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アホ王子への教育とこの異世界
第24講 『奇術と夢と松旭斎天洋 ~“見せる力”が世界を渡った時~』
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王宮の大広間。
磨き上げられた床の中央で、王子が目を輝かせていた。
「……なんだ、あれは!? 人が宙に浮いてるぞ!」
舞台上では、異国から来た旅芸人が、まるで重力を裏切るかのように女性をふわりと浮かせてみせていた。
客席は拍手喝采。王子は前のめりになり、私の袖を引っ張る。
「コヒロ! あれは魔術か!? 呪文か!?」
「落ち着け、アホ王子。あれは“イリュージョン”――テクニックのいる奇術だ」
「奇術……?」
「そう。魔法じゃない。タネと仕掛けを巧みに使い、人を驚かせ楽しませる技術だ」
そう告げると、王子は半信半疑の顔で舞台を見つめた。
「ふーん……じゃあ、誰がそんなことを始めたんだ?」
私は、うなずいて言った。
「今日はその話をしよう。松旭斎天洋――明治から昭和にかけて、日本を代表するイリュージョニストだ」
*
「まず奇術とは、観客の目と心を巧みに操り、現実には不可能なことを“起こったように見せる”芸だ」
私は王子の前に置いた椅子を指さす。
「そこに座ってみろ」
王子が腰掛けた瞬間、私は袖口から小さな紙吹雪をひらりと散らした。
「おおっ!? どこから出したんだ!?」
「これが奇術の入り口だ。仕掛けを知れば単純だが、観客は一瞬の驚きに心を奪われる」
松旭斎天洋とは
「松旭斎天洋は、もともと大道芸人の家に生まれ、奇術の技を磨きながら全国を巡業した」
私は、黒布を使って消えたように見せる簡単な手品を王子に見せつつ続ける。
「彼は和服姿で舞台に立ち、日本的な所作と西洋式のイリュージョンを融合させた。その優雅さと大胆さから、“日本の奇術王”と呼ばれた」
「明治の終わり、彼は海を渡り、アジアやヨーロッパで公演した。現地の新聞は“東洋から来た不思議な紳士”と大絶賛だ」
「外国でも通用したのか!」
「そうだ。言葉が通じなくても、奇術は通じる。天洋はそれを証明した」
「ある舞台では、観客の目の前で自分の首を切り離し、それが宙に浮かぶという幻影を作った。観客は悲鳴と拍手で大騒ぎだった」
「え……怖くない?」
「怖さと驚き、その両方を与えるのもまた奇術だ」
「戦争の最中でも、彼は慰問先で奇術を披露した。物資も少なく、道具も限られていたが、それでも人々に笑顔を届け続けた」
私は王子の目を見て、ゆっくりと締めくくる。
「奇術はただの娯楽じゃない。人を元気づけ、希望を見せる力を持っている。それを天洋は生涯示し続けたんだ」
「……なるほどな。奇術というのは、人の心を楽しませ、驚かせ、そして夢を与えるものか」
王子は珍しく真剣な顔でうなずいた。
「そうだ。天洋はそれを世界中でやってのけた」
「うん……! 決めたぞ、コヒロ!」
……嫌な予感しかしない声色だ。
「我がトラディア王国にも“王立奇術師団”を作る!」
「は?」
「観客を笑顔にし、敵を幻惑する――まさに一石二鳥! まずは兵士たちに奇術を習わせよう!」
*
数時間後。王宮中庭。
「さあリョーキュー! いくぞ!」
「はい殿下! 全肯定の私に不可能はありません!」
王子と女官リョーキューは、木箱の中に自分たちを押し込み、
「瞬間移動の奇術」をやろうとしていた。
「殿下、次はどうすれば?」
「扉を閉めたら、勢いよく飛び出す! これで我らは忽然と消えるのだ!」
「わぁ、楽しそうです!」
……結果。
二人そろって箱ごと横倒しになり、見事に中で絡まった。
「うわあああああ! コヒロ! 助けて!」
私は呆れながら駆け寄り、木箱をこじ開ける。
「だから! 本当にタネも仕掛けもなかったら、それはただの無謀なんだよ!!」
