傍観者

谷内 朋

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 人の噂も七十五日、とはよく言ったもので、あれほど世間を賑わせた『エセ美談婚』もいつの間にか風化したニュースとなっていた。そんな中私は取材旅行と執筆活動でひと月ほど出勤出来ないので、それを伝えにアルバイト先の事務所に顔を出していた。
 「今回は長丁場だね、お手数だけど一週間毎にここに電話だけ忘れないで」
 「分かりました。入れる日が決まったら直接電話します」
 「うん、それで宜しくね」
 はい。普通の会社員ではあり得ないくらいに簡単なやり取りで長期休暇を取得した。

 そして取材旅行当日、新幹線駅で今回担当してくれる女性編集者と待ち合わせしていると男性の声が私の名を呼んできた。誰だ?あまり聞き覚の無い声だったので少々不気味に思ったが、よく見てみると仰木大和だった。彼はスーツ姿でスーツケースを従えている、恐らく出張か何かだろう。
 「ご無沙汰しています」
 一応成人女性と言うやつなので最低限の挨拶はしておく。
 「取材旅行なんだってね、檜山と一緒なの?」
 「いえ、今回は女だらけです」
 と話していると待ち合わせ相手である編集者がやって来た。
 「お待たせしました」
 「私もさっき着いたところです」
 今回同行してくれる編集者の松井まついさんは檜山の先輩にあたる女性で、私も親しくさせて頂いている。
 「それじゃ行きましょうか……仰木さん、私たちは時間なのでこれで」
 「えっ?まだ時間あるじゃないですか」
 「今回は私たちだけじゃないから」
 そう、今回は歳の近い新進気鋭の女性カメラマンと助手も同行する事になっているのでこちらが待っているくらいがちょうど良い。松井さんは仰木への挨拶もそこそこに私の手を引いて足早に改札口から駅構内に入る。引き摺られるように付いて行く私だったが、階段を登り切って左折した辺りで速度を緩めて手を放してくれた。
 「ゴメンね、私あの人受け付けないのよ生理的に」
 そういう事か……私は彼女の気持ちが理解出来た。確かにあの男はどこかギラギラしていて一緒に居ると落ち着かない。常に女を意識して隙あらばいつでも抱ける準備は怠っていなさそうなのだ。
 「どう頑張っても苦手な方っていますからね」
 「大人としての対応じゃないのは分かってるんだけど……」
 「そこまでひどい対応じゃなかったと思いますよ。折角入ったんですから売店を色々観ていきましょう」
 私の言葉に松井さんは笑顔になってそうね、と頷いてくれた。

 それから駅構内で無事女性写真家と助手さんと合流した私たちは、駅弁を四つ購入して特急列車に乗り込んだ。これはあくまでも月刊誌に掲載する単発企画の取材旅行なのだが、この場にいる全員が歳も近く独身という事もあって雰囲気的には旅行気分だ。
 「正直気難しい方だったらどうしようかと思ってました。でも実際お会いしてみるとふわっとしてて女の子らしいですよね」
 そうだろうか?私はフェミニンな感じではないし女の子らしくもない。まぁ小柄だからそう見えているだけだと思うのだが。
 「女の子らしいなんて言われた事が無いですね」
 「そお?薗田さん可愛いと思うけどなぁ」
 彼女は私なんかよりも遥かに美しいお顔でとんでもない冗談を吐かしてくれる。助手の相川あいかわさんも困った表情をしておられるのがいたたまれない。
 「でも薗田さん顔出しNGは勿体無いと思いますよ」
 相川さんの精一杯のおべっか、気を遣わせてしまい申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
 「デビューする時にそういう話はあったんですよ、でも本人が頑なに『嫌だ』と」
 「そりゃそうですよ。こんな顔晒したら折角付いてくださった読者さんにガッカリされてしまいます」
 思い出した、確か当時北欧雑貨を集めたお店の取材に行った時に取材人として顔出しにしようという話が出て、それを推したのが松井さんだった。
 私は顔出しなんかして石でも投げ付けられたらどうしようと身震いして断固反対させてもらった。雑誌購読年齢層に合わせた二十代女はこんな奴ですなんて晒され、お前みたいなブス女がかわい子振ってんじゃねぇぞ的な批判に耐えられるほど私のメンタルは強くない。
 文章力のせいで発行部数が伸びないのであればその責任は百パーセント受けるが、女優でもないのにルックスのせいにされても責任なんて取れない。
 「それで未だに顔出しNG、書籍出版してもサイン会すら出来やしない」
 「イヤですよサイン会なんて。私がコミュ障なのはご存知でしょう?」
 「コミュ障と言うより極度の人見知りでしょうが。折角連載持ってそこそこ読者さんも付いてるのに……」
 松井さんは私を見てため息を吐く、何故か鳴海さんも一緒に。
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