10 / 39
Ⅹ
しおりを挟む
人の噂も七十五日、とはよく言ったもので、あれほど世間を賑わせた『エセ美談婚』もいつの間にか風化したニュースとなっていた。そんな中私は取材旅行と執筆活動でひと月ほど出勤出来ないので、それを伝えにアルバイト先の事務所に顔を出していた。
「今回は長丁場だね、お手数だけど一週間毎にここに電話だけ忘れないで」
「分かりました。入れる日が決まったら直接電話します」
「うん、それで宜しくね」
はい。普通の会社員ではあり得ないくらいに簡単なやり取りで長期休暇を取得した。
そして取材旅行当日、新幹線駅で今回担当してくれる女性編集者と待ち合わせしていると男性の声が私の名を呼んできた。誰だ?あまり聞き覚の無い声だったので少々不気味に思ったが、よく見てみると仰木大和だった。彼はスーツ姿でスーツケースを従えている、恐らく出張か何かだろう。
「ご無沙汰しています」
一応成人女性と言うやつなので最低限の挨拶はしておく。
「取材旅行なんだってね、檜山と一緒なの?」
「いえ、今回は女だらけです」
と話していると待ち合わせ相手である編集者がやって来た。
「お待たせしました」
「私もさっき着いたところです」
今回同行してくれる編集者の松井さんは檜山の先輩にあたる女性で、私も親しくさせて頂いている。
「それじゃ行きましょうか……仰木さん、私たちは時間なのでこれで」
「えっ?まだ時間あるじゃないですか」
「今回は私たちだけじゃないから」
そう、今回は歳の近い新進気鋭の女性カメラマンと助手も同行する事になっているのでこちらが待っているくらいがちょうど良い。松井さんは仰木への挨拶もそこそこに私の手を引いて足早に改札口から駅構内に入る。引き摺られるように付いて行く私だったが、階段を登り切って左折した辺りで速度を緩めて手を放してくれた。
「ゴメンね、私あの人受け付けないのよ生理的に」
そういう事か……私は彼女の気持ちが理解出来た。確かにあの男はどこかギラギラしていて一緒に居ると落ち着かない。常に女を意識して隙あらばいつでも抱ける準備は怠っていなさそうなのだ。
「どう頑張っても苦手な方っていますからね」
「大人としての対応じゃないのは分かってるんだけど……」
「そこまでひどい対応じゃなかったと思いますよ。折角入ったんですから売店を色々観ていきましょう」
私の言葉に松井さんは笑顔になってそうね、と頷いてくれた。
それから駅構内で無事女性写真家と助手さんと合流した私たちは、駅弁を四つ購入して特急列車に乗り込んだ。これはあくまでも月刊誌に掲載する単発企画の取材旅行なのだが、この場にいる全員が歳も近く独身という事もあって雰囲気的には旅行気分だ。
「正直気難しい方だったらどうしようかと思ってました。でも実際お会いしてみるとふわっとしてて女の子らしいですよね」
そうだろうか?私はフェミニンな感じではないし女の子らしくもない。まぁ小柄だからそう見えているだけだと思うのだが。
「女の子らしいなんて言われた事が無いですね」
「そお?薗田さん可愛いと思うけどなぁ」
彼女は私なんかよりも遥かに美しいお顔でとんでもない冗談を吐かしてくれる。助手の相川さんも困った表情をしておられるのがいたたまれない。
「でも薗田さん顔出しNGは勿体無いと思いますよ」
相川さんの精一杯のおべっか、気を遣わせてしまい申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「デビューする時にそういう話はあったんですよ、でも本人が頑なに『嫌だ』と」
「そりゃそうですよ。こんな顔晒したら折角付いてくださった読者さんにガッカリされてしまいます」
思い出した、確か当時北欧雑貨を集めたお店の取材に行った時に取材人として顔出しにしようという話が出て、それを推したのが松井さんだった。
私は顔出しなんかして石でも投げ付けられたらどうしようと身震いして断固反対させてもらった。雑誌購読年齢層に合わせた二十代女はこんな奴ですなんて晒され、お前みたいなブス女がかわい子振ってんじゃねぇぞ的な批判に耐えられるほど私のメンタルは強くない。
文章力のせいで発行部数が伸びないのであればその責任は百パーセント受けるが、女優でもないのにルックスのせいにされても責任なんて取れない。
「それで未だに顔出しNG、書籍出版してもサイン会すら出来やしない」
「イヤですよサイン会なんて。私がコミュ障なのはご存知でしょう?」
「コミュ障と言うより極度の人見知りでしょうが。折角連載持ってそこそこ読者さんも付いてるのに……」
