平凡な女には数奇とか無縁なんです。

谷内 朋

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vingt-deux

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 健吾さんがお迎えに来られたので弥生ちゃんと別れ、私は一人酒を楽しむはずだったのだがそうは問屋が卸してくれず……。
「夏絵さん、そろそろ返事を聞かせてください」
 あぁそうか、遊園地に行った時告られチックなのがありましたな。何だか遠い過去のように感じるのは私だけだろうか?
「申し訳無いけどお断りします」
 当然だ、田処茉莉花への仕打ちを考えたらコイツとの将来設計は不安しかない。ってかもう完全に冷めきってます。
「どうしてです?」
 え~、説明しなきゃダメなの? 胸に手を当ててよ~く考えてご覧なさい。
「交際してる女性、別にいらっしゃるわよね?」
「何言ってるんですかっ! そんなのいる訳無いでしょう!」
 まぁ敢えて現在進行形で言ってやったからね、そりゃもう別れてるんだから『居ない』で正解なんだろうけど。
「先週の火曜日、駅で女性と一緒にいたわよね?」
「どうして声掛けてくれなかったんです!」
 あら声掛けて宜しかったの?アンタ修羅場乗り切れんの? ってか私をダシに逃げる気だったとか。
「混み合った話してそうだったから、それとあの女性遊園地でナンパしてきた方よね?お知り合いだったんだ」
 満田は一瞬言葉に詰まる。残念だけど私結構人の顔覚えるの得意なのよと言いつつ“ひふみのりと”の事は未だ思い出せてないけどこの際それはどうでもいいわ。
「そこまで親しくありません! あの女には何度も付け回されていたんです! あの日もそうだったから『もうやめてくれ!』って言っただけなんです!」
「へぇ」
 言い訳に必死だなお前、滑稽すぎて笑いそうになる。
「あの方マタニティっぽい格好してらしたわよね? ひょっとして妊婦さん? だとしたらストーカーって変じゃない?」
「僕にそんなの分かる訳無いじゃないですか!」
「そうですか、妊婦さんでストーカー……考えられることはあなたが孕ませた、ってところでしょうね」
 おっといきなり途中参加のミッツ、まぁさっきからずっと近くにいたけどね。
「勝手に人の話に入ってくんなよ!」
 あらあらあなた店員さんに横暴になる系の方? もうその時点で私お断りだわおほほ。
「これは失礼、余りにも大声でお話しでしたのでつい」
 ミッツ目が怖い、指を二~三本……マジでしそうな顔してるわ。
「とにかくこっちの話に入らないでくれ! いいな!」
 それミッツの正体知ってその態度続けられるかしら?ある意味見ものねフッフッフ。
「そんな横暴な言い方しなくてもいいと思うけど。ごめんなさい、声のトーン少し落としますね」
 私は敢えて他人の振りをしてミッツに声を掛けるとそこはさすがスマートに一礼して奥に消えていった。多分隠れてるだけだと思うけど、舎弟の若者たちも殺気立った視線を送ってらっしゃるわ。ミカヅキ君は相変わらず涼しい表情、やっぱり只者じゃないのねあなたも。
「そう言えば田処茉莉花さんと仰るそうね、あの女性」
「何でアイツの名前を!」
 あらあら、そこまでのポーカーフェイスは出来ないようね、中途半端な言い逃れするなら初めから認めておけばまだ可愛げが……無かったわ。
「最近近所の産科さんでよくお見掛けするの、悪阻と貧血で体調管理にご苦労されてるそうよ」
 満田の顔色がみるみるうちに無くなっていく。もうちょっと続きあるけど構わないわよね?
「彼女付合ってた恋人に妊娠した事話しても取り合ってもらえなくて随分と悩まれてたそうよ。やっと話が出来ても『中絶費用を出せばいいんだろ』的な酷い扱いされて……自分は快楽優先でろくに避妊もしなかったくせに勝手な話よね?」
「そ、それは……」
「ご家族との顔合わせも済ませてたそうだから結婚も視野に入るのは当然よね? だから子供が出来たらむしろ祝福ムードでもおかしくないと思うけど。そうじゃない男もいるものなのね、だから遊園地での彼女の行動って精神的にかなりひっ迫してた状況だと思うの。今となっては田処さんだけを非難するのは違う気がするのよね」
「彼女とはもう話が付いてます、ですから考え直して……」
 結構往生際の悪い男だな。
「性癖って治らないらしいのよね、再犯率も高いそうだし。それでせめて猛省する態度を示すならまだしも、『その話は終わりました』で開き直る男はノーサンキューだわ」
 私はミカヅキ君にごちそうさまでしたと声を掛けてお財布を出す。お会計を済ませて店を出ようとするとミッツが既に待っていてくれていた。
「ご自宅までお送りします、姐さん」
 その『姐さん』って呼び方、いい加減やめないか。
「んじゃお願いねミッツ」
 今日のところは許してやるが、と私がミッツの隣に立つと何を思ったか満田が立ち塞がってきた。
「あんた人の女掠め取るってどういう神経してんだよ!?」
 イヤイヤさっきお断りしたよね! お前がどういう神経してんだよ! ってあ~あ、舎弟君たちのセ●●発動しちゃって物騒なもんチラつかせ始めてるよ。それ使っちゃダメだからねっ!
「あんた今思いっきり断られてませんでした?」
「だからってやり方が……ヒイィィッ!」
 ん? どったの? と思ったらミッツの右腕ツキシマ君がピストルを満田のこめかみに押し当てて睨み効かせてた……その光景結構なカオス状態ですから! フツーに怖いからやめてくれ!
「留守はお任せくださいボス」
「んじゃ頼むわ。参りましょう姐さん」
 うんそうだね、突っ込みたいところは多々あるけどここは早々に立ち去った方がいいわよね。私はミッツと共に店を出て無事自宅まで送り届けてもらいました。

 これにて円満に満田と縁が切れた私はゆったりとした休日を過ごしている。毎日のようにあったウッザイメールも無くなり、当面色恋はお腹いっぱいじゃと思っていた矢先、郵便屋さんが来たようで玄関先からコトンという音が聞こえてきた。
 何だろ? 下に降りて玄関に向かうと郵便受けに葉書が一枚、宛名は私、差出人は……。
 「一二三憲人ぉ?」
 何でじゃ? と思って葉書を読み進めていくと、盆休み期間を利用して小学校時代の同窓会を開催する旨の案内状だった。
 私たちが通っていた小学校は“島エリア”と新興住宅街“街エリア”の境目に位置していて、人数が少なく石渡組の傘下である“島エリア”の人間にとっては息苦しい場所だった。クラスでは何かに付け“街エリア”の子たちの方が発言権があり、どんなに人望のある子でも“島エリア”の子たちは児童会役員とか学級委員とかになることができないという暗黙の了解があった。選挙権も表向きはあったけど実際は無効票扱いだったし、クラブ活動でも絶対にレギュラーメンバーには入れてもらえなかった。
 それも小学校時代だけだったし、お陰で“島エリア”の皆は仲間意識が強くて今なおみんな仲良しだから殆どの子が地元に残る。実家が商売人の子も多いってのもあるけど、ここは本当に人が温かいから大学進学とかで他所に行っても何だかんだで出戻ってくるのだ。
 でここへ来て小学校の同窓会、はっきり言って面倒臭い。
「はい欠席~」
 私はろくに日程も見ずに欠席にマルを付け、さっさと自宅近くのポストに返信はがきを投函した。
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