わたしの“おとうさん”

谷内 朋

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違いすぎる価値観

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 「あの辺は差別意識も強くてね、他所者にはちゃんとした物件を見せてくれないんだよ」

 先輩は南部で探した方がいいと、親切にも資料集めを買って出てくれるようになった。しかしあの辺の家賃はワンルームでも北部の倍くらいする。

「あの、学生にこれはいくら何でも高すぎませんか?」

「えっ? 安物件をチョイスしたんだけど」

 この人の金銭感覚は大丈夫なんだろうか? 彼は周りの人たちに高い? と尋ね回っているが、反応は賛否両論といったところか。

「高いって思う人もいるんだね」

 彼は不思議そうな表情を見せて言った。


 それから数日が経ち、この日はアルバイトが無かったので授業を終えると叔母宅に直帰した。すると物凄い形相の女がずかずかと歩み寄り、いきなりビンタを食らわしてきた。

「このメス豚っ!」

 はぁ? 一体何の話をしてるんだ? 面食らった状態なので思考などまともに働きやしない。しかし女はまだ気が済まないらしく、もう一発殴ろうと腕を振り上げていた。私は同じ手は二度も食らうかと女を見据えたが、意外にもリョウが女の腕を掴んで仲裁した。

「離してよっ!」

「余計なことすんな」

 女はリョウの顔を見た途端意気消沈し、幸い矛を収めていた。しかし私の頬はジリジリと痛みが響く、それにしても何なんだこの女?

「取り敢えず顔冷やしてこい」

「へっ?」

 一瞬何を言われているのか分からなかったが、何にせよ顔が痛いので二人を置いて洗面所で顔を洗った。鏡越しの私の顔は赤く腫れており、水だけでは引きそうにないので台所に行って保冷剤を探す。

「どうしたの?」

 そこには何故か神戸さんがいた。

「殴られた、変な女に」

 私は気が立っていたせいか雑な受け答えしていた。

「あぁ、千葉さんの娘さんだよ。さっき『父に用がある』って訪ねてきてさ、彼の不倫を疑ってるみたい」

 それで私を愛人だと思い込んだのか? はっきり言っていい迷惑だ。ならここに女が出入りする度に片っ端から殴っていく気なのか? ってことは叔母にも同じことをしたのだろうか?

「頭沸いてんじゃない?」

「けど事情も分からず何日も戻ってこないってなりゃ疑心暗鬼にもなるだろ、説明責任を果たさなかった千葉さんにも問題はあるよ」

 そう言われてみるとそうかもしれないが、それは千葉家でどうにかしてほしい問題で私には関係ない。私は保冷剤を見つけて台所を出ると、玄関前にいたリョウと千葉さんの娘は既にいなくなっていた。
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