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アホ王子への教育とこの異世界
第27講 『妄想と浪漫と小谷部全一郎 ~“トンデモ説”が喝采を浴びた時~』
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夕方の王宮図書室。
ケイ王子が分厚い魔導書を抱えて走り回っていた。
「コヒロ! 聞けよ! すっげー説を発見したぞ!」
「……今度は何だよ」
私は書見台に広げていた地図から目を上げる。
「この大陸の北の蛮族王と、南の砂漠の預言者は、実は同一人物だったんだってさ! しかも王国の祖先は、全部天空から降りてきた鳥人だったんだって!」
召使いたちが苦笑いする中、王子は目を爛々と輝かせている。
「……………………」
私は額を押さえた。
(あー……出たな、トンデモ説。異世界でもあるんだな、こういうの……)
「な、なにその顔! おもしろいじゃん! 僕も今から“ケイ王子=古代竜王の末裔”説を広める!」
「やめろ」
私は王子の肩を掴み、椅子に座らせた。
「王子。そういうトンデモ説を本気で広めた人物が、私のいた世界にもいたんだよ」
「えっ、マジで!? 誰だそいつ!」
「小谷部全一郎。学者でも宗教家でもありながら、トンデモ説をぶち上げまくった人物だ」
王子が食いつく。
「トンデモ説……すげえ! もっと教えろ!」
「……よし。じゃあ今日は“小谷部全一郎”の講義だ」
*
私は黒板に大きく書いた。
『|小谷部全一郎――トンデモ説の伝道者』
「小谷部全一郎。明治の日本に生まれ、海外に渡り、宗教活動をしたり、講演をしたりした人物だ。真面目な活動も多かった。だが彼の名を有名にしたのは――“トンデモ説”だ」
ケイ王子がきらきらと目を輝かせる。
「来た来た! 僕の大好物!」
トンデモ説① 歴史英雄は別人だった説
「彼は、歴史に名高い英雄……源義経が実は“別の人物……ジンギスカンと同一だった”と主張した。
……王子がさっき言ってた“北の蛮族王と南の預言者は同一人物説”と同じだ」
「うおぉ! じゃあやっぱり僕の発見と同じじゃん!」
「いや、お前のはただの妄想。小谷部のは“学説っぽく見せかけた妄想”だ」
トンデモ説② 民族の祖先大移動説
「さらに彼は“日本人の祖先は遠い異国の民……ユダヤ人と同じだった”と語った。
古代の儀式や言葉の響きを無理やり結びつけ、“だから同じだ!”と。
……要するに根拠は薄い。だがキャッチーで分かりやすいから、聴衆は飛びついた」
王子は机を叩いて笑った。
「おもしろすぎる! 俺も“トラディア王国の祖先は全部天空竜だった説”で講演する!」
「やめろアホ」
トンデモ説③ 世界の偉業は日本起源説
「さらにさらに。“世界の大発見や大発明は、実は日本起源だ”とも言い出した。
ピラミッドも、大陸横断の旅も、“もとは日本人がやったんだ”と」
「……それ、もう何でもアリじゃん」
「そう、だから“トンデモ”なんだよ」
『なぜ広まったか』
私はチョークを置き、王子を見据える。
「じゃあなぜ、こんな説がもてはやされたのか。
それは“受けが良い”からだ。人はわかりやすい物語や浪漫を好む。歴史の真実よりも、面白い話を信じたがる。小谷部全一郎は、それを誰よりも知っていた」
私は深く息を吸い、声を張り上げる。
「我は小谷部全一郎!
人々を熱狂させるのは、事実じゃない! ロマンだ!
英雄は生き延びて世界を制覇し、民族は海を越えて繋がっている! すべての偉業は我らの祖先のものだ! そう語れば、人々は喝采し、胸を熱くする! 事実がどうであれな!!」
私は机を叩きつけ、黒板に大きく書いた。
『トンデモ説――事実ではなく、大衆を動かす物語』
教室に静寂が落ちる。
王子はしばし口を開けたまま固まっていたが、やがてにやりと笑った。
「……最高だな、それ。俺もやる!」
「やめろぉぉぉ!!」
*
講義を終えると、ケイ王子は両手を組んで感極まったように叫んだ。
「……いやぁ、トンデモ説って最高だな! だって面白いし、浪漫あるし! 俺も広めたい! “ケイ王子は実は天空竜の直系の末裔で、将来は大陸を統一する”説だ!」
「…………」 私は額に手を当てた。
「おい、それ一番ヤバいやつだからな」
「いいじゃん! 皆が信じれば俺の人気爆上がりだぞ! 今日から俺は“竜王子ケイ”だ!」
「やめろバカ!」
ところが王子は止まらない。魔導院に向かって走り出し、研究用の大広間で勝手に演説を始めてしまった。
「聞け! 魔導師たちよ! この王子こそ天空竜の末裔であり、未来の世界皇帝だ!」
集まっていた魔導師や学者たちは一瞬ぽかんとしたが、すぐに冷たい視線を送る。
「殿下……そのような根拠なき説を吹聴されるのはお控えください」
「トンデモは学問ではありませんぞ」
「我ら魔導院の名に泥を塗らないでいただきたい」
王子は「えっ……?」と固まる。
私はずかずかと壇上に上がり、王子の耳を引っ張った。
「ほら見ろ! トンデモ説は人を動かすかもしれんが、権威ある場所で言えば即効で信用を失うんだよ!」
「い、痛い痛い! やめろコヒロ!」
アシュリー先生も背後で厳しく言い放つ。
「殿下。トンデモ説は娯楽として聞く分には結構ですが、王子が広めれば“虚言”としか見られません。即刻おやめなさい」
