてくれるのも、
お給料が時給+売上制のこのお店では、かなり助かっている。

あと、意外というと失礼になるかもしれないけど……
飲み方が綺麗だった。

ここはクラブで、女の子が隣につくこともあるけれど
するのはお酒の給仕などで、ボディタッチなどは基本的にNGなのだけど

あまり区別がついていないお客様がたまにいて、触られそうになるのは日常茶飯事だし、
実際、触られることもある、と先輩やママが言っていた。
ただ、まだそういうお客様のあしらいができないわたしには、そういうお客様はつけないでくれていて
どんな飲み方をするかわからない一見さんなどの席も、滅多につくことがなく、
今までは回避できている。

それでも、先輩のそういうシーンを目撃したことは何度かあり
それを思うと、飲みにだけ来て、かなり強いお酒を飲んでいるのに、前後不覚になったりもせず、
気持ちよく飲んで帰ってくれる店長は、かなりの良客なのだと思った。

コンビニで働いてた頃は、三店舗経営のせいもあり、たまにしか会わないのに、会えば軽口を叩いている姿を知っていたから
正直、少し見直してしまった。
ちゃんと遊び方を知っている大人なんだ、と思えた。

店長が来てくれたことで、緊張がほぐれて
近況報告などして、三十分ほど経ち

VIPルームのお客様がお帰りになります、との声掛けで
帰る前に、ついたキャストは挨拶をするよう言われてもう一度、透さんの席へ行った。

「本日はありがとうございました」

丁寧にお辞儀をして微笑んでお見送り。

透さんの席は指名ではなかったので
ご挨拶を済ませてすぐ店長のところへ戻ったのだけど

一度帰宅したはずの透さんが、
すぐまた来店して、びっくりした。
忘れ物でもしたのかと思っていたら

ママと何か話していて、その後ーーー

「ご指名です」

と呼ばれて
ちょうど、店長も帰ると言ったので、お見送りをして呼ばれた席に向かうと、そこには、透さんが、ムッスリとした顔で座っていた。
しおりを挟む

処理中です...