平凡な女には数奇とか無縁なんです。

谷内 朋

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vingt-cinq

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 それからひと月ほど経ったシルバーウィーク中、郊外のキャンプ場に到着した“島エリア”の同級生七人、料理上手のパティシエこうたこと前之庄紘汰まえのしょうこうたと、アウトドアが得意なまこっちゃんこと後藤慎ごとうまことを中心にバーベキューを楽しんでいる。とそこに一二三とやらを中心とした多分小学時代の同級生であろう男女六人が何を思ったかこっちにやって来た。
「五条、俺たちと一緒に行かないか?」
 何言ってんだ?この男この前からずっと視界に入る辺りをチョロチョロして鬱陶しい事この上ない。今日仮におかしなことしてきたらぶん殴ってやろうかしら? 勿論グーパンなんていたしませんわよ、死なれても困りますからおほほ。
「いえ結構です、一人ではありませんので」
 他にも六人いるんだけどなぁ、見えてないなら眼科行け。
「何その態度、憲人の気遣い踏みにじる気?」
 何この女? 多分同級生だと思う。顔は分かるんだけど名前は忘れちゃったなぁ。この子何かに付け私たちに噛み付いてきて大概鬱陶しいのよね、久し振りに見るけどやっぱり胸糞悪いわ。
「でしたらこっちにも気を遣っていただけません? 迷惑してるんですが」
「何なのあんた! “島エリア”のくせに生意気ね!」
 ねぇ沸点低過ぎない? “街エリア”ってそんなに偉いの?
「でしたら何故ここにいらっしゃるんです? 知らない方(正確には名前忘れた)に罵られるいわれはありません。それに一二三さんでしたか、あなた一体何がなさりたいんです? 本音言わせて頂くと鬱陶しいことこの上無いのですが」
 一二三とやらは以前名乗ってきたからかろうじて分かるけど、その他五人はどちら様ですか? どいつもこいつも分かってる前提で話し掛けてこないでよ。
「お、俺は……俺はお前を愛してるっ! 俺と結婚してくれっ!」
 何ですと? コイツ遂に壊れたか? そういうのってある程度のお付き合いを経てから言うもんなんじゃないのか? 言っておくがコイツとはまともに話したことも無いし、学校行事以外で一緒に何処かへ出掛けたことも無ければデートすらした事も無い。まぁ現時点どころか一生したくはないけどな。
「『愛してる』の安売りか?韓流ドラマの観すぎだろ?」
「っつうかそもそも付き合ってないのに『結婚』って単語が出てくること自体おかしいんだよ」
 ぐっちーこと小口俊明こぐちとしあきのオカンは韓流ドラマ大好きだからね、俳優ばりのイケメンにでも言われりゃ多少グラッとはくるだろうけど一二三相手だと蕁麻疹しか出ないわ。こうたは既婚だからプロポーズというものを経験してて余計に一二三の強引さを物申したかったんだろうけど今そういうのは要らないわ。
 てつこ、まこっちゃん、げんとく君こと大谷玄徳おおたにげんとくは呆れ過ぎて表情崩れちゃってる。有砂は私がどう出るか伺ってる、その前にあの二人止めてくれない? その辺りはさすが友なだけあってこうたとぐっちーの背後に周り、シャツを引っ張って静止してくれた。
「受けなさいよ、彼の愛情が分からないの?」
 いやマジでうっぜぇわお前、何が『愛情』だ気っ色悪い。だったらお前がそいつの愛情とやらを受ければいい、部外者なんだから引っ込んでろ。
「全く。知りたくもありません」
 取り敢えずキモい、以上。
「ホント親無しっ子って冷酷なのね」
 好きでもない男にプロポーズされて誰が喜ぶのかをまず教えてほしいわ、そしてこの話題に“親無しっ子”はどう関係があるんだ? ついでだからそれについての説明もしろ。
