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下弦の月
月姫 ケプラー
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私は学校の制服のままベリストアに向かった。学校の用事が早く終わったのですぐ涸沼駅まで戻ることができた。駅で原付に乗るとそのまま農道を走ってバイト先へと直行した。
バイト先に着くと私はヘルメットを外して髪を整える。駐車場を見渡すと縁石周りの雑草がだいぶ伸びていた。ずっと田村さんのことばかり考えていて、店の周りを見ていなかった気がする。
「こんにちはー」
私は店内に入るとパートさんに挨拶をしてレジに向かった。
「こんにちは。制服で来るなんて珍しいじゃない? 今店長は銀行行ってるみたいよ?」
「こんにちは佐伯さん! 店長から雑貨の発注頼まれてるんで、すぐにバイト入りますね!」
私はバックヤードで制服のジャケットに着替えると発注を始めた。下は制服のスカートのままだ。うっかり着替えを持って来るのを忘れたので仕方がない。
「いらっしゃいませー! こんにちはー!」
私は雑貨品の前の什器で発注をかけながら来客に挨拶した。パートさんがレジを見ていてくれたので一気に発注を打ち込むことができる。一〇分ほどで雑貨コーナーの売れた分のデータを端末に入力し終わった。
私はバックヤードの発注用PCの前に行ってデータの吸い出しを行う。事務所の右手には監視カメラのモニターがあって、パートさんたちがレジ内で作業しているのが見えた。音は小さいけど声も聞こえる。
『それにしてもルナちゃんよく働くよねー。店長の娘とはいえ、かなり頑張ってると思うわ』
モニター越しに佐伯さんの声が聞こえてきた。
『ほんとだよねー。ちょっと頑張り過ぎじゃないのかなって思うくらいだもんねー。あの子はできる子だから店長も手がかからなくていいよねー』
一緒に働いていた石井さんの声も聞こえてきた。
『あの店長の娘とは思えないよねー! もう一人の娘さんは店長に似てる気がするけど』
『そうそう、上の娘さんの方が店長似かもしれないよね! けっこう我が強くて、融通が利かなそうなところがそっくり』
彼女たちは私がモニターを見ているとは考えていないのだろう。たぶん父さんが居ない時は割とこんな風に噂話をしているんじゃないかと思った。
『それより、この前の店長の話聞いた? なんか女作ってるっぽいよね!?」
『あー、そうらしいよね……。なんか本部での展示会で出会ってからよく会ってるみたいだよねー。店長、外に用事があるって出かけてるけど本当はその人のとこ行ってるんじゃないかなー?』
『ありそうだよねー。まったく! 本当に店長はたらしだからしょうがないよねー。少しは娘を見習って真面目にやればいいのにさー』
私は悪趣味だとは思いながらも彼女たちの会話を盗み聞きしていた。父さんと付き合っている女の人がいるなんて知らなかった。まぁ、私の母親とは絶縁状態だし相手がいたって不思議じゃない。でも私は妙に複雑な気持ちになった。嫌悪感とかではないけど、父さんに相手がいるとすればショックな気がする。
気がつくと発注端末の吸い上げは終わっている。私は事務所を出ると売り場に戻った。佐伯さんも石井さんも私の姿を見つけると、何事もなかったかのようにカウンター業務と商品の品出しを始めた。この人たちの性格はわかっているつもりだから、そんなもんだろうとは思うけど。
そうこうしているうちに、麗奈が引き継ぎでバイトにやってきた。
「お疲れー麗奈!」
私は麗奈に声をかける。
「お疲れルナ! 今日はルナと一緒かー。てかルナさぁ、スカート珍しいね。学校帰り?」
