106 / 117
cent six
しおりを挟む
約束の金曜日、仕事も無事に終えて彼と会うことになっている。待ち合わせ場所は市駅の駅ビル地下のカフェ、昔よくデートしていた思い出の場所だ。
帰宅時の途中下車と同じようなものなので、市駅は乗り換え以外でも時々利用する。待ち合わせ場所に行く前に、パウダールームのある駅ビル婦人服売り場のトイレに立ち寄ってメイクを直す。
今日は何だか緊張する。きっとこれから始まる新たな未来に期待をしているワクワク感なのかも知れない。この後私は、彼の告白に返事をする予定でいる。
『時間をかけてゆっくり考えて』って言ってくれてはいるけど、これ以上かき回したらきっと訳が分からなくなって放置してしまいそうな気がする。
それはあまりにも失礼だなと感じる。だから私は今日気持ちのけじめを付けたいと思ってる。もう迷わないために、自分に心に正直に生きるために。
メイクを直し、幾分気持ちも整ったので、トイレを出て地下へと降りてカフェに入る。彼が来ているか覗かせて頂いてっと……あっ、いた。
「お待たせ」
「僕も今来たところ」
テーブルの上にはお冷とおしぼりが一つずつ置かれているだけだった。
「何か頼んだ?」
「まだ、君が来てから一緒に頼もうと思って」
私は彼の向かいの席に座ろうとしたが、荷物が置いてあって少々ためらってしまう。この店には荷物専用のかごが置いてあるのだが、勝手にそこへ入れちゃうのも……。
「隣、空いてるよ」
「えっ?」
久し振りのことで一気に緊張して体が熱くなる。この変な熱気が伝わるのは恥ずかしいけど、断るのも失礼な話だよね?私は多少固くなりつつも彼の隣の椅子に座る。
「じゃあ、お邪魔します……」
なんてわざわざ言わなくて良いんだけど、まだ緊張状態が続いていて頭がふわふわしてる。
「ククッ、全然『お邪魔』なんかじゃないよ」
彼は私に体を向けて優しくそう言ってくれる。そうやってまっすぐに見つめられるとドキドキしてしまう。
「そう?なら良かった……」
「僕も今ときめいてる、君に」
「……」
私の心臓はバクバクと弾み、脳みそは溶けちゃうんじゃないかというくらいだった。脳内は多分ほとんど機能していない、思考が止まった今、このことを記憶に留めておくことすら困難なんじゃないだろうか?
「いつ見ても綺麗な黒髪だね」
「そ、そうかな?」
彼はいつもそう言ってくれていたけど、こんな剛毛のどこが綺麗なんだろうか?ご近所の美容室で髪を切れば『こんなに黒くて硬くておまけに多い方そう見ませんよ~』なんて言われちゃうし、バレッタだってなかなか上手く止まらない。
パーマもすぐに取れちゃうし、色を変えたくても抜けにくい染まりにくいでお金を掛けてもあまり様変わりしない。せいぜい人毛筆になるくらいなんじゃないかと思う、大概のことには耐えきれる強靭な髪質ですから、ぐすん。
「僕は赤くて癖っ毛だからね、パーマもカラーリングも疑われて黒髪の子が羨ましかったんだ」
明生君の髪の毛は柔らかくて細い、無いものねだりなんだろうけど羨ましかったなぁ、当時は特に。
彼は手を伸ばし私の髪の毛を触る。今日は耳の高さくらいでポニーテールにしていただけなのだが、そう言えばオシャレにアレンジした髪型よりもシンプルな髪型を好んでいたと記憶している。
大学時代、成人式の時は姉と時雨さんに着付けとヘアメイクをしてもらった。午前中は腐れ縁たちと過ごし、午後からは大学のサークル仲間とパーティーをした。
周囲の子たちにはすごく好評だった。美容師さんではなく、姉とお向かいのおばさんの力作と知った同級生たちの注目の的となった。これがきっかけで女の子の友達が増えて嬉しかったんだけど、彼だけはなぜかあまり良い顔をしなかった。
『君の髪の毛はすごく綺麗だから、あまりゴテゴテしない方がいいよ』
そう言われた瞬間は悲しかった。けどそれ以上にこの黒髪剛毛を褒めてくれていたので、いつの間にかその言葉を忘れていた。何で今ここで思い出したんだろう?