王子は鳩の羽まみれ、リョーキューは満面の笑みで「楽しかったです!」と答えた。
私は両手で顔を覆い、深くため息をついた。
磨き上げられた床の中央で、王子が目を輝かせていた。
「……なんだ、あれは!? 人が宙に浮いてるぞ!」
舞台上では、異国から来た旅芸人が、まるで重力を裏切るかのように女性をふわりと浮かせてみせていた。
客席は拍手喝采。王子は前のめりになり、私の袖を引っ張る。
「コヒロ! あれは魔術か!? 呪文か!?」
「落ち着け、アホ王子。あれは“イリュージョン”――テクニックのいる奇術だ」
「奇術……?」
「そう。魔法じゃない。タネと仕掛けを巧みに使い、人を驚かせ楽しませる技術だ」
そう告げると、王子は半信半疑の顔で舞台を見つめた。
「ふーん……じゃあ、誰がそんなことを始めたんだ?」
私は、うなずいて言った。
「今日はその話をしよう。松旭斎天洋――明治から昭和にかけて、日本を代表するイリュージョニストだ」
*
「まず奇術とは、観客の目と心を巧みに操り、現実には不可能なことを“起こったように見せる”芸だ」
私は王子の前に置いた椅子を指さす。
「そこに座ってみろ」
王子が腰掛けた瞬間、私は袖口から小さな紙吹雪をひらりと散らした。
「おおっ!? どこから出したんだ!?」
「これが奇術の入り口だ。仕掛けを知れば単純だが、観客は一瞬の驚きに心を奪われる」
松旭斎天洋とは
「松旭斎天洋は、もともと大道芸人の家に生まれ、奇術の技を磨きながら全国を巡業した」
私は、黒布を使って消えたように見せる簡単な手品を王子に見せつつ続ける。
「彼は和服姿で舞台に立ち、日本的な所作と西洋式のイリュージョンを融合させた。その優雅さと大胆さから、“日本の奇術王”と呼ばれた」
「明治の終わり、彼は海を渡り、アジアやヨーロッパで公演した。現地の新聞は“東洋から来た不思議な紳士”と大絶賛だ」
「外国でも通用したのか!」
「そうだ。言葉が通じなくても、奇術は通じる。天洋はそれを証明した」
「ある舞台では、観客の目の前で自分の首を切り離し、それが宙に浮かぶという幻影を作った。観客は悲鳴と拍手で大騒ぎだった」
「え……怖くない?」
「怖さと驚き、その両方を与えるのもまた奇術だ」
「戦争の最中でも、彼は慰問先で奇術を披露した。物資も少なく、道具も限られていたが、それでも人々に笑顔を届け続けた」
私は王子の目を見て、ゆっくりと締めくくる。
「奇術はただの娯楽じゃない。人を元気づけ、希望を見せる力を持っている。それを天洋は生涯示し続けたんだ」
「……なるほどな。奇術というのは、人の心を楽しませ、驚かせ、そして夢を与えるものか」
王子は珍しく真剣な顔でうなずいた。
「そうだ。天洋はそれを世界中でやってのけた」
「うん……! 決めたぞ、コヒロ!」
……嫌な予感しかしない声色だ。
「我がトラディア王国にも“王立奇術師団”を作る!」
「は?」
「観客を笑顔にし、敵を幻惑する――まさに一石二鳥! まずは兵士たちに奇術を習わせよう!」
*
数時間後。王宮中庭。
「さあリョーキュー! いくぞ!」
「はい殿下! 全肯定の私に不可能はありません!」
王子と女官リョーキューは、木箱の中に自分たちを押し込み、
「瞬間移動の奇術」をやろうとしていた。
「殿下、次はどうすれば?」
「扉を閉めたら、勢いよく飛び出す! これで我らは忽然と消えるのだ!」
「わぁ、楽しそうです!」
……結果。
二人そろって箱ごと横倒しになり、見事に中で絡まった。
「うわあああああ! コヒロ! 助けて!」
私は呆れながら駆け寄り、木箱をこじ開ける。
「だから! 本当にタネも仕掛けもなかったら、それはただの無謀なんだよ!!」
王子は鳩の羽まみれ、リョーキューは満面の笑みで「楽しかったです!」と答えた。
私は両手で顔を覆い、深くため息をついた。
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