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西原澄恋
第十五話 返事、くれるんだろ?
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3月になると、会社から正式に配置転換についての周知があり、来期から、斉東さんが課長になることが確定した。
課長になるとチームから抜けるのかと思ってたけど、チームリーダーを兼任するんだそうだ。
「リーダーを続けることを条件に引き受けた」と笑っていたけど、その代わり課長業務の一部を副課長に引き継いで、副課長の補佐を愛歌のメンターである広崎さんが引き受けるらしい。
副課長も広崎さんもお子さんがいるお母さんなので、補助し合えるだろうという判断なのだろう。
席も配置自体を変えるらしい。
課長と副課長だけ別の島だったのに、他の島とくっつけて、かつチーム毎の島にするそうだ。
だから、また私の席の隣は斉東さんになるらしい。
また、来年度からも隣で仕事が出来るらしい。
そう考えただけで、嬉しくなる。胸の中がポカポカと暖かくなる。
だから斉東さんに、返事をするためにLINEのメッセージを送ることにした。
土曜日の、朝10時。より15分も前。
少し早く着いちゃって、ソファ席で緑茶を飲みながら待っていた。
緊張をほぐすのに暖かい飲み物はちょうどいい。
心地よい香りを嗅ぎながら両手とお腹の中を温めていると、入店してくる人影が見えた。
すぐに私に気づいて、こちらに来てくれる。
彼が近づいてくるにつれて、ほぐれたはずの緊張がまた胸をギュッと締め付けた。
「ごめん、待たせた?」
「・・・いえ」
彼は、斉東さんはいつもと変わらないでいてくれるのに、その顔が見れなくて俯いてしまった。
心臓が爆発しそうなくらいドキドキで、苦しくて、喉の奥が震えてしまう。
こんなに緊張するのは、生まれて初めてかもしれない。
斉東さんが向かいの席に座って、注文用のタブレットを手に取る音がしても、顔が上げれない。
たった一言を伝えるだけなのに、こんなに重たい一言があったなんて・・・。
「あ、西原さんの好きそうなスイーツあるよ。注文しちゃう?」
「・・・いえ」
「じゃあ俺の飲み物だけにしとくね」
「・・・はい」
あぁ、駄目だ。
これじゃあ駄目だ。
これじゃあ斉東さんに変に思われる。
なのに、怖くて。
もう癒えたはずの傷が、はるか昔に突き刺さった言葉が、私を恐怖で支配する。
私って、やっぱり駄目な子だ・・・。
「西原さん?」
ちゃんと受け答えしないと、変に思われるのに。斉東さんには変だと思われたくないのに。
やっぱり、駄目だなぁ。
そんな、暗い気持ちが頭の中を支配する。
この時、私は忘れてしまっていたのだ。彼が、私を消して傷つけない人だという事を。
「おねーさん、何か悲しいことでもあった?」
聞いたことのあるセリフに、思わず顔を上げた。
優しく微笑む斉東さんの眼差しに、一瞬でマイナスな思考が掻き消える。
「星中の、第1話?」
「正解」
そうか。そうだ。
斉東さんはいつも私を肯定してくれてた。私が助けて欲しい時には助けてくれてた。
きっと、この関係の名前が変わっても、それはずっと変わらないんだろう。
これ以上心強い事が、他にあるだろうか?