私の髪の毛は彼の手の中にあった。後頭部でぶら下がっていた長い黒髪を前に持ってきて、感触を確かめるようにゆっくりと手を下ろしていく。ほとんどレイヤーの入っていない私の髪の毛は、左胸に被さるようにストンと落ちた。
「全然変わってない、触り心地も」
彼はもう一度手を伸ばし、私の髪の毛を指に絡めていた。その感触にすごくドキドキしていて体が動かなかった。もう何をされてもいい……そんな気持ちにすらさせられていた。
コーヒーを飲んだ後、君に見せたいものがあると城址公園にに連れて行ってくれた。今の時期は梅の花が満開で、お城のライトアップも相まってすごく綺麗だった。
この辺りは梅の栽培が盛んで、全国展開はしていないけど梅を使ったお土産物は割と人気がある。私は特にクッキーがお気に入りなのだが、それを彷彿とさせる甘い香りが充満していた。
「夏絵は梅のクッキーが好きだったよね」
「そんなことまで覚えててくれてたの?」
「僕もあれは好きだからね」
そうだったっけ?彼がそれを食べていたのを見た記憶が無いのでちょっと違和を感じた。けどきっと覚えていないのか、今初めて聞いた話なのかも知れないから触れずに流しておく。
「子供の頃からお土産でたまに食べてたんだ」
「えっ?」
それは違う。だってそれは公園のご近所にある栄養大学のご当地土産開発企画で作られたお菓子で、当時私は大学生だったから十年前の話だもの。この時のことはよく覚えている、当時は商品の企画開発の仕事に就きたかったから、授業の一環で取材に行っている。
でももしかしたら知り合いのどなたかが手作りで作っていたものなのかも知れない。この雰囲気を壊してまで掘り下げていいものなのか……。
「どうかした?」
「ううん、何でもない」
こんなの大したこと無いよね……結局私はそのまま聞き流す選択をして、満開の梅を満喫した。
「実は城下ホテルのペア食事チケットが当たったんだ」
えっ?県内新聞の懸賞にあったやつじゃない、それ特賞だったよね?
「あれ当たったの?」
「うん、当てたのは祖父なんだけど譲ってくれて。せっかくだし、見た感じかなり豪華そうだったから今日使うことにしたんだ。ごめんね、君の誕生を祝うのに懸賞を使うなんて」
城下ホテルなんて県内に住んでたって滅多に行ける場所じゃない。ぶっちゃけてしまえばランドマークホテルよりも格式が高く、国内屈指の名宿として県内では真っ先に取り上げられ る高級旅館なのだ。
「懸賞でも凄いって、私ランチで一度入っただけだよ」
あそこの割烹料理店のランチ御膳は最低でも三千円以上するんだから、一般職OLには正直お高過ぎる。
「そんなので喜んでくれるなんて……」
「城下ホテル自体庶民には敷居が高いよ」
そんな申し訳なさそうにしないで、二十代最後の誕生祝いを超一流旅館で過ごさせてくれるなんて……彼に大事にしてもらえている幸福感が私の心を満たしてくれていた。
帰宅時の途中下車と同じようなものなので、市駅は乗り換え以外でも時々利用する。待ち合わせ場所に行く前に、パウダールームのある駅ビル婦人服売り場のトイレに立ち寄ってメイクを直す。
今日は何だか緊張する。きっとこれから始まる新たな未来に期待をしているワクワク感なのかも知れない。この後私は、彼の告白に返事をする予定でいる。
『時間をかけてゆっくり考えて』って言ってくれてはいるけど、これ以上かき回したらきっと訳が分からなくなって放置してしまいそうな気がする。
それはあまりにも失礼だなと感じる。だから私は今日気持ちのけじめを付けたいと思ってる。もう迷わないために、自分に心に正直に生きるために。
メイクを直し、幾分気持ちも整ったので、トイレを出て地下へと降りてカフェに入る。彼が来ているか覗かせて頂いてっと……あっ、いた。
「お待たせ」
「僕も今来たところ」
テーブルの上にはお冷とおしぼりが一つずつ置かれているだけだった。
「何か頼んだ?」
「まだ、君が来てから一緒に頼もうと思って」
私は彼の向かいの席に座ろうとしたが、荷物が置いてあって少々ためらってしまう。この店には荷物専用のかごが置いてあるのだが、勝手にそこへ入れちゃうのも……。
「隣、空いてるよ」
「えっ?」
久し振りのことで一気に緊張して体が熱くなる。この変な熱気が伝わるのは恥ずかしいけど、断るのも失礼な話だよね?私は多少固くなりつつも彼の隣の椅子に座る。
「じゃあ、お邪魔します……」
なんてわざわざ言わなくて良いんだけど、まだ緊張状態が続いていて頭がふわふわしてる。
「ククッ、全然『お邪魔』なんかじゃないよ」
彼は私に体を向けて優しくそう言ってくれる。そうやってまっすぐに見つめられるとドキドキしてしまう。
「そう?なら良かった……」
「僕も今ときめいてる、君に」
「……」
私の心臓はバクバクと弾み、脳みそは溶けちゃうんじゃないかというくらいだった。脳内は多分ほとんど機能していない、思考が止まった今、このことを記憶に留めておくことすら困難なんじゃないだろうか?
