平凡な女には数奇とか無縁なんです。

谷内 朋

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vingt-sept

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「それお礼でも何でもないじゃない」
「何でさ? 私なりに一生懸命考えた上で……」
「ダメッ! そんなの絶対ダメッ!」
 だって郡司君にとっては罰ゲーム……いや、拷問レベルだよ。
「だったら私が頂きますするよぉ、それでも……」
「それも駄目ッ!」
 あっ! つい勢いで……ひょっとして勘付かれた、よね?
「もうどっちなのさぁ、まぁあんたが郡司君に好意を持ってたのは当時から分かってたけど」
「そっそんなこと無いわよっ! ただ単に郡司君にご迷惑になるようなことは良くないって!」
 そう、それよ! 名刺見る限り関西だし、会議で出張ってだけだろうから私と会うってなるとわざわざご足労願うわけでしょ? 駄目だってそんなの!
「んま~揃いも揃って同じようなこと言っちゃってぇ。でもでも夏絵さん・・・・、彼長期出張で年内はこっちで過ごされるそうでござるのだよ」
「そ、そうなんだ。でも彼にご迷惑かけるようなことしちゃ駄目だってば」
 そりゃ本音を言えば会いたいわよ、でも郡司君もそれを望んでくれてたらって話よ。そんなの万に一つあるか無いかの確率じゃない、やっぱりそんなの良くないよ。
「それなら郡司様が『会いたい』と仰せであれば宜しいのですな夏絵様、でしたらそう言わせるまででござりますが」
「言わせなくていい! さっきから喋りおかしいのよあんた! 一体何企んでんのっ!」
 あーもう! この喋りになった有砂はマジで面倒臭い! 絶対何か企んでる!
「あらあら嫌でございますわ姫、ワタクシめがいつそのようなことを。悪いようには致しませんのでどうぞご安心を」
 有砂は悪びれる事無くニヤッと笑ってくる。はぁ~嫌な予感しかしない。
「ではワタクシめはこれにて失礼します、首を洗って待っておれ怪力女王」
 有砂は好き勝手言うだけ言ってほほほと笑って帰り支度をする。おい名刺置きっぱなしだぞ。
「ちょっと有砂、忘れ物……」
「ほほほ、それは差し上げますぞ怪力女王。穴が開くほど眺め腐ってニヤついておれ~」
 そう言い残して本当に帰っていきやがった。

 それから数日が経ち、今のところ有砂からの連絡は無い。その代わりげんとく君からメールがあり、有砂から事情を聞いていたらしく郡司君と会ってみる気はあるのか?と訊ねられた。
【郡司君さえ良ければって感じかな?】
 私は当たり障りない返信をしたものの、彼の欲しかった答えではなかったようで……。
【そうじゃなくてなつ自身がどうしたいのか? って話】
 昼頃にそんなメールが届き、どう返信してよいものか躊躇ってる状態だ。自分の気持ち的には会いたいと思ってる、でもそのせいで郡司君に迷惑は掛けたくない……そんなことを考えているとププッとクラクションが鳴り、ピッカピカに磨かれた高級外車が私の真横にぴたっと寄り添ってきた。
「五条さん、しばらく振りです」
 そう声を掛けてきたダンディボイス……後部座席の窓から顔を出してきたのは保科酒造の社長宗之さんだった。
「先日はご馳走さまでした。お仕事帰りですか?」
「えぇ、これから知人のレストランで食事をするんです。ご予定が無ければご一緒しませんか?」
 何この素敵すぎるお誘い? 有砂に言ったら刺されそうだわ。でも今給料日前で持ち合わせが寂しいから。
「お誘いはありがたいのですがお財布事情が……」
「今日は私に奢らせてください」
「そっそんなの申し訳無いですっ」
 社長さん御用達のレストランって外国のタイヤメーカーが星をポチッと付ける系でしょ? そんな高級店にこんなチンケな平凡女を誘ってはいけませんわよ。
「ひょっとしてお嫌ですか?」
「いいいいいえぇ! 嫌ではありませんが」
 おっとまずい、“しもだかげき”もとい“けいじゅ”が降臨してしまったわ。すると宗之さんは車から降りてきてそっと私の手を握ってきた。うわぁ~、何やらせてもスマートだなぁこの方。ヤバいドキドキしてきちゃった。
「何かお悩みのようですね、お話くらいでしたらお聞きしますよ」
 ヤダ何素敵過ぎ……私はダンディ社長に手を握られただけであっさりとほだされてしまい、まんまと誘いに乗って夕飯のお付き合いをさせて頂くことになった。
 宗之さんの車はほとんど揺れもなくスムーズに私たちを運んでくれ、運転レベルは私の比ではない。会長は何故私の運転を気に入ってくださっているのだろう? こんなハイレベルのドライビングスキル見せつけられたら何だか申し訳無くなってくるわ。
「そう言えば五条さん」
 私はドライバーさんの運転に気が行っていて宗之さんの存在を……忘れていませんよ! ほんのちょっと薄~くはなりましたけど忘れてないですからね(念押し)!
「はい、何でしょう?」
 私は何かを誤魔化すため(忘れてないよ!)に声のトーンを抑え気味にする。
「“旗本書店”の三男坊とはお知り合いなんですか?」
 “旗本書店”? あぁ新旧取り扱いのあの本屋さんか。そこの三男坊? 誰だぁ?
「“旗本書店”は存じてますが、三男坊とは?」
「いえ、ご存知無いのでしたら何でもありません」
 宗之さんは笑顔を見せてそれ以上は何も仰らなかった。多少気にはなったけど、あまり良い予感がしなかったので私もその話題を掘り下げず、それからは普通に世間話をして快適な時間を過ごしていた。

 …で、高級レストランで美味しい食事を堪能した私は、宗之さんの上手~い訊問に乗せられて郡司君のことをついポロリと喋ってしまった。
「先程お見掛けしたら何となく落ち込まれている雰囲気でしたので」
 大人格好良い宗之さんからしたら、恋愛偏差値最低レベルの三十路女の恋の悩みなんてくっだらない話題のはずなのに、彼は真剣に私の話を聞いてくれてそれだけでもありがたかった。
 このところ姉と秋都の朝帰りは続いてるし、冬樹だとこの手の話はアテにならない。梅雨ちゃんとか楓さんといった大人女子に話しても良かったのかも知れないが、有砂に伝わるのが怖くてどうしてもご近所の誰かには言う事が出来なかった。
「取り敢えず一度お会いしてみては?」
 宗之さんの意見はこうだった。もし郡司君が嫌がっているのであれば有砂が私にこの話を持ちかけてこないのではないか?と。まして当時同じサッカー部に所属していたげんとく君の耳にも入ってるという事は、少なからず仲介人である有砂には何らかの勝算がある上での行動なんじゃないか?と。
「お相手の方と直接話をされてからお決めになっても十分だ間に合うと思いますよ」
 宗之さんは反則技とも言えるダンディな笑顔を見せてくれた。私は宗之さんと別れてからげんとく君に保留にしていたメールを返信した。
【二人で会うのはちょっと怖いけど、一度会ってみようと思う】
 するとほぼ即レス状態で返信が。
【最初だけ有砂と俺も付いてくよ】
 この内容はすぐさま有砂の耳にも届いた様で、郡司君との再会計画は有砂の手によって着々と進められていた。
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