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西原澄恋
第七話 異性との付き合い方
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「お待たせ」
お店から出てきた斉東さんはもうジャケットを羽織っていた。
帰る気満々って感じだった。
「いくらでした?」
お財布の中に小銭があるのはさっき確認済み。
でも概算で札を取り出そうとすると、斉東さんはイタズラっぽく笑った。
「忘れた」
「え?」
「忘れちゃったから割り勘出来ないわ、ごめんね」
白々しい嘘に、ちょっとだけイラッとした。斉東さんへの好感度マイナス2って感じ。
「すげぇ怖い顔」
怒っているのに笑われてしまって釈然としない。やっぱり好感度マイナス3だな。
「えーっと、西原さんさえ良ければなんだけどさ」
「・・・何ですか」
「次、奢ってよ。それでトントンにしない?」
あんまり酔ってないはずなのにすぐには意味が分からなくて、言葉の意味を考えてたせいで怒りがどこかに行ってしまった。
けど、これって、次のご飯のお誘いって事・・・?
「ここで、ですか?」
「うん、ここで」
「2人で?」
「あー、人数増えたら奢りにならなくない?」
「確かにそうですけど・・・」
斉東さんとのドラマ談義は面白かった。それに、まだ喋り足りてない気もしてた。
夜ご飯とは言え、個室って訳じゃないし、相手はメンターだし。男性とはいえ会社の人だし・・・なら、いっか。
「じゃあ次の金曜日でいいですか?」
「・・・俺は良いけど、逆に良いの?」
「いつまでも借りたままにしたくないので」
「そっか」
そんな感じで次回のご飯も決まり、遠慮したのにしっかりとアパート前まで送り届けてもらい、そこで斉東さんと別れた。
部屋に帰りつき、カバンを下ろしたところで、斉東さんの連絡先を聞いていない事に気づく。
月曜日に会社で聞こうかな?でも、メンティー(指導を受ける立場)とは言え、異性と連絡先を交換するのは彼女さんとかに悪いかな?
それも含めて聞いてみる?こういうこと聞くのって、迷惑じゃない?
同期のノイシン君だって、個人的に連絡先は交換せずにグループLINEでしか話しはしてない。
異性との付き合い方って、難しいなぁ。
こっちは何とも思ってないのに、ちゃんと変な風に思われないように気を使わないといけないんだもん。
本当は斉東さんとだってもう少し喋りたかった。次の店だって行きたい気もしてた。
ただ趣味の合う友だちになりたいって、男性相手だとやっぱり難しいのかなぁ・・・。
なんて言う悩みも、月曜朝出社直後にはほとんど無意味なものになった。
「おはようございます」
「西原さんおはよう」
席に着き、カバンをしまってPCを開く。と、腕をつんつんとつつかれた。
つついてきたのは他でもない隣に座る斉東さん。
てっきり仕事の話かと思って彼のPCを覗き込んだけど、普通に私には関係ない資料を作成中のようだった。
「そっちじゃなくて、こっち」
言われて斉東さんを見ると、彼はスマホの画面をこれみよがしに掲げていて、しかもLINEの、友だち登録用の画面で。
それだけで何が言いたいかは理解出来た。
「支障がなければ連絡先交換しない?リアルタイムで感想言い合いたいし」
「支障?」
「あー、ほら。彼氏が嫉妬するタイプなら支障あるかなって」
考えていた事を見透かされたような提案に少し警戒したけど、その後の、私と全く同じ懸念を抱えているのだと言う事実に思わずクスリと笑ってしまった。
何かこう、趣味が合うだけじゃなくて、思考パターンも似ているのかと思うと、変に遠慮するのが無駄に思えてきたのだ。
「支障ないからいいですよ」
スマホを取り出して、連絡先を交換して、斉東さんのアイコンの猫ちゃんの可愛さに癒されたりして。
連絡先を交換したお陰で、プライベートな時間は趣味友達、仕事中は頼りになるメンターという彼の色んな顔を知る事になる。
そんな関係はOJTとして社外に出るようになってからも続き、いつしか私たちは愛歌から「サイサイコンビ」と言われるまでになったのであった。
お店から出てきた斉東さんはもうジャケットを羽織っていた。
帰る気満々って感じだった。
「いくらでした?」
お財布の中に小銭があるのはさっき確認済み。
でも概算で札を取り出そうとすると、斉東さんはイタズラっぽく笑った。
「忘れた」
「え?」
「忘れちゃったから割り勘出来ないわ、ごめんね」
白々しい嘘に、ちょっとだけイラッとした。斉東さんへの好感度マイナス2って感じ。
「すげぇ怖い顔」
怒っているのに笑われてしまって釈然としない。やっぱり好感度マイナス3だな。
「えーっと、西原さんさえ良ければなんだけどさ」
「・・・何ですか」
「次、奢ってよ。それでトントンにしない?」
あんまり酔ってないはずなのにすぐには意味が分からなくて、言葉の意味を考えてたせいで怒りがどこかに行ってしまった。
けど、これって、次のご飯のお誘いって事・・・?
