コーヒーゼリー

谷内 朋

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恋愛編

ー15ー

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 昼食のバーベキューまでは志摩も参加してアウトドアを楽しみ、彼が帰宅した後ホテルのチェックインに合わせて部屋割りの話になる。
 「小田原さんはファミリールームでしょう。あとは二人部屋だから知った顔同士の方が良いわよね?」
 ここは奈良橋が仕切って部屋割りを始める。庶務課、人事課、宣伝課はあっさり決まり、営業課は大澄と牟礼、奈良橋と三井で収まった。残った波那と畠中が消去法で同室になったのだが、昨年末の出来事を知っている奈良橋、望月、牟礼の三人は、大丈夫かなぁ?と密かに思っていた。
 「波那ちゃんの事、襲っちゃダメだからねっ!」
 「襲うかっ、変な事言うな!」
 望月は同期の波那を危険に晒せない、と釘を刺してくるので、畠中は不服そうにムッとした表情を見せる。
 「身の危険を感じたら遠慮なく避難しに来てくださいね」
 牟礼は波那を心配して声を掛け、波那は、ありがとう。と苦笑いしている。
 「ちょっと待て!牟礼さんまで……」
 「まぁしょうがないわよ、あんた信用無いから」
 最終的には奈良橋にバッサリと斬られ、俺一体どう映ってんだ……?とがっくり肩を落とした。
 かくして二人は二泊同室で過ごす事になり、一同はチェックインして夕食までの時間は部屋で過ごしていたが、年明けの出来事を思い出されて何となく気まずくて少し距離を置いてしまう。
 「心配すんな、俺恋人居るから」
 「そうですか、実は僕もお付き合いしている方が居るんです」
 畠中は千郷と言う名の大学生を、波那は中林を思い浮かべていた。
 「そうか……。で、どんな人なんだ?あんたのパートナー」
 波那はあの男をどう見ているのだろうか?それが気になって訊ねてみた。
 「とても優しい方ですよ」
 波那は何も気にせず正直に答える。あいつが?冗談だろ?畠中は彼の粗暴な一面を知っているだけにその評価は意外だった。十五年ほど仲違いしている状態なので連絡など取っていないのだが、そうそう性格が変わるとも思えない。
 「へぇ。優しい人、ね……」
 彼は含みのある言い方をして波那の顔を見つめる。
 「?どうかなさいましたか?」
 何でもない。いつぞやにバーで見掛けた二人の姿を思い出して嫌な気分になってしまったが、ここはぐっと堪えて平静を装っていた。

 翌日の天候はいまいちだったのだが、雨は降っていなかったので予定通りバーベキューランチを決行する。
 「今日は釣り道具をレンタルしたんだ、君たち男が魚を釣らないとご飯抜きだからね」
 え??っ。名古屋出身、都会育ちの野上は自信無さげにうなだれていたが、四国出身、清流で有名な川を望む地域で育った三條は、久し振りに腕が鳴る。と嬉しそうだった。畠中は田舎っ子ではなかったが、亡き祖父に釣りの手ほどきを受けた事があったので少しばかり楽しみにしている。
 「餌が虫だったら絶対ムリ」
 「なら付けてやるよ、畠中君は?」
 「祖父が漁師だったんで大丈夫です」
 「じゃあ期待できそうだね、魚は僕がさばくから」
 小田原は頼もしい部下たちに目を細めてから調理の下準備に取り掛かる男性陣は近くの川で魚釣りを始めており、畠中が子供たちに釣りを教えていた。
 一方で奈良橋を中心とした女性陣はホットケーキミックスを使っての焼き菓子作りに勤しんでいたのだが、実はアウトドア派の牟礼は仲間と離れて釣り部隊に加勢してきた。
 「畠中さんにまだ未練があるのかなぁ?」
 望月の心配は取り越し苦労の様で、牟礼は宣伝課の二人と行動を共にしていた。餌の虫も平然と触り、釣り部隊の救世主となっている。
 その甲斐あって魚は大漁、小田原が釣れた魚をその場で調理していく。他の食材の下ごしらえをしていた波那と小林、釣りを終えた子供たちも手伝って昼食は順調に仕上がっていた。
 一方の菓子部隊も不恰好ではあったがバームクーヘンを地道に作り上げ、傍らで男性陣と牟礼が飯盒炊爨で米を炊いてそれなりに豪勢な昼食が出来上がった。
 普段なかなか体験出来ない自然の中での食事は絶品だった。川魚が苦手と言っていた七瀬もきれいに完食しており、デザートとして出されたバームクーヘンも思いのほか好評だった。

