日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの

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第六章 オフィス・トライメライ 幕張研修所

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 母との通話を終えると私たちは一旦トライメライの受付に向かった。そして受付の女性から研修所の鍵を受け取るとすぐにトライメライを出た。出雲社長には会わない。弥生さん曰く、「挨拶に来ないでいいって」とのことだ。
 その足で研修所に向かう。どうやらここから研修所は比較的近くにあるらしい。
「お昼食べたファミレスのすぐ近くだから」
 弥生さんはそう言うと真っ直ぐ前を見て研修所に向かった。私はそれに早足でついて行く。
「弥生さんたちってよく幕張来るの?」
「まぁね。一応こっちがエレメンタルの本社だからねぇ。どうして?」
「いや……。道に詳しいからさ」
「ああ、そっか……。聖那ちゃん的にはそう感じるよね。イベントでもなきゃ幕張なんて来ないもんね」
 弥生さんはどこか含む言い方をすると横断歩道の歩行者用ボタンを押した。横断歩道の向こう側には昼食を食べたファミレスが見える。
「しっかし……。参ったね」
 弥生さんは気が滅入っているように言うと深いため息を吐いた。私は「そうだね」とだけ返す。我ながらつまらない返事だと思う。
「まぁ……。面倒事は今始まったことじゃないんだけどね。逆に普段は私がメイリンを振り回してる感じだし」
「……そうなの?」
「ああ、そうだよ。だって無理言って魔法少女の世界にあの子を引っ張り込んだの私だし……」
 弥生さんは横断歩行の先の方をボーッと眺めながらそう言うと「だからね。メイリンに続いて聖那ちゃんが入ってくれてすごく嬉しいんだよ」と付け加えた。本音と建前。言い回し的にその両方が入り交じっているように聞こえる。
「そんなそんな。私はただお金欲しかっただけだから……。なのに二人には散々迷惑掛けちゃって」
 私はそこまで話してまた言葉に詰まってしまった。なんか今日はダメだ。美鈴さんと話したときもそうだったけれど今日は会話のリズムが良くない気がする。
 そうこうしていると信号が青に変わった。その奥で太陽が小憎らしいくらい茜色に染まっていた――。

 例のファミレスを通り過ぎて細い裏路地に入るとその建物はあった。それはまるで民家のようで一見すると研修所には見えなかった。二階建ての普通の一軒家。そんな風に見える。
「私もここ来るのは数ヶ月ぶりだよ」
 弥生さんはそう言いながら引き戸の鍵を開けた。そしてカチッという音が鳴ると扉を左側にスライドさせた。扉が開放されると中から消毒液の匂いが漂ってくる。どうやら普段からここは誰かに利用されているらしい。
「入って」
「うん」
 私は促されるままその建物の中に入った。玄関には『株式会社ニンヒアレコード』という会社のカレンダーとここの利用規約が貼られていた。あとは……。下駄箱の横に小さなテーブルが置かれ、その上にデジタル時計とキャンパスノートが置かれていた。キャンパスノートの上には太字で『利用者ノート』と書かれている。
 私がそうやって玄関を物色していると弥生さんがデジタル時計を見ながらその『利用者ノート』に何やら書き始めた。
「ここ使うときは入った日時と出た日時書くきまりなんだ」
「そうなんだ。……けっこうきっちりしてんだね」
「うん。まぁ一応ね。ああ見えてトライメライ割と大きな会社だからさ」
 弥生さんはそう言うとそのキャンパスノートを閉じた――。
 
 それから私たちは奥の部屋に進んだ。奥は鏡張りの大きな部屋で近所のバレエ教室によく似ていた。おそらくここでダンスレッスンなんかをするのだと思う。
「とりあえず適当なとこ座って待ってて! ちょっとコンビニ行ってくるから」
 弥生さんはそう言うと急ぎ足でコンビニに行ってしまった。やはり弥生さんは美鈴さんよりだいぶマイペースな性格らしい。
 壁の全身鏡を見ると座る私の姿が映っていた。そこに映る私は夏休み前より幾分細身になった気がする。顔は小さく、腕は細く。胸は……。まぁ変わらないと思う。
 それから私は鏡の前に立つと身体をほぐすようにゆっくりとストレッチをした。元々身体は柔らかい方なのでそこまでキツくは感じない。
 段々と身体が柔らかくなっていく。それはとても気持ちが良かった。まるで身体中の筋が眠りから覚めるみたい。そう感じるほどに。
 そうやってストレッチしていると不思議と心が穏やかになった。仮に明日何があっても怖くない。もし失敗したとしてもそれを糧にしよう。素直にそう思えた。まぁ……。失敗しないに超したことはないのだけれど。
 そうこうしていると玄関に人の気配がした。どうやら弥生さんが帰ってきたらしい。
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