「そだよー。今日進路指導があったから高校行ってきたんだー」
「そっかぁー。なんか大変だね! いつもみたいに走り回るとパンツ見えちゃうよ?」
麗奈に変なことを言われたけど、たしかにいつも通りに仕事できる格好じゃない気がする。麗奈がレジに入って間もなく父さんが銀行から帰ってきた。もしかしたら銀行じゃないのかもしれないと思ったけど、疑っても仕方ないので考えるのをやめた。
「お疲れルナ! 発注サンキュー。俺はレジに現金だけ補充して帰るけど大丈夫か?」
「大丈夫だよ店長! あとは私がやっておくからね! なんか他にやっておくことある?」
「いや……。特にはないかな? お前が気がついたことやってくれればそれでいいよ」
私と父さんが話していると、佐伯さんが会話に割り込んできた。
「店長、もうちょっとバイト生にきちんと指示してあげた方がいいと思いますよ。ルナちゃんは気がつく子だからいいけど……。ねぇ? 河合さんもちゃんと言ってもらえなきゃわからないよね?」
佐伯さんはそう言って麗奈に話を振った。佐伯さんはあまり麗奈のことを気に入っていないようだった。麗奈はサボリ癖があるし、空気を読まない発言もたくさんしているから当然かもしれないけど。
「いえ、大丈夫です! ルナも一緒だし、できることやりますから!」
麗奈は苦笑いしながら佐伯さんに返事をした。
その後、パートさんと父さんは退勤していった。私と麗奈は夕方の仕事に取りかかり、ホットスナックの補充と夕方分の廃棄を下げる。
「あー、マジ佐伯さん苦手だわぁー。あの人ぜったいウチのこと嫌いだよ!」
麗奈はチルドの廃棄を下げながら愚痴るように私に言った。
「佐伯さんはっきりした人だからねー。でも仕事丁寧だし、引き継ぎもちゃんとしてくれるから私は助かるけどなー」
「ルナは店長の娘だからいいよ! ウチはただのバイトだし、あの人たちからの風当たりがきついんだよ!? そのくせパートさんたち連休だと休みたがるし、マジでダルいわ」
麗奈の愚痴を聞きながら、私は「そうだね」と軽く流す。麗奈はいつも大げさに被害者意識を持ちたがるから、これくらいの付き合いでちょうどいい。
「そういえばさー。ルナに田村さんから荷物預かったんだけど!」
麗奈は愚痴りながらサラッと言った。
「えっ!? 田村さんから? なんで麗奈に!?」
私は思いがけず声を出してしまった。
「なんでって……。ウチは知らないよ? つーかルナ、田村さんと何かあったの? なんか田村さん態度おかしかったしさぁ」
「なんだろうねー? わかんないや」
私は白々しいと思いながら田村さんに告白してフラれたことを言わなかった。麗奈に話すときっとややこしくなる。
「なんか隠してない? ルナ、隠し事するとすぐ顔に出るタイプだからもろバレだよ?」
麗奈はそう言うと、疑わしそうな目で私を睨んだ。本当にこういう時の麗奈は面倒くさい。
「まぁいいじゃない! あんまり気にしないで。もし何かあればちゃんと話すから……」
「ふーん、とにかく田村さんからの荷物、帰りに渡すからね!」
それから麗奈とバイトを続けたが、会話は弾まなかった。今日は麗奈とは合わない日だ。もし茉奈美なら失恋の話を聞いてもらってもいいかもしれないけど、この娘には話す気になれなかった。
いつもならバイトに集中していると時間なんてあっという間に過ぎた。でも今日は違った。田村さんのことを考えるとどうも仕事が手につかない。そんな私を見て、麗奈はますます何かあったんだと疑っているようだった。
本当に長いバイトの時間だった。商品補充と発注、カウンター内の仕事が恐ろしく長く感じた。それでも時間は流れるもので、私たちが退勤する時間になった。
バイトが終わると私と麗奈はバックヤードのロッカーに行った。相変わらず麗奈は私に何か言いたげだった。