王子は肩を落とし、ぶつぶつとつぶやいた。
「……俺の竜王子説、ダメだったかぁ……」
私は大きなため息をつき、頭を抱えた。
「……小谷部全一郎は異世界にもいるんだな。よりにもよって目の前に」
ケイ王子が分厚い魔導書を抱えて走り回っていた。
「コヒロ! 聞けよ! すっげー説を発見したぞ!」
「……今度は何だよ」
私は書見台に広げていた地図から目を上げる。
「この大陸の北の蛮族王と、南の砂漠の預言者は、実は同一人物だったんだってさ! しかも王国の祖先は、全部天空から降りてきた鳥人だったんだって!」
召使いたちが苦笑いする中、王子は目を爛々と輝かせている。
「……………………」
私は額を押さえた。
(あー……出たな、トンデモ説。異世界でもあるんだな、こういうの……)
「な、なにその顔! おもしろいじゃん! 僕も今から“ケイ王子=古代竜王の末裔”説を広める!」
「やめろ」
私は王子の肩を掴み、椅子に座らせた。
「王子。そういうトンデモ説を本気で広めた人物が、私のいた世界にもいたんだよ」
「えっ、マジで!? 誰だそいつ!」
「小谷部全一郎。学者でも宗教家でもありながら、トンデモ説をぶち上げまくった人物だ」
王子が食いつく。
「トンデモ説……すげえ! もっと教えろ!」
「……よし。じゃあ今日は“小谷部全一郎”の講義だ」
*
私は黒板に大きく書いた。
『|小谷部全一郎――トンデモ説の伝道者』
「小谷部全一郎。明治の日本に生まれ、海外に渡り、宗教活動をしたり、講演をしたりした人物だ。真面目な活動も多かった。だが彼の名を有名にしたのは――“トンデモ説”だ」
ケイ王子がきらきらと目を輝かせる。
「来た来た! 僕の大好物!」
トンデモ説① 歴史英雄は別人だった説
「彼は、歴史に名高い英雄……源義経が実は“別の人物……ジンギスカンと同一だった”と主張した。
……王子がさっき言ってた“北の蛮族王と南の預言者は同一人物説”と同じだ」
「うおぉ! じゃあやっぱり僕の発見と同じじゃん!」
「いや、お前のはただの妄想。小谷部のは“学説っぽく見せかけた妄想”だ」
トンデモ説② 民族の祖先大移動説
「さらに彼は“日本人の祖先は遠い異国の民……ユダヤ人と同じだった”と語った。
古代の儀式や言葉の響きを無理やり結びつけ、“だから同じだ!”と。
……要するに根拠は薄い。だがキャッチーで分かりやすいから、聴衆は飛びついた」
王子は机を叩いて笑った。
「おもしろすぎる! 俺も“トラディア王国の祖先は全部天空竜だった説”で講演する!」
「やめろアホ」
トンデモ説③ 世界の偉業は日本起源説
「さらにさらに。“世界の大発見や大発明は、実は日本起源だ”とも言い出した。
ピラミッドも、大陸横断の旅も、“もとは日本人がやったんだ”と」
「……それ、もう何でもアリじゃん」
「そう、だから“トンデモ”なんだよ」
『なぜ広まったか』
私はチョークを置き、王子を見据える。
「じゃあなぜ、こんな説がもてはやされたのか。
それは“受けが良い”からだ。人はわかりやすい物語や浪漫を好む。歴史の真実よりも、面白い話を信じたがる。小谷部全一郎は、それを誰よりも知っていた」
私は深く息を吸い、声を張り上げる。
「我は小谷部全一郎!
人々を熱狂させるのは、事実じゃない! ロマンだ!
英雄は生き延びて世界を制覇し、民族は海を越えて繋がっている! すべての偉業は我らの祖先のものだ! そう語れば、人々は喝采し、胸を熱くする! 事実がどうであれな!!」
私は机を叩きつけ、黒板に大きく書いた。
『トンデモ説――事実ではなく、大衆を動かす物語』
教室に静寂が落ちる。
王子はしばし口を開けたまま固まっていたが、やがてにやりと笑った。
「……最高だな、それ。俺もやる!」
「やめろぉぉぉ!!」
*
講義を終えると、ケイ王子は両手を組んで感極まったように叫んだ。
「……いやぁ、トンデモ説って最高だな! だって面白いし、浪漫あるし! 俺も広めたい! “ケイ王子は実は天空竜の直系の末裔で、将来は大陸を統一する”説だ!」
「…………」 私は額に手を当てた。
「おい、それ一番ヤバいやつだからな」
「いいじゃん! 皆が信じれば俺の人気爆上がりだぞ! 今日から俺は“竜王子ケイ”だ!」
「やめろバカ!」
ところが王子は止まらない。魔導院に向かって走り出し、研究用の大広間で勝手に演説を始めてしまった。
「聞け! 魔導師たちよ! この王子こそ天空竜の末裔であり、未来の世界皇帝だ!」
集まっていた魔導師や学者たちは一瞬ぽかんとしたが、すぐに冷たい視線を送る。
「殿下……そのような根拠なき説を吹聴されるのはお控えください」
「トンデモは学問ではありませんぞ」
「我ら魔導院の名に泥を塗らないでいただきたい」
王子は「えっ……?」と固まる。
私はずかずかと壇上に上がり、王子の耳を引っ張った。
「ほら見ろ! トンデモ説は人を動かすかもしれんが、権威ある場所で言えば即効で信用を失うんだよ!」
「い、痛い痛い! やめろコヒロ!」
アシュリー先生も背後で厳しく言い放つ。
「殿下。トンデモ説は娯楽として聞く分には結構ですが、王子が広めれば“虚言”としか見られません。即刻おやめなさい」
王子は肩を落とし、ぶつぶつとつぶやいた。
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