 「麻弓まゆみ、もうやめなって」
 まゆみ?あぁ戸川とがわか。ってことは引き留めてる黒髪ロン毛の女は安藤あんどうカンナね。この子は確か梅雨ちゃんに憧れててたまに葉山リフォームさんに顔出してるわ。んで男連中は確か『4Aフォーエース』とかってどこぞの漫画みたく言われてたけど誰一人イケメンが居ない残念な集団だ。個々に関してはどうでも良いな。
「五条! 返事を聞かせてくれ!」
 えっ? もうかい? まだ告って一分も経ってないが。
「これ以上待てない、小一からずっと好きだったんだ」
 そんなもん知らんがな、仮にそうだとして『お前なっちゃん顔じゃないな』の六年間はどう説明してくれるんだ? それ以上発言したら殴るけどいいかしら?
「生涯幸せにする! 俺の愛を受け取ってくれ!」
 だから要らんわ気色悪い、もうそろそろ限界なんだけど。私は腕を伸ばせば届く程度まで一二三の傍に歩み寄る。カウントダウンはもう始まってるよ、逃げるなら今だけどどうする?
「せめて婚約だけでも! 俺といれば一生お前を守ってやれる!」
 はぁ? 『せめて』で婚約させられちゃたまったもんじゃないわ。ローカルレベルの権威を振りかざす以外脳が無いくせに何を訳の分からんこと言ってんだ? お前なんかと同じ空間に居たくないわ、成金の嫁になんぞなりとうもない。
 「俺の気持ちは本物だ、だからっ……!」
 だったら見せてもらおうか? でもよかったんだけどもう限界! 私は怪力全開モード二十五パーセントでビンタを食らわしてやる。これでもかなり抑えてやったのに、一二三とやらの体は一メートルちょっと吹っ飛んだ。けっ、弱っち。本当ならグーパン六十パーセントくらいでもよかったんだけど、傷害事件扱いされても困るからやめておく。まだ続けるようならその時は覚悟しやがれ脳内お花畑男め。
「の、憲人?」
 何固まってんの? さっさとそれ片付けてくれないかしら? あんたらの連れだろうが。
「やだぁ」
 沸点低い戸川がいの一番に一二三とやらの側に駆け寄って何故か知らんが涙浮かべてる。いやいや吹っ飛びはしたが私がしたのはビンタだ、お前らが小学校卒業時にしでかした集団リンチなんかより全然マシだと思う。とは言え五十人ほどが寄ってたかってたった五人に勝てなかったというダッサイエピソード付きだがな。こんなのに言葉掛けるのもアホくさい、今ので『お断りします』って分かるだろ? 分かんないのであればもう一発いきましょうか?
「ゴメンねみんな、雰囲気悪くしちゃって」
 こういうのは無視が一番、その面二度と晒すな。
「いや、それより肉焼けてるぞ」
 いつの間にかバーベキューの作業に戻っていたこうたが美味しそうに焼けているお肉を私のお皿に入れてくれた。まこっちゃんも飯盒を火からおろし始めていて、一度ひっくり返して底をコンコンと叩き、また元に戻してから七人分の紙のお椀に取り分けている。
「取り敢えずなつ、一番に食え」
 何か気遣わせちゃったね。
「ありがとう、じゃ遠慮なく」
 私は早速焼きたてのお肉にかぶりつく。ん~、激ウマ!
「こういう時はお腹いっぱい食べるのが一番だよぉ」
 有砂もせっせと働いてる、迷惑掛けてるのむしろ私なんだけど。とは言っても料理に関することで役に立つ事って何一つ無いんだけどねって言ってて虚しくなってきた。
「それ片付けてどっか行ってくんない? 邪魔なんだけど」
 ここは我らがリーダーてつこが一二三一派に……お前らまだいたのか? ついそれが顔の出てしまってたのか、奴ら全員の表情が引き攣りはじめた。いや、余計なことさえしなければ殴りゃしませんから多分、なんて思ってる間に奴らの姿は跡形も無く消え去っていた。
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