「はい!」
麗奈はバックから小さな小包を取り出して私に手渡した。
「あ、ありがとう……」
私は彼女にお礼を言ってその小包を受け取る。
「ねえルナ? ウチら隠し事とかする仲じゃないじゃん!? なんで何も言ってくんないの!? どーせ田村さんと喧嘩したとかフラれたとか何だろうけどさ!」
思いがけず麗奈に核心的なことを言われて、私は自分の顔が恐ろしく熱くなるのを感じた。
「え! え! 麗奈!? なんで?」
動揺で声がうわずる。
「やっぱりねー。そんなとこだろうと思ったよ! だってルナさぁ、田村さんといる時いっつも楽しそうにしてたじゃん!? 明らかに好きなんだろうなーって思ってたよ!」
それを聞くと一転して自分の気持ちが急に沈んでいくのを感じた。幼なじみとはいえ、こんな簡単にバレてるとは思わなかった。
「う……。そうだよ……。私、田村さんにフラれちゃった」
私がそう言うと麗奈は急に優しい顔になった。
「最初からそう言えばいいじゃん!? ウチら友達なんだし、辛いことあんなら言ってスッキリした方がいいよ! あんだけ一緒にいて楽しそうにしてたんだからフラれたら辛くて当然でしょ!?」
「でもね麗奈……。でも私は言えなかったんだよ。正直に言うと麗奈に話しても解決することじゃないしさ……。そもそも解決とかする話じゃないしさ」
そう言ったとたん、私の右目から温かいものが流れ落ちた。
「泣くなよー! でも辛かったんだね! そっかー、本当に田村さんはしょうがない人だね! 女の子泣かせるなんてサイテーだよ!」
自分でも意外だけど、それから泣きながら麗奈に事の顛末を話した。麗奈は珍しく静かに聞き役に徹して私の話を聞いてくれた。
「それでね、田村さんに可愛いって言われたのに……。嬉しいって言われたのに、付き合えないって言われちゃったんだよ」
私はもう自分の言動を止める事はできなかった。思っていたより自分の中に気持ちを溜め込んでいたみたいだ。
「うんうん、そうだよねー。可愛いって思うなら付き合ってくれたっていいのにね!」
麗奈は本当に月並みな言い方で私を慰めてくれた。普段思わないけど、麗奈の存在がとても大きくみえた。
「ありがとう麗奈! お陰でずいぶんとスッキリしたよ」
「よしよし、ルナは普段から色々と溜め込み過ぎなんだよ! 全部自分で背負い込んで頑張るから辛くなってパンクしちゃうんだよ? ウチみたいに思った事は言った方が絶対いいって!」
私は涙を拭って麗奈と一緒に店を出た。麗奈の親が車で迎えにきている。
「じゃあお疲れ様! もし辛い事あったら連絡しなよ?」
「うん、麗奈ありがとう……」
麗奈を見送ると私はまた駐車場で一人ぼっちに取り残された。でも麗奈のお陰で気持ちが少し軽くなった気がする。
「私、抱え込み過ぎだったのかな?」
独り言のように呟くと、また涙が一滴零れた。
バイト先に着くと私はヘルメットを外して髪を整える。駐車場を見渡すと縁石周りの雑草がだいぶ伸びていた。ずっと田村さんのことばかり考えていて、店の周りを見ていなかった気がする。
「こんにちはー」
私は店内に入るとパートさんに挨拶をしてレジに向かった。
「こんにちは。制服で来るなんて珍しいじゃない? 今店長は銀行行ってるみたいよ?」
「こんにちは佐伯さん! 店長から雑貨の発注頼まれてるんで、すぐにバイト入りますね!」
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『あー、そうらしいよね……。なんか本部での展示会で出会ってからよく会ってるみたいだよねー。店長、外に用事があるって出かけてるけど本当はその人のとこ行ってるんじゃないかなー?』
『ありそうだよねー。まったく! 本当に店長はたらしだからしょうがないよねー。少しは娘を見習って真面目にやればいいのにさー』
私は悪趣味だとは思いながらも彼女たちの会話を盗み聞きしていた。父さんと付き合っている女の人がいるなんて知らなかった。まぁ、私の母親とは絶縁状態だし相手がいたって不思議じゃない。でも私は妙に複雑な気持ちになった。嫌悪感とかではないけど、父さんに相手がいるとすればショックな気がする。
気がつくと発注端末の吸い上げは終わっている。私は事務所を出ると売り場に戻った。佐伯さんも石井さんも私の姿を見つけると、何事もなかったかのようにカウンター業務と商品の品出しを始めた。この人たちの性格はわかっているつもりだから、そんなもんだろうとは思うけど。
そうこうしているうちに、麗奈が引き継ぎでバイトにやってきた。
「お疲れー麗奈!」
私は麗奈に声をかける。
「お疲れルナ! 今日はルナと一緒かー。てかルナさぁ、スカート珍しいね。学校帰り?」
「そだよー。今日進路指導があったから高校行ってきたんだー」
「そっかぁー。なんか大変だね! いつもみたいに走り回るとパンツ見えちゃうよ?」
麗奈に変なことを言われたけど、たしかにいつも通りに仕事できる格好じゃない気がする。麗奈がレジに入って間もなく父さんが銀行から帰ってきた。もしかしたら銀行じゃないのかもしれないと思ったけど、疑っても仕方ないので考えるのをやめた。
「お疲れルナ! 発注サンキュー。俺はレジに現金だけ補充して帰るけど大丈夫か?」
「大丈夫だよ店長! あとは私がやっておくからね! なんか他にやっておくことある?」
「いや……。特にはないかな? お前が気がついたことやってくれればそれでいいよ」
私と父さんが話していると、佐伯さんが会話に割り込んできた。
「店長、もうちょっとバイト生にきちんと指示してあげた方がいいと思いますよ。ルナちゃんは気がつく子だからいいけど……。ねぇ? 河合さんもちゃんと言ってもらえなきゃわからないよね?」
佐伯さんはそう言って麗奈に話を振った。佐伯さんはあまり麗奈のことを気に入っていないようだった。麗奈はサボリ癖があるし、空気を読まない発言もたくさんしているから当然かもしれないけど。
「いえ、大丈夫です! ルナも一緒だし、できることやりますから!」
麗奈は苦笑いしながら佐伯さんに返事をした。
その後、パートさんと父さんは退勤していった。私と麗奈は夕方の仕事に取りかかり、ホットスナックの補充と夕方分の廃棄を下げる。
「あー、マジ佐伯さん苦手だわぁー。あの人ぜったいウチのこと嫌いだよ!」
麗奈はチルドの廃棄を下げながら愚痴るように私に言った。
「佐伯さんはっきりした人だからねー。でも仕事丁寧だし、引き継ぎもちゃんとしてくれるから私は助かるけどなー」
「ルナは店長の娘だからいいよ! ウチはただのバイトだし、あの人たちからの風当たりがきついんだよ!? そのくせパートさんたち連休だと休みたがるし、マジでダルいわ」
麗奈の愚痴を聞きながら、私は「そうだね」と軽く流す。麗奈はいつも大げさに被害者意識を持ちたがるから、これくらいの付き合いでちょうどいい。
「そういえばさー。ルナに田村さんから荷物預かったんだけど!」
麗奈は愚痴りながらサラッと言った。
「えっ!? 田村さんから? なんで麗奈に!?」
私は思いがけず声を出してしまった。
「なんでって……。ウチは知らないよ? つーかルナ、田村さんと何かあったの? なんか田村さん態度おかしかったしさぁ」
「なんだろうねー? わかんないや」
私は白々しいと思いながら田村さんに告白してフラれたことを言わなかった。麗奈に話すときっとややこしくなる。
「なんか隠してない? ルナ、隠し事するとすぐ顔に出るタイプだからもろバレだよ?」