松井さんは私を見てため息を吐く、何故か鳴海さんも一緒に。
「今回は長丁場だね、お手数だけど一週間毎にここに電話だけ忘れないで」
「分かりました。入れる日が決まったら直接電話します」
「うん、それで宜しくね」
はい。普通の会社員ではあり得ないくらいに簡単なやり取りで長期休暇を取得した。
そして取材旅行当日、新幹線駅で今回担当してくれる女性編集者と待ち合わせしていると男性の声が私の名を呼んできた。誰だ?あまり聞き覚の無い声だったので少々不気味に思ったが、よく見てみると仰木大和だった。彼はスーツ姿でスーツケースを従えている、恐らく出張か何かだろう。
「ご無沙汰しています」
一応成人女性と言うやつなので最低限の挨拶はしておく。
「取材旅行なんだってね、檜山と一緒なの?」
「いえ、今回は女だらけです」
と話していると待ち合わせ相手である編集者がやって来た。
「お待たせしました」
「私もさっき着いたところです」
今回同行してくれる編集者の松井さんは檜山の先輩にあたる女性で、私も親しくさせて頂いている。
「それじゃ行きましょうか……仰木さん、私たちは時間なのでこれで」
「えっ?まだ時間あるじゃないですか」
「今回は私たちだけじゃないから」
そう、今回は歳の近い新進気鋭の女性カメラマンと助手も同行する事になっているのでこちらが待っているくらいがちょうど良い。松井さんは仰木への挨拶もそこそこに私の手を引いて足早に改札口から駅構内に入る。引き摺られるように付いて行く私だったが、階段を登り切って左折した辺りで速度を緩めて手を放してくれた。
「ゴメンね、私あの人受け付けないのよ生理的に」
そういう事か……私は彼女の気持ちが理解出来た。確かにあの男はどこかギラギラしていて一緒に居ると落ち着かない。常に女を意識して隙あらばいつでも抱ける準備は怠っていなさそうなのだ。
「どう頑張っても苦手な方っていますからね」
「大人としての対応じゃないのは分かってるんだけど……」
「そこまでひどい対応じゃなかったと思いますよ。折角入ったんですから売店を色々観ていきましょう」
私の言葉に松井さんは笑顔になってそうね、と頷いてくれた。
それから駅構内で無事女性写真家と助手さんと合流した私たちは、駅弁を四つ購入して特急列車に乗り込んだ。これはあくまでも月刊誌に掲載する単発企画の取材旅行なのだが、この場にいる全員が歳も近く独身という事もあって雰囲気的には旅行気分だ。
「正直気難しい方だったらどうしようかと思ってました。でも実際お会いしてみるとふわっとしてて女の子らしいですよね」
そうだろうか?私はフェミニンな感じではないし女の子らしくもない。まぁ小柄だからそう見えているだけだと思うのだが。
「女の子らしいなんて言われた事が無いですね」
「そお?薗田さん可愛いと思うけどなぁ」
彼女は私なんかよりも遥かに美しいお顔でとんでもない冗談を吐かしてくれる。助手の相川さんも困った表情をしておられるのがいたたまれない。
「でも薗田さん顔出しNGは勿体無いと思いますよ」
相川さんの精一杯のおべっか、気を遣わせてしまい申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「デビューする時にそういう話はあったんですよ、でも本人が頑なに『嫌だ』と」
「そりゃそうですよ。こんな顔晒したら折角付いてくださった読者さんにガッカリされてしまいます」
思い出した、確か当時北欧雑貨を集めたお店の取材に行った時に取材人として顔出しにしようという話が出て、それを推したのが松井さんだった。
私は顔出しなんかして石でも投げ付けられたらどうしようと身震いして断固反対させてもらった。雑誌購読年齢層に合わせた二十代女はこんな奴ですなんて晒され、お前みたいなブス女がかわい子振ってんじゃねぇぞ的な批判に耐えられるほど私のメンタルは強くない。
文章力のせいで発行部数が伸びないのであればその責任は百パーセント受けるが、女優でもないのにルックスのせいにされても責任なんて取れない。
「それで未だに顔出しNG、書籍出版してもサイン会すら出来やしない」
「イヤですよサイン会なんて。私がコミュ障なのはご存知でしょう?」
「コミュ障と言うより極度の人見知りでしょうが。折角連載持ってそこそこ読者さんも付いてるのに……」
松井さんは私を見てため息を吐く、何故か鳴海さんも一緒に。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる