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神戸1995⑭
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父はベッドに横たわっていた。右足がつり上げられ、額を覆うように包帯が巻かれている。父の隣には弟が身を丸めて座っていた。浩太郎の顔は青く、寒いのか身体を震わせている。
「お父ちゃん!」
私は父に駆け寄った。父は意識がまだはっきりしていないのか、ワンテンポ遅れて私の方を向いた。
「逢子……」
「そうやで! 心配したわ……。コウタも! あんた怪我大丈夫か?」
私は喰い気味に二人に尋ねた。浩太郎はあっけにとられたような表情を浮かべる。
「姉ちゃん……。どこ行っとったん?」
「ごめん……。はぐれてから探しとったんや……。でも二人とも無事でよかったで!」
本当に二人とも無事で良かった。急に肩の力が抜ける。
「逢子……。お前……。怪我は?」
「ああ、大したことないで! お父ちゃんも早よ治しや!」
父はぼんやりとした目で「ああ」とだけ返すと瞳を閉じた。父の様子から察するに麻酔が効いているのだろう。
「……とりあえず会えて良かったな。なぁ逢子? これからどないするんや? 行く場所ないんやったら一緒に避難所行くか?」
「せやな……」
「病院におってもええけど。ここやと飯もろくにないからな……。避難所行けば炊き出ししとるで!」
避難所……。正直行きたくないと私は思った。たしかにこのまま病院に居たって仕方ないの分かる。でも避難所に行ったら父と離ればなれになってしまうだろう。
「コウタは? どうしたい?」
「俺は腹減った……」
浩太郎は自分の腹を擦ると苦笑いを浮かべた。
「そうか……。したら避難所行くか? 病院におってもアレやしな……」
仕方ない。いつまでもここに寝泊まりするわけにも行かないし、避難所に行くほうが自然だと思う。
「よっしゃ! したら俺も一緒に行くで! ちょっと母ちゃんに声掛けてくるから待っててな」
繁樹が出て行ってしまうと、急に心細くなった。父も弟もいるのに世界で独りぼっちになった気がした。息が苦しく、吸う息も吐く息も重たく感じる。
「姉ちゃん大丈夫?」
私の様子に気が付いたのか浩太郎は私の顔を覗き込んできた。
「大丈夫やで。あんたこそ大丈夫か? ずっと潰れた家ん中におったんやから……」
「俺は大丈夫やで……。なぁ……。お母ちゃんは……?」
浩太郎は既に何かを知っているような目で私に聞いた。瞳には涙が浮かび、もし一言でも伝えてしまったら零れ落ちてしまうかもしれない。
「ああ……。どうなんやろな……。私にもわからん……」
私はそれ以上は何も言えなかった。きっと父も弟も母の死は知っていると思う。でも、それを言葉にはしたくなかった。死について話さなければ帰ってくる。そんな淡い期待があったのかもしれない。期待……。というよりもそれは祈りに似ていると思う。あの母の青白い手が別の誰かであってほしいという邪な祈り。
「戻ったで! したら行くか!」
繁樹が戻ってきた。彼は大きなスポーツバッグを肩から提げ、両手に大きなビニール袋をぶら下げている。
「ああ、したらコウタ行こうか?」
私は弟の手を引くと立ち上がった。握った浩太郎は氷のように冷たく、小刻みに震えていた。
「お父ちゃん!」
私は父に駆け寄った。父は意識がまだはっきりしていないのか、ワンテンポ遅れて私の方を向いた。
「逢子……」
「そうやで! 心配したわ……。コウタも! あんた怪我大丈夫か?」
私は喰い気味に二人に尋ねた。浩太郎はあっけにとられたような表情を浮かべる。
「姉ちゃん……。どこ行っとったん?」
「ごめん……。はぐれてから探しとったんや……。でも二人とも無事でよかったで!」
本当に二人とも無事で良かった。急に肩の力が抜ける。
「逢子……。お前……。怪我は?」
「ああ、大したことないで! お父ちゃんも早よ治しや!」
父はぼんやりとした目で「ああ」とだけ返すと瞳を閉じた。父の様子から察するに麻酔が効いているのだろう。
「……とりあえず会えて良かったな。なぁ逢子? これからどないするんや? 行く場所ないんやったら一緒に避難所行くか?」
「せやな……」
「病院におってもええけど。ここやと飯もろくにないからな……。避難所行けば炊き出ししとるで!」
避難所……。正直行きたくないと私は思った。たしかにこのまま病院に居たって仕方ないの分かる。でも避難所に行ったら父と離ればなれになってしまうだろう。
「コウタは? どうしたい?」
「俺は腹減った……」
浩太郎は自分の腹を擦ると苦笑いを浮かべた。
「そうか……。したら避難所行くか? 病院におってもアレやしな……」
仕方ない。いつまでもここに寝泊まりするわけにも行かないし、避難所に行くほうが自然だと思う。
「よっしゃ! したら俺も一緒に行くで! ちょっと母ちゃんに声掛けてくるから待っててな」
繁樹が出て行ってしまうと、急に心細くなった。父も弟もいるのに世界で独りぼっちになった気がした。息が苦しく、吸う息も吐く息も重たく感じる。
「姉ちゃん大丈夫?」
私の様子に気が付いたのか浩太郎は私の顔を覗き込んできた。
「大丈夫やで。あんたこそ大丈夫か? ずっと潰れた家ん中におったんやから……」
「俺は大丈夫やで……。なぁ……。お母ちゃんは……?」
浩太郎は既に何かを知っているような目で私に聞いた。瞳には涙が浮かび、もし一言でも伝えてしまったら零れ落ちてしまうかもしれない。
「ああ……。どうなんやろな……。私にもわからん……」
私はそれ以上は何も言えなかった。きっと父も弟も母の死は知っていると思う。でも、それを言葉にはしたくなかった。死について話さなければ帰ってくる。そんな淡い期待があったのかもしれない。期待……。というよりもそれは祈りに似ていると思う。あの母の青白い手が別の誰かであってほしいという邪な祈り。
「戻ったで! したら行くか!」
繁樹が戻ってきた。彼は大きなスポーツバッグを肩から提げ、両手に大きなビニール袋をぶら下げている。
「ああ、したらコウタ行こうか?」
私は弟の手を引くと立ち上がった。握った浩太郎は氷のように冷たく、小刻みに震えていた。
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