麗奈はそう言うと、疑わしそうな目で私を睨んだ。本当にこういう時の麗奈は面倒くさい。
「まぁいいじゃない! あんまり気にしないで。もし何かあればちゃんと話すから……」
「ふーん、とにかく田村さんからの荷物、帰りに渡すからね!」
それから麗奈とバイトを続けたが、会話は弾まなかった。今日は麗奈とは合わない日だ。もし茉奈美なら失恋の話を聞いてもらってもいいかもしれないけど、この娘には話す気になれなかった。
いつもならバイトに集中していると時間なんてあっという間に過ぎた。でも今日は違った。田村さんのことを考えるとどうも仕事が手につかない。そんな私を見て、麗奈はますます何かあったんだと疑っているようだった。
本当に長いバイトの時間だった。商品補充と発注、カウンター内の仕事が恐ろしく長く感じた。それでも時間は流れるもので、私たちが退勤する時間になった。
バイトが終わると私と麗奈はバックヤードのロッカーに行った。相変わらず麗奈は私に何か言いたげだった。
「はい!」
麗奈はバックから小さな小包を取り出して私に手渡した。
「あ、ありがとう……」
私は彼女にお礼を言ってその小包を受け取る。
「ねえルナ? ウチら隠し事とかする仲じゃないじゃん!? なんで何も言ってくんないの!? どーせ田村さんと喧嘩したとかフラれたとか何だろうけどさ!」
思いがけず麗奈に核心的なことを言われて、私は自分の顔が恐ろしく熱くなるのを感じた。
「え! え! 麗奈!? なんで?」
動揺で声がうわずる。
「やっぱりねー。そんなとこだろうと思ったよ! だってルナさぁ、田村さんといる時いっつも楽しそうにしてたじゃん!? 明らかに好きなんだろうなーって思ってたよ!」
それを聞くと一転して自分の気持ちが急に沈んでいくのを感じた。幼なじみとはいえ、こんな簡単にバレてるとは思わなかった。
「う……。そうだよ……。私、田村さんにフラれちゃった」
私がそう言うと麗奈は急に優しい顔になった。
「最初からそう言えばいいじゃん!? ウチら友達なんだし、辛いことあんなら言ってスッキリした方がいいよ! あんだけ一緒にいて楽しそうにしてたんだからフラれたら辛くて当然でしょ!?」
「でもね麗奈……。でも私は言えなかったんだよ。正直に言うと麗奈に話しても解決することじゃないしさ……。そもそも解決とかする話じゃないしさ」
そう言ったとたん、私の右目から温かいものが流れ落ちた。
「泣くなよー! でも辛かったんだね! そっかー、本当に田村さんはしょうがない人だね! 女の子泣かせるなんてサイテーだよ!」
自分でも意外だけど、それから泣きながら麗奈に事の顛末を話した。麗奈は珍しく静かに聞き役に徹して私の話を聞いてくれた。
「それでね、田村さんに可愛いって言われたのに……。嬉しいって言われたのに、付き合えないって言われちゃったんだよ」
私はもう自分の言動を止める事はできなかった。思っていたより自分の中に気持ちを溜め込んでいたみたいだ。
「うんうん、そうだよねー。可愛いって思うなら付き合ってくれたっていいのにね!」
麗奈は本当に月並みな言い方で私を慰めてくれた。普段思わないけど、麗奈の存在がとても大きくみえた。
「ありがとう麗奈! お陰でずいぶんとスッキリしたよ」
「よしよし、ルナは普段から色々と溜め込み過ぎなんだよ! 全部自分で背負い込んで頑張るから辛くなってパンクしちゃうんだよ? ウチみたいに思った事は言った方が絶対いいって!」
私は涙を拭って麗奈と一緒に店を出た。麗奈の親が車で迎えにきている。
「じゃあお疲れ様! もし辛い事あったら連絡しなよ?」
「うん、麗奈ありがとう……」
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