「ここで、ですか?」
「うん、ここで」
「2人で?」
「あー、人数増えたら奢りにならなくない?」
「確かにそうですけど・・・」
斉東さんとのドラマ談義は面白かった。それに、まだ喋り足りてない気もしてた。
夜ご飯とは言え、個室って訳じゃないし、相手はメンターだし。男性とはいえ会社の人だし・・・なら、いっか。
「じゃあ次の金曜日でいいですか?」
「・・・俺は良いけど、逆に良いの?」
「いつまでも借りたままにしたくないので」
「そっか」
そんな感じで次回のご飯も決まり、遠慮したのにしっかりとアパート前まで送り届けてもらい、そこで斉東さんと別れた。
部屋に帰りつき、カバンを下ろしたところで、斉東さんの連絡先を聞いていない事に気づく。
月曜日に会社で聞こうかな?でも、メンティー(指導を受ける立場)とは言え、異性と連絡先を交換するのは彼女さんとかに悪いかな?
それも含めて聞いてみる?こういうこと聞くのって、迷惑じゃない?
同期のノイシン君だって、個人的に連絡先は交換せずにグループLINEでしか話しはしてない。
異性との付き合い方って、難しいなぁ。
こっちは何とも思ってないのに、ちゃんと変な風に思われないように気を使わないといけないんだもん。
本当は斉東さんとだってもう少し喋りたかった。次の店だって行きたい気もしてた。
ただ趣味の合う友だちになりたいって、男性相手だとやっぱり難しいのかなぁ・・・。
なんて言う悩みも、月曜朝出社直後にはほとんど無意味なものになった。
「おはようございます」
「西原さんおはよう」
席に着き、カバンをしまってPCを開く。と、腕をつんつんとつつかれた。
つついてきたのは他でもない隣に座る斉東さん。
てっきり仕事の話かと思って彼のPCを覗き込んだけど、普通に私には関係ない資料を作成中のようだった。
「そっちじゃなくて、こっち」
言われて斉東さんを見ると、彼はスマホの画面をこれみよがしに掲げていて、しかもLINEの、友だち登録用の画面で。
それだけで何が言いたいかは理解出来た。
「支障がなければ連絡先交換しない?リアルタイムで感想言い合いたいし」
「支障?」
「あー、ほら。彼氏が嫉妬するタイプなら支障あるかなって」
考えていた事を見透かされたような提案に少し警戒したけど、その後の、私と全く同じ懸念を抱えているのだと言う事実に思わずクスリと笑ってしまった。
何かこう、趣味が合うだけじゃなくて、思考パターンも似ているのかと思うと、変に遠慮するのが無駄に思えてきたのだ。
「支障ないからいいですよ」
スマホを取り出して、連絡先を交換して、斉東さんのアイコンの猫ちゃんの可愛さに癒されたりして。
連絡先を交換したお陰で、プライベートな時間は趣味友達、仕事中は頼りになるメンターという彼の色んな顔を知る事になる。
そんな関係はOJTとして社外に出るようになってからも続き、いつしか私たちは愛歌から「サイサイコンビ」と言われるまでになったのであった。
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