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第33話 〜次から次へと苦いなぁ〜

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 「あの、僕には上等すぎませんか?」

 俺かておとんの保険金のお陰でまぁまぁな大学出させてもろうたけど、話聞いとる感じやとそれなりのお嬢様なん違うの?そんな人やと家片親やし一人っ子みたいなもんやから物件としてはそないに良うない思う。しかもおかんはめちゃめちゃ気ぃ強い、将来の嫁さんも同じような性格やったら毎日バトって俺の方が参ってまうわ。

 「何を言うとんのや、あの母親なら殺しても死なんさかい一人で生きていきよる」

 いや表向きは気丈にしとるけど結構な寂しがり屋やねん、大学の四年間一人にしとっただけでかなり痩せ細ってしもたからな。それ見てきとるから自然と郷での就職を決めたくらいやし、俺は出来れば同居してくれる女性がええ。
 ‎……なんて考えとると結構な勢いで入り口の引き戸が音を立てて開かれたようで、靴音がやたらとでかくカツカツと聞こえてくる。

 『町会議員の八杉きよし、来てる?』

 声の感じからするとほぼ同世代の男の声、何かドラ男感満載なんすけど。

 『えぇいらっしゃってますよ、どうぞこちらへ』

 ここでも似非恭しくしとるクソ親父もとい店主は、今日もお召し物が~なぞとお世辞丸出しちっくな会話を繰り広げながらこっちに向かってきとるようや。

 『失礼致します、お見えになられました

 「おぉ来たか、入れ」

 その言葉を合図にすっと襖戸が開かれる。俺は振り返るんも行儀良うないかと思って敢えて後ろを振り返らんかった。男はドカドカと足音を立てて俺をすっと横切り、八杉氏の隣にドカッと腰を落とす。俺はこの時初めて男の姿を目にし、一つの記憶と重なって思わず固まってしまった。……が俺の思考などお構い無しに八杉氏の喋りは既に始まっていた。

 「長男の瑠偉るいや。こっちは有岡徹平君」

 コイツ長男やったんか……八杉氏には双子の息子が居るんは知っとった。しかし俺が面識有るんは次男の玲皇れおさんだけである。長男コイツの方は幼稚園から大学まで全寮制のお坊ちゃま学校に通っとってほとんどこの町に居らんかったと思う。

 「有岡と申します」

 今更事態は覆らん……俺は諦めて瑠偉氏に挨拶する。

 「あぁこの子ね」

 何故か鼻で笑われたんですけど……こうしてまともに会うん初めてやのに笑われる筋合い無いわ。

 「君、子供っぽいって言われない?」

 ……あぁ顔に出てしもとったか。けど俺割かし図体でかいし若々しい顔立ちでもないんで幼く見られる事は殆ど無い。

 「いえ言われません」

 その返事が意外やったと言わんばかりに瑠偉氏はへぇ、と大袈裟に言い腐る。玲皇さんと双子であるなら俺の四つ上、目下相手とは言え俺よか大人や言うんなら薄ら笑い浮かべながら喋るん何とかせえあほんだらが。

 「直接言われてないだけかも知れないね」

 その話まだ続くんかい?

 「多分そう思われてるだろうから肝に銘じておいた方が良いよ」

 「それはどうもご親切に」

 ……あっ、またやってもうた。
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