5 / 39
Ⅴ
しおりを挟む
「……の筈だったのに」
香津の『出て行く』宣言から季節が一つ過ぎたが、彼女は未だ動きを見せない。中出し男は既に福岡での生活を始めているはず、ひょっとして『出て行く詐欺』かよこれ?
「まだ四人で生活してるのか?」
この日も打ち合わせで檜山と顔を合わせている。
「えぇ、かれこれ四ヶ月動き無しよ」
「上手く行ってないんじゃないのか?遠距離だし」
「さぁ、そんなの知ったこっちゃないからね」
「それでよく共同生活出来るよな」
檜山の呆れる気持ちもよく分かる。本来一番寛げるべき筈の家という空間に癌細胞を住まわせている状況なのだ。つまり病気を放置してるようなものなのだが、人間というのは恐ろしい生き物でこんな生活を続けていてもいずれ慣れてくるのだ。
「何かねぇ……人間の適応能力が恐ろしくなるね」
「そういうのに慣れ親しむと後々困るのお前だぞ」
そうかもねぇ……私は他人事の様に返事をする。そう、香津と由梨が来てからというもの私はどことなく日々の生活が二次元の様に感じる事がある。
「取り敢えずたまには息抜きしろ、伊織もお前に会いたがってたからな。一日くらいなら泊めてやるよ」
「リア充カップルのお邪魔なんてしませんよ、お気持ちだけありがたく頂戴致します」
私はそこまで図々しい事は出来ない、なかなか出て行かない香津にミカはイライラを募らせていていつ争いが起こるか分からない状況なのだ。彼女にばかり嫌な役割はさせられない。
「よぉ貴之、仕事か?」
とこちらの会話に容赦無く割り込んでくる謎の男……と言う程でもなかった、檜山の同僚である男性が声を掛けてきた。
「えぇ、さっき終わったところです」
「ふぅん……で、そちらの方は?」
「今回ご一緒するライターさんです。紹介するわ、少年誌担当の仰木大和、こっちは薗田麻帆」
「仰木です、お話はかねがね」
「どうも」
私たちは取り敢えず挨拶として握手を交わす。『お話はかねがね』?どういう事だろうか?
「西山香津さんのご友人ですよね?」
……あぁ、そういう事ですか。世の中案外狭いものですね。
「そこまで親しくはありませんが」
「ルームシェアなさってるのに?」
仰木大和という男は何気に他人の領域に土足で入ろうとしてくる男のようである。見てくれはそこそこ良いがそれだけの男の様だ。
「中途半端な友人だとかえってうまく行かないものですよ」
「それだけ彼女とは親しいんですね」
「……」
私は敢えて答えないで鉄仮面の笑みを作る。これで察してくれるほど頭の良い男ではないだろう。更に言えば正直に話しても無駄に茶化してくる品の無さも持ち合わせていそうである。この男に腹を見せるのは危険だ……たかだか三十年ちょい程度の経験値ではあるが、私の直観はそう判断した。
「檜山さん、私はこれで失礼します」
「えぇ、例の件宜しくお願いします」
こういう時の彼の勘の良さは非常にありがたく思う。この仕事で檜山とはまた顔を合わせる、その時にでもこの男の事を探らせてもらおう。何故だかよく分からないが嫌な予感がする……私は二人に会釈して早々とその場から離れた。
香津の『出て行く』宣言から季節が一つ過ぎたが、彼女は未だ動きを見せない。中出し男は既に福岡での生活を始めているはず、ひょっとして『出て行く詐欺』かよこれ?
「まだ四人で生活してるのか?」
この日も打ち合わせで檜山と顔を合わせている。
「えぇ、かれこれ四ヶ月動き無しよ」
「上手く行ってないんじゃないのか?遠距離だし」
「さぁ、そんなの知ったこっちゃないからね」
「それでよく共同生活出来るよな」
檜山の呆れる気持ちもよく分かる。本来一番寛げるべき筈の家という空間に癌細胞を住まわせている状況なのだ。つまり病気を放置してるようなものなのだが、人間というのは恐ろしい生き物でこんな生活を続けていてもいずれ慣れてくるのだ。
「何かねぇ……人間の適応能力が恐ろしくなるね」
「そういうのに慣れ親しむと後々困るのお前だぞ」
そうかもねぇ……私は他人事の様に返事をする。そう、香津と由梨が来てからというもの私はどことなく日々の生活が二次元の様に感じる事がある。
「取り敢えずたまには息抜きしろ、伊織もお前に会いたがってたからな。一日くらいなら泊めてやるよ」
「リア充カップルのお邪魔なんてしませんよ、お気持ちだけありがたく頂戴致します」
私はそこまで図々しい事は出来ない、なかなか出て行かない香津にミカはイライラを募らせていていつ争いが起こるか分からない状況なのだ。彼女にばかり嫌な役割はさせられない。
「よぉ貴之、仕事か?」
とこちらの会話に容赦無く割り込んでくる謎の男……と言う程でもなかった、檜山の同僚である男性が声を掛けてきた。
「えぇ、さっき終わったところです」
「ふぅん……で、そちらの方は?」
「今回ご一緒するライターさんです。紹介するわ、少年誌担当の仰木大和、こっちは薗田麻帆」
「仰木です、お話はかねがね」
「どうも」
私たちは取り敢えず挨拶として握手を交わす。『お話はかねがね』?どういう事だろうか?
「西山香津さんのご友人ですよね?」
……あぁ、そういう事ですか。世の中案外狭いものですね。
「そこまで親しくはありませんが」
「ルームシェアなさってるのに?」
仰木大和という男は何気に他人の領域に土足で入ろうとしてくる男のようである。見てくれはそこそこ良いがそれだけの男の様だ。
「中途半端な友人だとかえってうまく行かないものですよ」
「それだけ彼女とは親しいんですね」
「……」
私は敢えて答えないで鉄仮面の笑みを作る。これで察してくれるほど頭の良い男ではないだろう。更に言えば正直に話しても無駄に茶化してくる品の無さも持ち合わせていそうである。この男に腹を見せるのは危険だ……たかだか三十年ちょい程度の経験値ではあるが、私の直観はそう判断した。
「檜山さん、私はこれで失礼します」
「えぇ、例の件宜しくお願いします」
こういう時の彼の勘の良さは非常にありがたく思う。この仕事で檜山とはまた顔を合わせる、その時にでもこの男の事を探らせてもらおう。何故だかよく分からないが嫌な予感がする……私は二人に会釈して早々とその場から離れた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる