誤召喚されたら生徒がアホ王子だった~歴女大学生、古今東西の人物史で教育する~

古木しお

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アホ王子への教育とこの異世界

第42講 『発明と情熱と平賀源内 ~“面白さ”が世界を動かした時~』

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 王宮の工房から、なにやら爆発音が響いた。

「……おい、まさかまた魔導院がやらかしたのか?」
 私は思わず立ち止まり、額に手を当てる。

 その煙の中から、ケイ王子が煤だらけで出てきた。
「コヒロ! 見ろよ、これ! “自動で動くお茶入れ器”!!」
「それ、ただの魔導壺じゃねぇか!」
「いや、魔石を入れると勝手に茶が出るんだぞ! すごくない!?」
「やかんに穴あけただけだろそれ!」

 リョーキューが後ろでバケツを持ちながら叫んだ。
「殿下ーっ!! 厨房が蒸気だらけですぅぅぅ!!」

 私は大きくため息をつく。
「……天才とバカは紙一重、ってやつか。
 ま、ちょうどいい。“発明狂”について教えてやるか」

 王子が目を輝かせる。
「発明狂!? なにそれ! 好き!!」
「だろうと思った。今日の題材は――平賀源内。日本の、いや、日本のダ・ヴィンチだ」
「ダ・ヴィンチ?」
「……あっ……そういやまだダ・ヴィンチ教えてなかったな……いや、今度教える! 今は気にすんな!」

 *

『平賀源内――「なんでも作ってしまう男」』
 黒板に書き、
「江戸時代の日本。
 “お上の決めたことに従え”が当たり前の社会で、
 一人だけ、全部ぶっ壊して生きた男がいた。
 それが平賀源内だ。」

 私は黒板に書く。
 発明家/科学者/医者/画家/小説家/鉱山技師/戯作者/コピーライター/実業家

「肩書が多すぎるだろ……」と王子が呟く。
「だよな。でも全部やってた。
 彼は“理性で理解する”より、“作って確かめる”タイプだったんだ」

 私は続ける。
「オランダ語を学び、西洋科学を独学で取り込み、
 “エレキテル”――つまり、電気を復元した。
 その時代に、だぞ? 
 江戸の庶民が“光る箱”を見て腰を抜かしたって記録もある」

 王子の目がまん丸になる。
「……コヒロ、電気って、あの雷のやつ?」
「そうだ。自然の力を“道具に変えた”ってわけだ。
 雷を恐れず、利用しようとした。まさに天才だ」

 私はチョークを走らせる。

 源内の名言:『世の中は面白くすれば面白い』

「彼は“真面目”より“面白さ”を信じた。
 “学問は堅苦しいものじゃない、人を笑顔にするものだ”ってな。
 “土用の丑の日にうなぎを食べよう!”って宣伝したのも彼の発想だ」
「えっ!? それ、あいつのせいなの!?」
「せいじゃねぇ、功績だ。商売が滅びかけてた鰻屋を救ったんだからな」

「……すご……。
 オレも“王様の日”とか作ったら民が喜ぶかな?」
「“ケイの日”とか? いやな祝日だな」
「ひどい!!」

 私は目を閉じ、いつもの“憑依モード”に入った。

「――拙者、平賀源内! 発明は遊び、遊びこそ学びなり!
 考えてばかりの奴は、作る前に死ぬぞ!
 理屈は後でついてくる! まず手を動かせ、火を起こせ、夢を描けぇぇぇ!!」

「きたーーっ!! コヒロの憑依魔術・江戸爆発モード!!」
 ケイ王子が拍手した。だからいい加減慣れろって。もうこうこれを楽しみにしてんじゃないのか?

 私は息を整え、
「でもな、源内の人生は派手で破天荒だけじゃない。
 彼は、時代の“枠”の中で生きられなかった。
 発明で食えず、仲間に裏切られ、
 最後は誤解から牢に入れられ……獄中で死んだ」

 私は少し声を落とす。
「それでも彼は、“やりたいことをやれた”人だった。
 ――“理解されない”ってことを恐れなかったんだ」

 ケイ王子は珍しく静かに頷いた。
「……僕、わかる気がする。
 誰も信じてくれなくても、やりたいことあるんだよな」
「それでいい。理屈より情熱で動く奴が、世界を変えるんだ」

 *

 ――翌日。
 王宮中庭に、謎の巨大な装置が出現した。

「“自動お辞儀式・民衆親和装置”……?」
 私は怪訝に読み上げた。

 装置の前に立つケイ王子が胸を張る。
「源内先生に学んで、僕が作ったんだ! ボタンを押すと民にお辞儀する像!」
「……嫌な予感しかしねぇ」

 王子がボタンを押す。
 ――ガガガガガ!
 巨大な王子像がギギギ……と前屈し、次の瞬間、首がスポーンッ!!

「うわぁぁぁ!? 僕の顔が飛んだぁぁぁ!!」
「だから言っただろ!? まず理性で考えろ!!!」

 爆煙の中で私は頭を抱えた。
 けれど、その笑い声を聞きながら、
 ふと空を見上げる。

(……まったく。アリストテレスが理性を授け、
 源内が情熱をくれた。
 このアホ王子、バランスだけは世界一かもな)
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