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神戸1995④
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鴨川月子は勝ち気な少女だった。そういった意味では私と近いと思う。だから私が抱いている感情は同族嫌悪なのだと思う。特に歌に関してはそれが顕著に表れていた。
私はどちらかといえばハスキーで、よく言えば大人っぽい声だ。だから自然と歌もそれに合ったロックテイストなものが多い。JUDY AND MARYからはほど遠い。そんな声だ。
一方、月子は女性的で可愛らしい声をしていた。彼女は普段、おっとりとした話し方をするけど、ひとたび歌い始めるとその声は一変した。一変……。それだけでは言い尽くせないくらいの変化。
無い物ねだりなのは分かっているけど、月子の声を羨ましく、そして妬ましかった。私もあんな声が欲しかった。もっと可愛らしく、もっとみんなに必要とされる声が欲しかった。
周囲の人間は、私の声をそれなりに評価してくれたけど、それだけでは足りなかった。もっと評価して欲しい。もっともっと。この上ないくらいにみんなに認めて欲しかった。
だから私は必死にイベントに参加し、オーディションも片っ端から受けた。残念ながらただの一つも受からなかったけど……。
月子は勝ち気でありながら、私のようなハングリー精神はあまり持っていなかったと思う。彼女はかつて「ウチは強欲やからな」とか言っていたけど、正直、私はその言葉が信じられなかった。
その月子の態度は私もますます苛立たせた。大した努力もしていない癖に私より評価されている彼女が憎らしかった。
彼女は中学時代に地元で開催されたローカルイベント以外はイベントらしいイベントには出ていなかったと思う。でも……。彼女は日に日に成長した。私は「オーディション受けたらええのに」と言ったけど、彼女はなかなか受けようとはしなかった。なぜ受けなかったのかは分かる。そして、受けなかった理由が私と月子の確執の原因なのだ。
当時、月子のバンドは深刻な問題を抱えていた。バンドをやる上で必要なこと。ある意味、ヴォーカル以上に大切な存在が彼女のバンドには欠けていたのだ。
月子のバンドに足りないもの……。それはベーシストだった。ギターは彼女の幼なじみがやっていたし、ドラムもいい人が見つかったようだけど、ベースだけはどうしても見つからなかったようだ。
いや……。正確には妥協できなかったのだと思う。月子はこの世でもっとも優秀なベーシストを見つけてしまったのだから……。
月子自身から直接言われたことはほとんどないけど、彼女は当時”レイズ”のベースをしていた亨一に目星を付けていた。もっと簡単に言うなら月子は亨一を自身のバンドに引き抜こうとしていたのだ。
月子は明言こそ避けていたけど、いつもそんな態度をしていた。だからなのだろう。月子は募集を掛けながらもベースとして新しいメンバーを加えようとはしなかった。
気持ちは分かる。分かりすぎるくらいだ。確かに亨一以上のベーシストなんて滅多にお目にかかれないだろう。彼にはそれくらいの価値があるのだ。
控えめに言って亨一は天才だった。彼はヒロのドラムの師匠であり、同時に繁樹のよき相談相手でもあった。私にとっても亨一は大切な存在だったと思う。大切な……。そして掛け替えのない存在。
なぜこんなことになってしまったのだろう? 私はここ半年間、そのことばかり考えていた。
自業自得だと知りながらどうしてもそこから抜け出せなかった……。
まるで地獄みたいだ。私はそう思う。真綿で首を絞められるようなそんな緩い地獄。どんなに頑張っても結果に繋がらなかったし、どんなに真剣になっても空回りするばかりだった。空転してただ疲れるだけ。本当にバカみたいだ――。
気が付くと意識が遠ざかっていた。母親の「お風呂入っちゃいなさい」という言葉も空返事してしまった。起きたらこの地獄から解放されてればいいのに。そう思いながら私は意識を失う。
でも……。起きた先にあったのは今までの比ではない地獄だった――。
私はどちらかといえばハスキーで、よく言えば大人っぽい声だ。だから自然と歌もそれに合ったロックテイストなものが多い。JUDY AND MARYからはほど遠い。そんな声だ。
一方、月子は女性的で可愛らしい声をしていた。彼女は普段、おっとりとした話し方をするけど、ひとたび歌い始めるとその声は一変した。一変……。それだけでは言い尽くせないくらいの変化。
無い物ねだりなのは分かっているけど、月子の声を羨ましく、そして妬ましかった。私もあんな声が欲しかった。もっと可愛らしく、もっとみんなに必要とされる声が欲しかった。
周囲の人間は、私の声をそれなりに評価してくれたけど、それだけでは足りなかった。もっと評価して欲しい。もっともっと。この上ないくらいにみんなに認めて欲しかった。
だから私は必死にイベントに参加し、オーディションも片っ端から受けた。残念ながらただの一つも受からなかったけど……。
月子は勝ち気でありながら、私のようなハングリー精神はあまり持っていなかったと思う。彼女はかつて「ウチは強欲やからな」とか言っていたけど、正直、私はその言葉が信じられなかった。
その月子の態度は私もますます苛立たせた。大した努力もしていない癖に私より評価されている彼女が憎らしかった。
彼女は中学時代に地元で開催されたローカルイベント以外はイベントらしいイベントには出ていなかったと思う。でも……。彼女は日に日に成長した。私は「オーディション受けたらええのに」と言ったけど、彼女はなかなか受けようとはしなかった。なぜ受けなかったのかは分かる。そして、受けなかった理由が私と月子の確執の原因なのだ。
当時、月子のバンドは深刻な問題を抱えていた。バンドをやる上で必要なこと。ある意味、ヴォーカル以上に大切な存在が彼女のバンドには欠けていたのだ。
月子のバンドに足りないもの……。それはベーシストだった。ギターは彼女の幼なじみがやっていたし、ドラムもいい人が見つかったようだけど、ベースだけはどうしても見つからなかったようだ。
いや……。正確には妥協できなかったのだと思う。月子はこの世でもっとも優秀なベーシストを見つけてしまったのだから……。
月子自身から直接言われたことはほとんどないけど、彼女は当時”レイズ”のベースをしていた亨一に目星を付けていた。もっと簡単に言うなら月子は亨一を自身のバンドに引き抜こうとしていたのだ。
月子は明言こそ避けていたけど、いつもそんな態度をしていた。だからなのだろう。月子は募集を掛けながらもベースとして新しいメンバーを加えようとはしなかった。
気持ちは分かる。分かりすぎるくらいだ。確かに亨一以上のベーシストなんて滅多にお目にかかれないだろう。彼にはそれくらいの価値があるのだ。
控えめに言って亨一は天才だった。彼はヒロのドラムの師匠であり、同時に繁樹のよき相談相手でもあった。私にとっても亨一は大切な存在だったと思う。大切な……。そして掛け替えのない存在。
なぜこんなことになってしまったのだろう? 私はここ半年間、そのことばかり考えていた。
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気が付くと意識が遠ざかっていた。母親の「お風呂入っちゃいなさい」という言葉も空返事してしまった。起きたらこの地獄から解放されてればいいのに。そう思いながら私は意識を失う。
でも……。起きた先にあったのは今までの比ではない地獄だった――。
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