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アホ王子への教育とこの異世界
第54講 『監視と権力とジョン・エドガー・フーヴァー ~“守るはずの目”が暴走した時~』
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王宮の警備本部。
地図と書類が散乱した部屋で、シバール・ジョシュア将軍が重く口を開いた。
「……ここ数週間、工場と市場で“妙な盗難”が続いているのです。しかも組織的犯行です」
ケイ王子は机に片肘をつき、ふんと鼻を鳴らす。
「じゃあさ、とっ捕まえろよ! 警備隊は何してんだ?
怪しいやつらの情報を全部集めて、片っ端から締め上げろよ!」
シバール将軍の眉が、わずかにひくりと動く。
「殿下……それは“警備隊の仕事の原理を無視した命令”です。
闇雲な疑いは民の反発を招き、治安を悪化させるだけです」
「へぇ? じゃあどうすりゃいいんだよ。僕は王子だぞ?」
その瞬間、私は(また来たよ……)と深い溜息を吐いた。
「お前みたいに“全部監視しろ”って言い出して、本当に国家中を見張りだしたトンデモ野郎がいるんだよ、私の世界に」
ケイ王子が振り返る。
「……は? 誰それ?」
「ジョン・エドガー・フーヴァー。自由の大国・アメリカ合衆国に“超巨大な捜査機関FBI”を作り、
犯罪者のみならず、一般人や実業家、政治家……大統領すらも監視し始めた男だ」
王子は一瞬で青ざめた。
「……なんかヤバそうなヤツなんだけど」
「よーし、教室行くぞ。今日のテーマは《国家の目》だ……」
*
私は黒板に大きく書いた。
『ジョン・エドガー・フーヴァー――アメリカ最強の“監視王”』
「まず言っとく。こいつは“善か悪か”で語れる人物じゃない。天才と怪物を、紙一重どころか“同じ顔”でやった男だ」
「か、怪物!?」
王子が椅子ごと後ずさる。
「20世紀のアメリカで、彼は“小さな捜査局”を巨大なFBIへ変えた。
指紋、犯罪統計、科学捜査、全国ネットの通信……当時誰も思いつかなかった捜査を全部システム化した超絶有能マンだ」
「おお……なんかカッコいいじゃん」
「だがな」
私はチョークを折るほどの勢いで黒板を叩いた。
「有能すぎて、国家すら監視し始めたんだよ!」
「は!?」
「大統領でさえ逆らえなかった。政治家の秘密、スキャンダル、弱み……ぜーんぶ握っていた。
“何かあればリークするぞ”と暗に示して、歴代大統領は黙った」
「お、おい……大統領って一番偉い奴だろ……? そりゃ国への脅迫じゃないのか……?」
「そうだよ。でも“犯罪は減らす・組織も作る・国も守る”の三拍子が揃ってたから、誰も止められなかった」
王子は下唇を噛む。
「……権力が強すぎたってことか」
「そう。フーヴァーは“秩序の守護者”であり“恐怖の監視者”でもあった。
本人は国家のためと思っていたが、その力は民衆にとっては“見えない檻”にもなりうる」
私は続ける。
「彼の時代が終わると、“権力の集中は危険だ”とアメリカは制度を作って見直しを始めた。つまり――」
私は黒板に殴り書いた。
『情報を集めすぎれば、国家も王も狂う』
「これがフーヴァーの残した恐ろしい教訓だ」
王子は震えていた。
「……僕、さっき“全部監視しろ”とか言っちゃった……」
「そうだよアホ王子。権力者ほど“自分は正しい”と思い込みやすい。だからこそ、権力には“限界”と“透明性”が必要なんだ」
「……難しいな。
でも、なんか……悪いこと言った気がしてきた」
「わかってんね王子!!」
私は胸を張り、フーヴァーの人格を降ろした(と王子は本気で信じている)。
「私はジョン・エドガー・フーヴァー!犯罪者は逃さない! 情報は力!秩序は監視によって保たれるのだ!」
「こ、コヒロがフーヴァーになった!? やっぱり憑依魔術じゃねえか!」
「だが私はこうも言おう。――国家の目が肥大化すれば、自由は死ぬ!」
私は拳を天にかざした。
「監視は必要だ。だが、監視する側にも“監視”が必要なのだ!」
王子はぶるぶる震えながらメモを取っていた。
「こ、怖い! けど……すげぇ……!!」
*
その日の午後。
工場地区に視察に来たケイ王子が叫んだ。
「僕は今日から“監視王ケイ”だ!リョーキュー、全部記録しろ! 怪しいやつは! 全員! メモだ!!」
「殿下の慧眼……! すべて記録いたしますわ!!」
使用人たちが怯え、工員たちはざわめき、現場は大混乱に陥った。
そこへシバール将軍が静かにやってきて、一言。
「殿下。その“監視”は本日の工場の作業効率を著しく低下させています」
「えっ」
「作業員は皆“王子ににらまれている”と恐怖しています。
犯罪を抑えるどころか、“不信感”を生んでおります」
「……やっちまった……」
私は横からため息をつく。
「フーヴァーごっこなんかするからだよ。お前にはマルチタスクも監視国家も無理だよ、まだ」
「う、うるせぇ!! もうやんねーよ!!」
*
帰り道で、王子がぽつりと言った。
「……情報集めるのって、難しいな。一歩間違えたら、国が怖い場所になるんだな」
「それがわかれば世界が違う!」
「はいはい……もう僕は監視王やめるよ……」
「わかればよろしい」
そう言ったが、もっとやばい監視社会の国があったりすることはまだ王子には言わないでおこうと心の中でつぶやいた。
地図と書類が散乱した部屋で、シバール・ジョシュア将軍が重く口を開いた。
「……ここ数週間、工場と市場で“妙な盗難”が続いているのです。しかも組織的犯行です」
ケイ王子は机に片肘をつき、ふんと鼻を鳴らす。
「じゃあさ、とっ捕まえろよ! 警備隊は何してんだ?
