平凡な女には数奇とか無縁なんです。

谷内 朋

文字の大きさ
35 / 117

trente-cinq

しおりを挟む
 クレープを食べながら四人で我が家に到着するとリビングの窓から冬樹がひょこっと顔を出してきた。
「お帰りなつ姉ちゃ~ん、もうお開きなの~?」
「んな訳無いだろシスコンチェリー、これからバザーに行くから車に乗るのさ」
「え~っ、僕も行く~」
「シスコンは付いてくんな、折角の計画が台無しになるだろうが!」
 有砂はリビングの窓から降りようとする冬樹を通せんぼしてる。普段こんな事言わないし、有砂もここまで必死に拒否ったりはしないのだが。
「ええがな、連れてったりぃな」
 郡司君は弟が混ざることに対して何とも思っていないようだ。
「けどせめて着替えないか? それパジャマだろうが」
 げんとく君は尤もな言い分で冬樹の服を指差してる。お前朝からそのまんまじゃないか。
「着替えたら連れてってくれるの~?」
「ったくぅ、急いでよぉ」
 有砂も矛を収めて冬樹を待つことになった。私も車のキーを取りにいかなければならなかったので、三人にも家に上がってもらうと有砂が勝手にお湯を沸かしてお茶を淹れていた。
「勝手にそんなんしてもええの?」
 郡司君は落ち着かなさそうに辺りをキョロキョロしている。
「良いの良いの、ここの連中全員緩いから」
 有砂はテキパキとお茶の支度をする。緩いと言ってもお前のお股ほどではないが。
「あれ? 戻ってきたのか?」
 秋都が二階から降りてきてダイニングを覗きに来た。
「うん、またすぐに出るけど」
「バザーだろ? 俺らも明日行くんだ……ん? そっちの人は?」
 秋都は郡司君を見ると、彼もどうもと言って席を立つ。
「郡司一啓です」
「弟の秋都です、あれ? 兄さん家に来た事あるよな?」
「何言ってんの、そんな訳……」
 無いでしょ、と言いたかったんだけど。
「あぁ、一度だけ……ってことは今の子ひょっとして!」
 「そうそう! 鍵探しに付き合わせたがきんちょだよ」
 ちょっとあんたたち何の話してるのよ? 何で郡司君が家に来たことあるのよ?
「あ~思い出した! 百科事典抱えてた二歳か三歳くらいの……」
 うん、それ冬樹で間違いないわ。あの子お父さんが遺した百科事典がお気に入りでいつでもどこでも持ち歩いていたもの、眠る前に姉か私に読ませていたクッソ難しい本の一つだ。
「うん、あいつ今大学生だよ」
「そっかぁ……俺も老けるわけや」
 郡司君は感慨深げな表情でリビングに視線を移すと、入ってもええか? と声をかけてきた。
「えっ?あっ、はい」
「何吃ってんだよなつ姉。どうぞ遠慮なく」
 彼はどうもと言ってリビングに移動していく、きっと仏壇が視界に入ったからだと思う。げんとく君は毎月月命日でお経読んでくれてるし、有砂も昨夜手を合わせてくれた。
 チーン……家中に鈴の音が響き渡り、少しの間静寂が訪れる。私のいる位置から彼の姿は見えないけれど、きっと静かに手を合わせて両親に挨拶でもしているんだと思う。
「誰~? お鈴鳴らしたの~」
 冬樹は珍しくちゃんと着替えて下に降りてきた。そう言えばそれお見合い覗きに来た時に着てた服だよね? 前々から聞きたかったんだけどその服どこで買ったのよ?
「お~ふゆ、今日はめかさなくていいんだよぉ」
 有砂は冬樹を見てニヤニヤしている。そう言えばその日一緒にいたんだから服の出所知ってるんだよね?まさかとは思うが有砂が買ってやったのだろうか?
「これしか無かったの、ボタンあるから面倒~い」
 ん~どれどれ? 冬樹はボタン留めるの苦手だからなぁ。私はちゃんと着れているかのチェックをしてみると案の定途中からズレて留めている。
「ここズレてる、直してきな」
「え~っ、なつ姉ちゃん直して~」
「しょうがないなぁ」
 ここで変に自分でやらせるとかえってみんなを待たせてしまう。仕方なく弟の身嗜みを直してやると何故がご満悦の表情を浮かべている、こういうとこ小さい頃から変わっていない。
「うわぁいありがとなつ姉ちゃん」
「どういたしまして、んじゃ行きますか」
 私たちはお茶を飲み切り……あっ、片付け!
「片付けなら俺がしとく、そろそろ出ねぇと売り切れの店出てくるぞ」
「悪いね、んじゃ宜しく」
 片付けを秋都に任せ、四人と冬樹コブ付きでバザー会場へと向かった。

 昼下がりの時間帯となり、昼食を済ませたお客たちでバザーはかなり盛況している。そう言えばてつこんとこ毎年ここで家電製品の実演販売会をやってるよな……直接購入だと大荷物になるのでここで契約してから後日配送するってシステムを取ってるんだけど、食材を扱ったりするから毎度ながら大掛かりで場所もそれなりに取っている。
「あれ? なつじゃない、どうしたのよ? そんなにめかし込んで」
 とは古本屋さんの最上恩もがみめぐさん、一つ上の先輩で私は大学まで同じで何かとお世話になった。う~ん、普段滅多にしない格好なだけに違和感を覚えるようだ。
「えぇ、今日は有砂に……」
「なつにとっては一世一代の大勝負なの! メグちゃんも応援してね!」
「何の大勝負なのさ? お見合いでもさせんの?」
 メグさんは有砂の張り切り様に苦笑いしている。
「そう! 私キューピット役だから! 友の新たな門出に向けて……ふごふごっ!」
 もうお前は黙ってろ、郡司君に聞かれたら今度こそドン引きされるわ。
「別にそんなんじゃないんでお気になさらず~」
 私は深雪さんの時と同様笑ってごまかしたが、メグさんはそう言えば、とニヤッとしてきた。
「国分寺至がこっちに戻ってきてるって、聞いてる?」
 まさかここで先輩の名前が出てくるなんて思っていなかったのでえっ? と聞き返してしまった。有砂の口を塞いでいた手の力も弛み、その隙を突いて手を引っ剥がされた。
「ぷはぁ~、誰なのさ? 国分寺至ってぇ」
 そうか、有砂には名前まで伝えてないわ。でももう十年以上も昔の話、この際黙っておこう。
「高校の同級生だよ、なつにとっては先輩だけど」
 代わりにメグさんが軽く説明してくれた。因みに彼女も事情は知っている。
「姉から聞きました」
「そっか、じゃあ二人の関係も……」
「存じてます」
 私はこくんと頷いた。
「そっか。実は二人でここに来たのよ、午前中のうちに」
 有砂は何か言いたげな表情で私の顔を覗き込んでくる。
「辛かったりする? ここでする話じゃないけど」
 辛いかと言われるというそこまででもない。でもちょっとした後悔はずっと引っ掛かったまんまで、何となく居心地が悪い感覚に襲われる事はある。
「う~ん、これを機に謝った方が良いのかな? って気はしてます」
「そう? 彼気にしてない風だったよ、普通に『久し振りに会って話したい』って言ってたし」
「そうですか」
 取り越し苦労、なのかな? でもあの時あんな嘘を吐かなければ……。
「なつぅ?」
「うん、何でもない」
 私は無理矢理口角を上げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...