 夜、男性陣はホテル自慢の露天風呂を満喫し、波那は女性陣と人事課二人の部屋に集まってトランプゲームをしていた。他の四人は広間にある卓球台で卓球温泉としゃれ込んでおり、子供たちは併設してあるゲーム機で遊んでいる。
 するとそこへ飲み物を買いに来た奈良橋と須藤が卓球をしている男性陣に近付いてくる。
 「私達もやっていい?」
 「良いですよ、お二人で対戦なさいますか?」
 宣伝課の二人は卓球台を譲って審判を買って出る。畠中もそれを見ていると、二して自分たちとは明らかにレベルの違うものを披露し始めた。
 「ちょっと待て、何なんだよあのレベル」
 予想外のレベルの高さに驚いた畠中はつい普段の粗野な話し方が出てしまうが、野上は気にせず二人の輝かしい経歴を話して聞かせた。
 「あの二人元卓球選手で、須藤さんは高校、大学時代団体戦で日本一になってるし、奈良橋さんは三年前までクラブチームに所属してて、国体で最高三位だったんだ」
 はあ?そんな話をしていると小田原父子もやって来て、面白そうにケータイをいじっている。
 「これは見物だよ、皆呼ばないとね」
 その光景は他の客も魅了して軽い人だかりが出来ている。波那を含めた女性陣は小田原の報せからほどなく広間にやって来て、それに気付いた三條が彼女たちを近くに引き寄せた。
 二人はギャラリーを気にする事無くハイレベルな試合を展開しており、それでも本気モードではない様で浴衣も息も全く乱れていなかった。試合は何度かのデュースの末奈良橋が勝利し、この後奈良橋、須藤ペアに畠中と三條がペアを組んでのダブルス対決が始まった。
 この二人さほど相性は悪くなかったのだが、このペアには全く歯が立たず惨敗した。更にギャラリーの中から男性二人も参戦してきてあっさり打ち負かされる。終いには子供たちに卓球を教えていると言う女性まで現れて名刺を渡されていた。

 卓球温泉を終えて波那と共に部屋に戻った畠中は、アクティブに動き回った疲れから早速ベッドに寝転んだ。
 「あ″??疲れたぁ!」
 「凄かったですね、奈良橋さんと須藤さん」
 波那は冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出して畠中に手渡した。サンキュ。礼を言って受け取ると、一気に三分の一ほど飲み切った。
 「にしたってあんなの卓球温泉レベル超えてるよ」
 「仕方無いですよ、お二人共元は一流選手だったんですから」
 「あのオバサンには何かあると思ってたけど、須藤さんにもあった別の顔……」
 「またそう言う言い方して……」
 波那は畠中の口の悪さに若干呆れ返る。
 「だってさぁ、営業一課の女共どういつもこいつも強烈じゃねぇかよ。牟礼さんはそうでも無いけどあのアウトドア慣れには驚いた」
 「そうですね、仕事で一緒に働いていても分からない一面ってありますから」
 波那はこの二日間で色々な側面を見せてきた同僚たちを思い出しながら笑った。畠中は未練が疼いてその笑顔をまともに見ることが出来ず、顔を逸らしてテレビを点けた。
 「一応ニュースは見るんだ、時事問題くらいは知っとかないと」
 「そうなんですけど、最近のニュースは世知辛過ぎて気分が悪くなってしまうんです」
 「じゃあ止めようか?」
 「構いませんよ、僕は本でも読んでますから」
 波那はテレビに背を向けて持参している文庫本を開く。畠中は日課としてニュースを見ていたが、読書をする波那の後ろ姿が気になって仕方がない。

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