リバースアイデンティティー

海獺屋ぼの

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リバースアイデンティティー⑦

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 一月二〇日。あの惨劇から三日目。体育館には生活感が満ち始めてた。布団やレジャーシートが日常というのも変な話だけど。
「繁樹行くでー」
「おう、その前にウチ寄ってもええか? ギター取りに行きたい」
「せやな。したら繁樹んち先に行くか」
 私は繁樹に声を掛けるとベースケースと簡単な荷物を担いだ。
「コウタ、準備しいや。今からヒロんち行くから」
「ちょっと待ってぇ」
 浩太郎は慌てながら荷物をデイバッグに詰める。心なしか弟は嬉しそうだ。
 ヒロの家に行く。それは私にとっても嬉しいことだった。少し下心を言えば彼女の家でシャワーを浴びたい。どう足掻いたってここでは風呂に入れないのだ。他の被災者には申し訳ないけれど今回はヒロに甘えようと思う。
 出がけに体育館を見渡す。二日前に比べると幾らか避難民が減ったようだ。おそらく何世帯かは家に帰ったり、親類の家に避難したのだろう。
「逢子ー。したら行くで」
「うん」
 ヒロの声を合図に私たちは立ち上がった。目指すは羽島邸。邸宅というには少し小さいけれど。
「ヒロんちアンプあったっけ?」
「あるで。そないええもんやないけどな」
 あるだけ上等だ。未だに電気が復旧していないのにアンプが使えるのはかなりありがたい。
「お待たせ!」
 ヒロと話しているとデイバッグを背負った浩太郎がやってきた。何をそんなに詰め込んだのか、バッグはパンパンに膨れている。
「準備終わったか?」
「うん!」
「……したら行こう」
 遠足気分……。とまでは言わないけれど浩太郎ははしゃいでいるように見えた。外出できるだけで楽しい。浩太郎の気持ちを考えるときっとそんな感じなのだろう。
「羽島くんちは大丈夫なん? 家壊れたんやろ?」
「ん? ああ、少しな……。でも母屋は無事やで。ばあちゃんのおる隠居がやられた」
 繁樹の家の構造は別棟二世帯住宅だ。母屋と呼ばれているのが繁樹たちの住居。隠居は彼の祖母の住居だ。たしか隠居はかなり古かったと思う。
「繁樹んちも大変やな」
「ん? まぁまぁな。お前んちのが大変やろ?」
「まぁなぁ……」
 そんなやりとりをしていると変な気持ちになった。繁樹の言うとおり、私の家の方が数段悲惨なのだ。
 でも……。あそこまで壊れると逆に気にならないらしい。どう足掻いたってあのぺしゃんこな家は元には戻らない。そう決まってくれたほうが気持ち的には楽なのかもしれない。
「あんな逢子。落ち着いたらしばらくウチに住まん? 父ちゃんもええってゆーとったし」
 ヒロはサラっとそんなことを言った。
「それは……。ありがたいけど……。でも私だけは決めれんわ。父ちゃんにも聞いてみんと」
「うん、もちろん。逢子の父ちゃんがええってゆーたらやで。ま、ウチはかまへんから困ったらゆうてな」
「うん。ありがとう」
 ヒロの提案は正直とてもありがたかった。でもさすがにそこまで世話になるわけにもいかないだろう。おそらく父だってそう言うはずだ。
 そんな話をしながら私たちは繁樹の家まで歩いた。眩しい日差しと冷えた空気。一月の寒さが酷く肌に染みる。
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