怪しいやつらの情報を全部集めて、片っ端から締め上げろよ!」
シバール将軍の眉が、わずかにひくりと動く。
「殿下……それは“警備隊の仕事の原理を無視した命令”です。
闇雲な疑いは民の反発を招き、治安を悪化させるだけです」
「へぇ? じゃあどうすりゃいいんだよ。僕は王子だぞ?」
その瞬間、私は(また来たよ……)と深い溜息を吐いた。
「お前みたいに“全部監視しろ”って言い出して、本当に国家中を見張りだしたトンデモ野郎がいるんだよ、私の世界に」
ケイ王子が振り返る。
「……は? 誰それ?」
「ジョン・エドガー・フーヴァー。自由の大国・アメリカ合衆国に“超巨大な捜査機関FBI”を作り、
犯罪者のみならず、一般人や実業家、政治家……大統領すらも監視し始めた男だ」
王子は一瞬で青ざめた。
「……なんかヤバそうなヤツなんだけど」
「よーし、教室行くぞ。今日のテーマは《国家の目》だ……」
*
私は黒板に大きく書いた。
『ジョン・エドガー・フーヴァー――アメリカ最強の“監視王”』
「まず言っとく。こいつは“善か悪か”で語れる人物じゃない。天才と怪物を、紙一重どころか“同じ顔”でやった男だ」
「か、怪物!?」
王子が椅子ごと後ずさる。
「20世紀のアメリカで、彼は“小さな捜査局”を巨大なFBIへ変えた。
指紋、犯罪統計、科学捜査、全国ネットの通信……当時誰も思いつかなかった捜査を全部システム化した超絶有能マンだ」
「おお……なんかカッコいいじゃん」
「だがな」
私はチョークを折るほどの勢いで黒板を叩いた。
「有能すぎて、国家すら監視し始めたんだよ!」
「は!?」
「大統領でさえ逆らえなかった。政治家の秘密、スキャンダル、弱み……ぜーんぶ握っていた。
“何かあればリークするぞ”と暗に示して、歴代大統領は黙った」
「お、おい……大統領って一番偉い奴だろ……? そりゃ国への脅迫じゃないのか……?」
「そうだよ。でも“犯罪は減らす・組織も作る・国も守る”の三拍子が揃ってたから、誰も止められなかった」
王子は下唇を噛む。
「……権力が強すぎたってことか」
「そう。フーヴァーは“秩序の守護者”であり“恐怖の監視者”でもあった。
本人は国家のためと思っていたが、その力は民衆にとっては“見えない檻”にもなりうる」
私は続ける。
「彼の時代が終わると、“権力の集中は危険だ”とアメリカは制度を作って見直しを始めた。つまり――」
私は黒板に殴り書いた。
『情報を集めすぎれば、国家も王も狂う』
「これがフーヴァーの残した恐ろしい教訓だ」
王子は震えていた。
「……僕、さっき“全部監視しろ”とか言っちゃった……」
「そうだよアホ王子。権力者ほど“自分は正しい”と思い込みやすい。だからこそ、権力には“限界”と“透明性”が必要なんだ」
「……難しいな。
でも、なんか……悪いこと言った気がしてきた」
「わかってんね王子!!」
私は胸を張り、フーヴァーの人格を降ろした(と王子は本気で信じている)。
「私はジョン・エドガー・フーヴァー!犯罪者は逃さない! 情報は力!秩序は監視によって保たれるのだ!」
「こ、コヒロがフーヴァーになった!? やっぱり憑依魔術じゃねえか!」
「だが私はこうも言おう。――国家の目が肥大化すれば、自由は死ぬ!」
私は拳を天にかざした。
「監視は必要だ。だが、監視する側にも“監視”が必要なのだ!」
王子はぶるぶる震えながらメモを取っていた。
「こ、怖い! けど……すげぇ……!!」
*
その日の午後。
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「僕は今日から“監視王ケイ”だ!リョーキュー、全部記録しろ! 怪しいやつは! 全員! メモだ!!」
「殿下の慧眼……! すべて記録いたしますわ!!」
使用人たちが怯え、工員たちはざわめき、現場は大混乱に陥った。
そこへシバール将軍が静かにやってきて、一言。
「殿下。その“監視”は本日の工場の作業効率を著しく低下させています」
「えっ」
「作業員は皆“王子ににらまれている”と恐怖しています。
犯罪を抑えるどころか、“不信感”を生んでおります」
「……やっちまった……」
私は横からため息をつく。
「フーヴァーごっこなんかするからだよ。お前にはマルチタスクも監視国家も無理だよ、まだ」
「う、うるせぇ!! もうやんねーよ!!」
*
帰り道で、王子がぽつりと言った。
「……情報集めるのって、難しいな。一歩間違えたら、国が怖い場所になるんだな」
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