「落ち着いた?」
「はい」
「なんか久しぶりだな。こうやって2人で会うの」
「斉東さん、ずっと忙しそうでしたもんね」
1度喋り出すと、もういつもみたいに喋ることが出来た。
緊張がなくなると、心臓のドキドキもどこか心地が良い。
「西原さんが誘ってくれなくなったからだろ」
「そういう斉東さんこそ」
「だって俺は・・・俺からは無理だろ」
言いながら、斉東さんの目が、悲しげに伏せられる。
その姿に、また心臓がギュッとしちゃう。
「あの・・・」
「あれだろ?返事、くれるんだろ?」
「はい」
「良いよ。覚悟は出来てるから」
斉東さんは大きくため息をついて、また私を見た。
その目は、少し潤んでいた。
「わ、私で良ければ・・・お願いします」
「え?」
「・・・え?」
課長になるとチームから抜けるのかと思ってたけど、チームリーダーを兼任するんだそうだ。
「リーダーを続けることを条件に引き受けた」と笑っていたけど、その代わり課長業務の一部を副課長に引き継いで、副課長の補佐を愛歌のメンターである広崎さんが引き受けるらしい。
副課長も広崎さんもお子さんがいるお母さんなので、補助し合えるだろうという判断なのだろう。
席も配置自体を変えるらしい。
課長と副課長だけ別の島だったのに、他の島とくっつけて、かつチーム毎の島にするそうだ。
だから、また私の席の隣は斉東さんになるらしい。
また、来年度からも隣で仕事が出来るらしい。
そう考えただけで、嬉しくなる。胸の中がポカポカと暖かくなる。
だから斉東さんに、返事をするためにLINEのメッセージを送ることにした。
土曜日の、朝10時。より15分も前。
少し早く着いちゃって、ソファ席で緑茶を飲みながら待っていた。
緊張をほぐすのに暖かい飲み物はちょうどいい。
心地よい香りを嗅ぎながら両手とお腹の中を温めていると、入店してくる人影が見えた。
すぐに私に気づいて、こちらに来てくれる。
彼が近づいてくるにつれて、ほぐれたはずの緊張がまた胸をギュッと締め付けた。
「ごめん、待たせた?」
「・・・いえ」
彼は、斉東さんはいつもと変わらないでいてくれるのに、その顔が見れなくて俯いてしまった。
心臓が爆発しそうなくらいドキドキで、苦しくて、喉の奥が震えてしまう。
こんなに緊張するのは、生まれて初めてかもしれない。
斉東さんが向かいの席に座って、注文用のタブレットを手に取る音がしても、顔が上げれない。
たった一言を伝えるだけなのに、こんなに重たい一言があったなんて・・・。
「あ、西原さんの好きそうなスイーツあるよ。注文しちゃう?」
「・・・いえ」
「じゃあ俺の飲み物だけにしとくね」
「・・・はい」
あぁ、駄目だ。
これじゃあ駄目だ。
これじゃあ斉東さんに変に思われる。
なのに、怖くて。
もう癒えたはずの傷が、はるか昔に突き刺さった言葉が、私を恐怖で支配する。
私って、やっぱり駄目な子だ・・・。
「西原さん?」
ちゃんと受け答えしないと、変に思われるのに。斉東さんには変だと思われたくないのに。
やっぱり、駄目だなぁ。
そんな、暗い気持ちが頭の中を支配する。
この時、私は忘れてしまっていたのだ。彼が、私を消して傷つけない人だという事を。
「おねーさん、何か悲しいことでもあった?」
聞いたことのあるセリフに、思わず顔を上げた。
優しく微笑む斉東さんの眼差しに、一瞬でマイナスな思考が掻き消える。
「星中の、第1話?」
「正解」
そうか。そうだ。
斉東さんはいつも私を肯定してくれてた。私が助けて欲しい時には助けてくれてた。
きっと、この関係の名前が変わっても、それはずっと変わらないんだろう。
これ以上心強い事が、他にあるだろうか?
「落ち着いた?」
「はい」
「なんか久しぶりだな。こうやって2人で会うの」
「斉東さん、ずっと忙しそうでしたもんね」
1度喋り出すと、もういつもみたいに喋ることが出来た。
緊張がなくなると、心臓のドキドキもどこか心地が良い。
「西原さんが誘ってくれなくなったからだろ」
「そういう斉東さんこそ」
「だって俺は・・・俺からは無理だろ」
言いながら、斉東さんの目が、悲しげに伏せられる。
その姿に、また心臓がギュッとしちゃう。
「あの・・・」
「あれだろ?返事、くれるんだろ?」
「はい」
「良いよ。覚悟は出来てるから」
斉東さんは大きくため息をついて、また私を見た。
その目は、少し潤んでいた。
「わ、私で良ければ・・・お願いします」
「え?」
「・・・え?」
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