日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの

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エピローグ 日給二万円の週末魔法少女

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 『魔法少女追加募集!』

 そんな求人広告を見たのは九月初旬の日曜日のことだ。募集要項は私が応募したときとほとんど変わらない。変わったのは『追加』という文字だけのようだ。
「麗子さーん。新人さんの応募あったんでしょ?」
 美鈴さんはそう言うと求人情報誌を諏訪さんに向けて振って見せた。諏訪さんは「ええ」と答えると事務仕事の手を止めて顔を上げる。
「一応、二名ほど私が面接させていただきました。採用の有無は社長判断なので……。私には分かりませんけどね」
 諏訪さんはそう言うと口元に手を当てた。そして「もし採用になったらすぐにお知らせしますね」と続ける。
「うん、お願いね。こっちとしても……。毎回二人じゃキツいんだよねぇ。鹿島ちゃんも毎回は来れないみたいだしさ」
「そうですね。そこら辺も加味しての採用になるとは思います」
 諏訪さんはそれだけ言うと再び事務仕事に戻った。どうやら応募してきた人間について詳しく教える気はないらしい。諏訪さんはこういうところが信用できる人なのだ。個人情報の扱いに関しては本当に卒が無いと思う。
「……にしても聖那すごいじゃん。初回からちゃんとバッファー熟してさ。正直今日は不安だったんだよね。ま、取り越し苦労だったけど」
「ハハハ……。そう言って貰えたなら良かったよ。私もねぇ。それなりに弥生さんの動き勉強したからさ」
「いや、マジで聖那演技センスあるわ。あれだけやってくれたらこっちも殺陣に集中できるからさぁ」
 美鈴さんはそう言うと事務所のソファーに目深に座った。やっぱり偉そうな座り方だ。そう言えば美鈴さんと最初にあったときもこんな感じだっけ。そんなことを思い出した――。
 
 百里基地公演を最後に弥生さんはエレメンタル所属の魔法少女を辞めた。そして私が彼女の後任の魔法少女となった。理由は弥生さんの持っていた『華』を補うため。流石にアタッカーとヒーラーの二人では舞台上の動きが単調になってしまうのだ。
 諏訪さん曰く『トドメを入れるキャラと補助魔法でサポートするキャラはワンセットで用意しないとシナリオを書くのがクソ面倒なんですよ』とのことだ。クソ面倒……。諏訪さんの丁寧な口調から発せられたその言葉はかなり面白かった。丁寧で卒が無い完璧事務員。そんな彼女の本来の姿が少し見えた気がする。
 ともかくそんな感じで私は弥生さんの後任になったわけだ。まぁ、弥生さんの抜けた穴はとてつもなく大きいのだけれど。
 そんな話をしていると美鈴さんのスマホに着信が入った。
「お、鹿島ちゃんからだ。もしもーし」
 そう言って美鈴さんは電話に出た。そして少し話すと「んじゃ来週よろしく」と言って電話を切った。その口ぶりから察するに来週の興業には香澄さんも来られるらしい。
「香澄さん何だって?」
「ああ、来週からはちゃんと来るってさ。……ったくあの子も忙しいよね。だって先週は東京で今は沖縄じゃん? ま、スタイリストってそんなもんなのかもだけどさ」
 美鈴さんは感心したような、呆れたような風に言うと天井を見上げた。そして「弥生も頑張ってるって」と続ける。
「そっか。それなら良かったよ。それにしても……。弥生さんも大変だよね。打ち合わせしたらすぐ沖縄ロケなんて」
「それな。マジでキツそうだよねぇ。いくらアイツが移動中に寝れる体質だからって……。完全に合宿だよね」
 美鈴さんはそう言うと深いため息を吐いた。そして諏訪さんに「麗子さーん。アイツ大丈夫かな?」と話を振る。
「大丈夫だと思いますよ。弥生ちゃんアレで結構タフですからね」
「そっか。麗子さんがそう言うなら大丈夫なんかな? つーか、ちょっと羨ましいなぁ。沖縄だよ沖縄! 青い海に白い砂浜! 私も着いてきゃ良かった!」
「フフフ、そうですよねー。私も行ってみたかったです」
 諏訪さんは当たり障りのない相づちを打つと美鈴さんに向かって微笑んで見せた。その顔はどことなくスッキリしているように感じる。
「ねー。マジでさ。……しっかし、エレメンタルも大変だよね。逢川さん本社に戻っちゃって麗子さんも社長も忙しくなったんじゃない?」
「そうですね……。逢川さんの穴は確かに大きいです。あの方がここの営業所の実質トップでしたからね。でもまぁ、大丈夫ですよ。出雲社長が本社から一人出向させてくれるそうですから」
「……ま、そんな感じだよねー。先が思いやられるよ」
 美鈴さんはそう言うとまた深いため息を吐いた。やはり美鈴さん的には弥生さんと逢川さんがいなくなったことが余程堪えているらしい――。

 それから私は自宅に戻った。そして自分の衣装を洗濯機に放り込んだ。既に魔法少女業のことは母に露見しているので今更隠れて洗濯する必要もないだろう。
「今日は早かったね」
 私が洗濯していると母がそう言って顔を覗かせた。私は「うん」とだけ返す。
「それにしてもあんたのバイト先寂しくなったでしょ? 春日さん抜けて」
「そうだねぇ。でもまぁ仕方ないよ。あの子もやりたいことあるみたいだし」
「そっか。まぁ若いうちから夢持てるのは良いことよね」
 母はそう言うと大あくびして作業部屋に戻った。今月の母はかなり忙しそうなのだ。もしかしたらあまり寝ていないのかな。そう感じるほどに。
 洗濯が終わるまでの間。私は洗濯機の前でガンスピンの練習をした。使っているのは弥生さんの愛銃アウレリアヌスではない。香澄さんに仕入れて貰った私専用の新しい銃だ。商品名はマジカルガールオートマチックハンドガンA型ピンク。クリアマガジンレインボーバレット仕様。トリガー連動発光タイプだ。まぁ……。流石にそれじゃ長すぎるから普段は諏訪さんが付けてくれた『タキトゥス』という名前で呼んでいるのだけれど。
 クルクルとタキトゥスを指先で回す。何回も練習したお陰か銃が指に吸い付くような感覚を覚えた。もしかしたら弥生さんもこんな感じでガンスピンしてたのかな? そんなことを思った――。

