日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの

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第七章 水郷会児童福祉施設 あけぼし

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 車に乗るとすぐに高速道路の乗り口へ向かった。行き先は酒々井。当たり前だが来たときとは逆方向だ。
 何の気なしに弥生さんの顔を見る。すると彼女の顔は普段と違ってバッチリメイクされていた。そして瞳の色はいつも通りの茶色。どうやら弥生さん的にはカラーコンタクトを付けているのがデフォルトのようだ。そこには弥生さんの青い目は隠したいという意図があるように感じる。
 私がそんなことを考えている間にも車は酒々井に刻一刻と近づいていた。いよいよ私の魔法少女デビュー戦も目前だ――。

 酒々井インターチェンジを降りて一般道に戻ると逢川さんが「エレメンタルで香取ちゃん待ってるから」と言った。そして「諏訪ちゃんにも用事あるからちょっと寄ってくね」と続けた。諏訪さん……。昨日弥生さんの話を聞いてから謎が増えたエレメンタルの受付の人だ。
「酒々井に来たの久しぶりです」
 香澄さんが車窓から景色を物珍しそうに眺めながらそんなことを言った。
「だよねぇ。香澄ちゃんの生活圏って千葉市内だもんね」
「うんうん。こっち来るのは叔父さんの付き添いで成田行くときだけだからねぇ」
 叔父さんの付き合い。成田……。そう言われて私は昨日聞いたデトロイトでの撮影の話を思い出した。おそらく香澄さんは今でも蔵田店長と一緒に飛び回っているのだろう。そのことは香澄さんの口ぶりから何となく推測できた。
「将来はやっぱり服飾デザイナーになりたいんですか?」
 私は香澄さんにそう尋ねた。香澄さん一つ返事で「はい!」と元気よく答える。
「ずっとそのために叔父さんの後ついて回って来ましたからねぇ。それで……。いつかは自分のブランド持ちたいんですよね。まぁ……。何十年先になるか分からないんですけどね」
 香澄さんはそう言うと照れ笑いを浮かべた。その表情は今まで見た彼女のどの表情より輝いて見えた。夢を語る。それだけのことなのにそれが香澄さんの全てのように思えた。きっと彼女にとって服飾はそれほど大きい存在なのだろう。
「香澄ちゃんなら叶うよ」
 不意に弥生さんがそう呟いた。そして「香澄ちゃん努力家だしね」と付け加える。
「そんなそんなぁ。弥生ちゃんだって努力家じゃん! きっと弥生ちゃんなら良い役者さんになれると思うよ!」
 香澄さんはそう言うと穏やかに微笑んだ。そしてすぐにその笑みは消えて切ない表情に変わった。そこには香澄さん自身の弥生さんへの願望、そしてそれを言ってしまったことへの後悔の色が浮かんでいる。
 私はそんな香澄さんの顔を見て天沢天音のことを思い浮かべずにはいられなかった。もう既にこの世にはいない。そんな彼女のあの屈託のない笑顔が脳裏に浮かぶ。まぁ……。私自身は天沢さんを画面越しでしか見たことがないのだけれど。
「ありがと。でもねぇ……」
 弥生さんは無理に作った笑顔でそう返すと「うーん」と唸った。そして続ける。
「私はもう役者にはならないと思うよ。そりゃあアルバイトでエキストラぐらいはするかもだけどさ……。でもこれはただの小遣い稼ぎだから……」
 彼女はそこまで話すと「ま、お仕事する以上は頑張るけどね」と弁明するみたいに付け加えた――。
 
 それから程なくして車はエレメンタルに到着した。エレメンタルの前には美鈴さんのバイクが停まっていた。
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