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神戸1995㉒
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三坂逢夜子のことを私はどれだけ知っているのだろう? 彼女とは生まれたときからの付き合いだけど、正直彼女について私はあまりにも無知だ。
昔、酔っ払った父から聞いた話だと彼女は昔からおっとりした性格だったらしい。面倒見が良く、人に対して強い口調で責めたりしない。そんな女性だったらしい。
『お母ちゃん口説くのは時間掛かったで』と父は真っ赤な顔をしながら話してくれた。今思うと、実の娘にする話でもないけど。
彼女はもともと関西圏の出身ではなかった。東京のサラリーマン家庭の次女でごく平凡な家庭に育ったそうだ。まぁ、私自身、彼女の実家(つまり母方の祖父母の家)に行ったことはないのだけど。
母方の実家と母は疎遠だった。その理由を知ったのは私が中学生になってからだ。それまでも何度か母方の祖父母について彼女に尋ねたけれど適当にはぐらかされるだけだった。
おそらく私が無理に聞かなければ彼女は私にそのことを話さなかったと思う。それぐらい彼女にとっては話したくない内容だったのだ。
『逢子、お父さんとお母さんは駆け落ちしたの』
しつこく聞いた私に母は苦い顔でそう言った。
駆け落ちと聞いて私は「かっこいい」とチープでガキな感想を持った。ドラマみたい。そんな風にも思った。
彼女曰く、彼女の両親はとても『堅かった』らしい。それを聞いてなんとなく駆け落ちの理由は分かる気がした。少なくとも父は堅くないし、見ようによってはちゃらんぽらんに見える。
彼女は「それだけよ」と言ってそれ以上は何も言わなかった。でもきっと「それだけ」ではなかったのだろう。
駆け落ちの話を抜きにしても彼女は多くを語らない女性だった。自分の意思があるのか疑わしいくらい従順だったし、不満なことなんて何もないような顔をいつもしていた。まぁ、月並みに学校の成績と生活態度の注意はされたけど。
良妻賢母だった……のだと思う。手前味噌だけど、きっと彼女はよい母親だったのだ。そう気がついたのは失ってからだけど――。
眩しい。意識が戻って最初に感じたのはそんな感覚だった。瞼越しに侵入してくる人工的な光が私の意識に棘のように刺さった。
「気ぃついたか!?」
「う……。うん。繁樹か……?」
ぼんやりとした意識の中、繁樹の声が聞こえた。反射的に起き上がる。
「おお、おお。起きんでええ。ちっと休んどれ」
繁樹は心配そうな声で私の頭を撫でた。
「ああ……。なんや私どうしたんやろ?」
「……。お前、疲れとんねん。とにかく寝た方がええ」
「ああ、せやな」
答えながら薄めを開けると体育館の天井が見えた。どうやら眩しさの原因は体育館の照明らしい。
私は再び瞳を閉じた。意識だけは冴え渡っていく。
昔、酔っ払った父から聞いた話だと彼女は昔からおっとりした性格だったらしい。面倒見が良く、人に対して強い口調で責めたりしない。そんな女性だったらしい。
『お母ちゃん口説くのは時間掛かったで』と父は真っ赤な顔をしながら話してくれた。今思うと、実の娘にする話でもないけど。
彼女はもともと関西圏の出身ではなかった。東京のサラリーマン家庭の次女でごく平凡な家庭に育ったそうだ。まぁ、私自身、彼女の実家(つまり母方の祖父母の家)に行ったことはないのだけど。
母方の実家と母は疎遠だった。その理由を知ったのは私が中学生になってからだ。それまでも何度か母方の祖父母について彼女に尋ねたけれど適当にはぐらかされるだけだった。
おそらく私が無理に聞かなければ彼女は私にそのことを話さなかったと思う。それぐらい彼女にとっては話したくない内容だったのだ。
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しつこく聞いた私に母は苦い顔でそう言った。
駆け落ちと聞いて私は「かっこいい」とチープでガキな感想を持った。ドラマみたい。そんな風にも思った。
彼女曰く、彼女の両親はとても『堅かった』らしい。それを聞いてなんとなく駆け落ちの理由は分かる気がした。少なくとも父は堅くないし、見ようによってはちゃらんぽらんに見える。
彼女は「それだけよ」と言ってそれ以上は何も言わなかった。でもきっと「それだけ」ではなかったのだろう。
駆け落ちの話を抜きにしても彼女は多くを語らない女性だった。自分の意思があるのか疑わしいくらい従順だったし、不満なことなんて何もないような顔をいつもしていた。まぁ、月並みに学校の成績と生活態度の注意はされたけど。
良妻賢母だった……のだと思う。手前味噌だけど、きっと彼女はよい母親だったのだ。そう気がついたのは失ってからだけど――。
眩しい。意識が戻って最初に感じたのはそんな感覚だった。瞼越しに侵入してくる人工的な光が私の意識に棘のように刺さった。
「気ぃついたか!?」
「う……。うん。繁樹か……?」
ぼんやりとした意識の中、繁樹の声が聞こえた。反射的に起き上がる。
「おお、おお。起きんでええ。ちっと休んどれ」
繁樹は心配そうな声で私の頭を撫でた。
「ああ……。なんや私どうしたんやろ?」
「……。お前、疲れとんねん。とにかく寝た方がええ」
「ああ、せやな」
答えながら薄めを開けると体育館の天井が見えた。どうやら眩しさの原因は体育館の照明らしい。
私は再び瞳を閉じた。意識だけは冴え渡っていく。
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