 数日前の夜の出来事だ。弥生さんが私の家にやってきた。
「遅くにごめんね」
 彼女はそう言うと申し訳なさそうに頭を下げた。そして「これつまらないものだけど」と紙袋を差し出した。またしてもお土産。最近はみんなから色々貰いすぎな気がする。
「そんな……。気を遣わないでもいいのに」
 私は毎度のことのようにそんなことを言って荷物を受け取った。中身はピーナッツ最中。ああ、また母の大好物か……。と内心思う。
「今から沖縄行くんだ。だから行く前に聖那ちゃんに挨拶だけしとこうと思ってね」
「そっか。もう撮影入るんだね?」
「うん。春川さんに急かされてさ。なんかスケジュールだいぶ押してるんだって」
「そうなんだ。じゃあしばらくは忙しいんだね」
「まぁね。だから……。近いうち酒々井からも離れると思う」
 弥生さんはそう言うと寂しげに微笑んだ。そして「ちょっと外歩かない?」続ける。
 それから私たちは薄暗い道を新勝寺方面へ向かって歩いた。そして他愛のない話をたくさんした。美鈴さんのこと、香澄さんのこと、逢川さんのこと、諏訪さんのこと。そして天沢さんと篠田さんのことを。
「聖那ちゃんには感謝してもしきれないよ。だって聖那ちゃんがいなかったら私ずっとエレメンタルでバイトしてたと思うし」
 弥生さんはそう言うとバッグからハンドガンを取り出した。そしてそれを私に差し出すと「ガンスピンしてみて」と続ける。
 私はそれを受け取ると半ば脊髄反射的にガンスピンをした。左手で銃を七周半回して天に投げる。そして私自身がターンして右手でキャッチ。そんな動きをした。何回も練習したお陰で一発で成功。手前味噌だけれどこの動きだけならもう完璧だと思う。
「流石だね。まさか二週間でマスターするとは正直思ってなかったよ」
 弥生さんはそう言って小さく拍手すると私の手からハンドガンを受け取った。そして空気でも吸うみたいに私と全く同じ動きをして見せた。やっぱり弥生さんのガンスピンは美しい。素直にそう思う。
「ほんと……。私の役引き継いでくれて良かったよ。だってもし聖那ちゃんがバッファー引き継がなかったら魔法少女事業はやめる方針だったみたいだからさ」
「……だろうね。出雲社長ならそう考えると思ってたよ」
「うん。叔母さんはさ。仕事となると結構冷酷な判断するんだよね」
 弥生さんはそう言うとハンドガンをバッグに戻した。そして呆れたみたいなため息を吐く。
「でもこれで良かったんじゃないかな? メイリンだって日給二万円のお仕事なくすのは惜しいだろうし」
「それは……。そうだね。ってか本心言うと私が一番困るんだよね。お金必要だし……。だから無理してでもこの仕事は残したかったんだ」
 そう。私は多少の無茶してでも魔法少女業を残す必要があったのだ。破格の日給と土日だけというシフト。おそらく印旛地方でこれ以上に好条件のアルバイトはそうそうないと思う。
「ハハハ……。ま、叔母さんも根負けした形だね。……そういえば今度また篠田先生に会うんだ」
「篠田先生に?」
「うん! あれからちょくちょく連絡取り合っててね。たまに相談乗って貰ってるんだ。本当夢みたいだよ」
 弥生さんはそう言うと息を整えるみたいに深呼吸した。そして「憧れに手が届くのって最高だね」と続けた。弥生さんからしたら本当に夢見たいな話なのだと思う。
「本当に運が良かったよ。ウチのお母さんがたまたま篠田さんと友達で良かった……」
「ね! マジでそうだよね。だから私にとって聖那ちゃんと聖那ちゃんのお母さんは神様みたいなもんなんだよね。……今更だけどありがとうね」
 弥生さんはそう言うとニッコリ笑った。最高に可愛い笑顔だ。やはり私たち魔法少女四人の中で弥生さんが一番『華』があると思う。
「……篠田先生さ。私が俳優業復帰するって言ったら喜んでくれてね。『漫画家目指すにしても良い経験になる』って言ってくれたんだ。すっごい嬉しいよね。だってこれで二つの夢同時に追えるんだもん」
 弥生さんはそう言うと大きく背伸びをした。そして「ようやく天沢さんの思いにも応えられるよ」と付け加えた――。

 洗濯機が止まると私は魔法少女の衣装を自室のベランダに干した。まだ夕暮れまでは時間がある。上手くいけば今日中には乾くはずだ。
 それから私はベッドに身を投げてスマホでニュースを適当に読んだ。そしてそのニュースの中に気になる記事を二つ見つけた。一つは弥生さんがPV出演するアーティストの記事。もう一つは……。『アポカリプティックガールズ~終末魔法少女~』リメイク決定という記事だ。
 私はそんな二つの記事を読んでいる間に眠ってしまった。半覚醒の意識の隅に飛行機が飛び去る音が聞こえた気がした――。
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