聖女の私にできること往古来今

藤ノ千里

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西原澄恋

第十七話 もっとキスして

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「どうぞ。いらっしゃい」
「お邪魔します」
 玄関もアパートのものとは比較にならないくらい広くて、廊下もある。
 「こっちがリビング」と言いながら先導してくれる斉東さんに着いていくと、私の部屋くらいの大きさの部屋に着いた。
 テレビが大きくて、ソファがあって、更にはキャットタワーがある!
「凄ーい」
 それにそれに、大きな窓の外には、小さな庭も見えた。
 って事は、土地がそこそこ広い?
「おーいトラー」
 トラくん捜索は斉東さんに任せて窓の方に行くと、残念ながら庭には何も植わってない。
 斉東さんの激務っぷりからすると仕方ないけど、雑草はあまり生えてないから手入れ自体はしているようなのが彼らしいと言えば彼らしいところ。
「トラただいま。おいで」
 低いダミ声の「ニャー」を耳にして振り返ると、斉東さんがキョトン顔のサビ猫を抱いていた。
 思わず駆け寄る。
 間近で見るトラくんは、控えめに言って天使だった。
 丸々のお目目も、ちょっと縮れたお髭も、カットされてるお耳も可愛くて、鼻にあるブチ模様も可愛くて。
「抱いてみる?」
「いいんですか?!」
「いいよ。はい」
 手渡されたトラくんは、めちゃくちゃ柔らかかった。
 それに、見た目より軽い。
 しかもふわふわ。
 暴れないしぬくぬくだし、赤ちゃんみたい。
 え、可愛い過ぎない?
 ・・・引っ越そう。今年は絶対に引っ越して猫を飼おう。
 飼わずにはいられない。だってこんなにも可愛いんだもの。
 見上げてくるお目目可愛い。猫の額、お日様の匂いする。
 あぁ、しっぽふわふわ・・・!
 肉球!肉球ぷにぷにだぁ・・・!!
「あ!」 
 大人しく抱っこされててくれたのに、肉球を触った途端トラくんは腕の中から下りて行ってしまった。
 猫って、肉球触られるの嫌なのかぁ。残念。
「嫌がられちゃいました」
「ううん、今のは多分気を回してくれたんだと思う」
「気を?」
「あいつ賢いから、俺の心が読めるの」
 そんな風に冗談めかして言いながら、キャットタワーに登ってしまったトラくんを見送って、それから斉東さんは私を見る。
 真面目な顔で、私を見る。
「そろそろ澄恋とキスしたいなーって思ってたから」
 そう言って、斉東さんの顔が、ゆっくりと近づいて来くるから、恥ずかしくてお尻がモゾモゾしてきちゃった。
 こういうの、クーデレって言うんだっけ?斉東さんって実は肉食系?
 なんでそんな恥ずかしい事サラッと言えるの?
 顔が、鼻がくっつくくらいの距離でピタリと止まると、彼の目に私が映ってるのが見えた。
 体に力が入ってしまって、目が、逸らせない。
 いっそ一思いにキスしてくれれば楽なのに、焦らされてるみたいで切なくなっちゃう。
「澄恋」
 斉東さんの手が、私の手を優しく握って、その熱だけで溶けてしまいそうなのに、キスは寸止めで。
「キスしていい?」
 まるで媚薬みたいな言葉だった。
 なんでもない言葉のはずなのに、エッチな興奮が、背筋をゾワゾワと撫でていった。
「して欲しいです」
 斉東さんのせいで、私も思わず恥ずかしい事を口にしていた。
 また近づいて来る斉東さんの唇。思わず目を閉じると、彼の香りと共に唇に優しい温もりが触れた。
 でも、すぐに離れて行ってしまう。
 もっと欲しいと、もっとキスして欲しいと初めて思った。
 それくらい嬉しくて、斉東さんが好きだった。
「好きです」
 離れてしまった彼を見上げて、せめて名残惜しさを伝える。
 私を見つめながら、彼の喉がゴクリと鳴って、そしたらまた唇が重なっていた。
 さっきより力強いキスはまたすぐに離れたけど、そのまま彼に抱きしめられてそしてまたキスが降ってきた。
 強く抱きしめられながら、彼の唇が、私の唇を撫でる。
 気持ち良くてしがみ付くと、今度は舌が、斉東さんの舌が私の中に入ってきた。
 ディープキスはあまり好きじゃなかったはずなのに、相手が彼だというだけで息苦しささえも気持ち良くて、彼を受け入れながら必死に舌を絡ませた。
 好き。好きなの。
 好きだからキスも気持ち良くて、幸せで、でももっと触れてほしくて。
 口が離れてキスが終わってしまうと、残念な気すらした。
「澄恋・・・」
 私と同じくらい息を乱した彼が、私をうっとりと見つめている。
 背中と腰に回された腕の強さも、服越しに伝わる体温も、包まれているような彼の香りも全てが幸せで、幸せなのにどこか切ない。
 お腹の中がきゅんとするからだ。エッチな気分になるってこういう事なんだって、初めて知った。
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