「いつ見ても綺麗な黒髪だね」
「そ、そうかな?」
彼はいつもそう言ってくれていたけど、こんな剛毛のどこが綺麗なんだろうか?ご近所の美容室で髪を切れば『こんなに黒くて硬くておまけに多い方そう見ませんよ~』なんて言われちゃうし、バレッタだってなかなか上手く止まらない。
パーマもすぐに取れちゃうし、色を変えたくても抜けにくい染まりにくいでお金を掛けてもあまり様変わりしない。せいぜい人毛筆になるくらいなんじゃないかと思う、大概のことには耐えきれる強靭な髪質ですから、ぐすん。
「僕は赤くて癖っ毛だからね、パーマもカラーリングも疑われて黒髪の子が羨ましかったんだ」
明生君の髪の毛は柔らかくて細い、無いものねだりなんだろうけど羨ましかったなぁ、当時は特に。
彼は手を伸ばし私の髪の毛を触る。今日は耳の高さくらいでポニーテールにしていただけなのだが、そう言えばオシャレにアレンジした髪型よりもシンプルな髪型を好んでいたと記憶している。
大学時代、成人式の時は姉と時雨さんに着付けとヘアメイクをしてもらった。午前中は腐れ縁たちと過ごし、午後からは大学のサークル仲間とパーティーをした。
周囲の子たちにはすごく好評だった。美容師さんではなく、姉とお向かいのおばさんの力作と知った同級生たちの注目の的となった。これがきっかけで女の子の友達が増えて嬉しかったんだけど、彼だけはなぜかあまり良い顔をしなかった。
『君の髪の毛はすごく綺麗だから、あまりゴテゴテしない方がいいよ』
そう言われた瞬間は悲しかった。けどそれ以上にこの黒髪剛毛を褒めてくれていたので、いつの間にかその言葉を忘れていた。何で今ここで思い出したんだろう?
私の髪の毛は彼の手の中にあった。後頭部でぶら下がっていた長い黒髪を前に持ってきて、感触を確かめるようにゆっくりと手を下ろしていく。ほとんどレイヤーの入っていない私の髪の毛は、左胸に被さるようにストンと落ちた。
「全然変わってない、触り心地も」
彼はもう一度手を伸ばし、私の髪の毛を指に絡めていた。その感触にすごくドキドキしていて体が動かなかった。もう何をされてもいい……そんな気持ちにすらさせられていた。
コーヒーを飲んだ後、君に見せたいものがあると城址公園にに連れて行ってくれた。今の時期は梅の花が満開で、お城のライトアップも相まってすごく綺麗だった。
この辺りは梅の栽培が盛んで、全国展開はしていないけど梅を使ったお土産物は割と人気がある。私は特にクッキーがお気に入りなのだが、それを彷彿とさせる甘い香りが充満していた。
「夏絵は梅のクッキーが好きだったよね」
「そんなことまで覚えててくれてたの?」
「僕もあれは好きだからね」
そうだったっけ?彼がそれを食べていたのを見た記憶が無いのでちょっと違和を感じた。けどきっと覚えていないのか、今初めて聞いた話なのかも知れないから触れずに流しておく。
「子供の頃からお土産でたまに食べてたんだ」
「えっ?」
それは違う。だってそれは公園のご近所にある栄養大学のご当地土産開発企画で作られたお菓子で、当時私は大学生だったから十年前の話だもの。この時のことはよく覚えている、当時は商品の企画開発の仕事に就きたかったから、授業の一環で取材に行っている。
でももしかしたら知り合いのどなたかが手作りで作っていたものなのかも知れない。この雰囲気を壊してまで掘り下げていいものなのか……。
「どうかした?」
「ううん、何でもない」
こんなの大したこと無いよね……結局私はそのまま聞き流す選択をして、満開の梅を満喫した。
「実は城下ホテルのペア食事チケットが当たったんだ」
えっ?県内新聞の懸賞にあったやつじゃない、それ特賞だったよね?
「あれ当たったの?」
「うん、当てたのは祖父なんだけど譲ってくれて。せっかくだし、見た感じかなり豪華そうだったから今日使うことにしたんだ。ごめんね、君の誕生を祝うのに懸賞を使うなんて」
城下ホテルなんて県内に住んでたって滅多に行ける場所じゃない。ぶっちゃけてしまえばランドマークホテルよりも格式が高く、国内屈指の名宿として県内では真っ先に取り上げられ る高級旅館なのだ。
「懸賞でも凄いって、私ランチで一度入っただけだよ」
あそこの割烹料理店のランチ御膳は最低でも三千円以上するんだから、一般職OLには正直お高過ぎる。
「そんなので喜んでくれるなんて……」
「城下ホテル自体庶民には敷居が高いよ」
そんな申し訳なさそうにしないで、二十代最後の誕生祝いを超一流旅館で過ごさせてくれるなんて……彼に大事にしてもらえている幸福感が私の心を満たしてくれていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる
まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」
父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。
清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。
なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。
学校では誰もが憧れる高嶺の花。
家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。
しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。
「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」
秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。
彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。
「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」
これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。
完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。
『著者より』
もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる