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志野原道明
第二話 出会い
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「ねぇおにーさん!おにーさんってば!」
駅よりも人通りが多い中央広場は、幸せそうに歩く人が多い。
その光景を見ているだけで少し幸せな気持ちにもなれる。
でも俺が探しているのは、そんな民の姿じゃない。
俺が、探しているのは・・・。
「・・・いた」
無意識に、口から言葉が漏れていた。
数十人の人混みの中で、彼女だけは浮き上がっているように見えた。
「え?何何?」
ほとんど反射で駆け出す。
人をかき分けていたのか、ぶつかっていたのかはもう分からなかった。
だって、転んだのだ。
あの子が、あの時と同じように。
初めて君に会った時と同じように転んで、俺の腕の中に落ちてきたのだ。
俺の妻が、すみれが、帰ってきたんだ。
------
段差がね、あったんだよ。
気づかないくらいの・・・って事はないけど、少なくともその時の私の目には見えない感じの段差があったんだよ。
で、見事なまでに転んだ。段差から落ちる感じで転んだ。
転んだ先は、硬い石畳。
かと思ったのに、誰かの胸元にすっぽりとハマっていた。
お線香みたいなやたらいい匂いのする胸元だった。
その匂いのせいかやけに安心するような、しっくり来るような気がして、数秒固まってたと思う。
「お怪我は、ありませんか?」
左上の方から降ってきた品のいい声に、めちゃくちゃ焦った。
私男の人に抱きしめられてるじゃん!!
「あ、すいません!」
慌てて上体を起こして少し距離を取る。
驚き過ぎて心臓が飛び出そうなほどドキドキしてた。
そう、この時は、驚き過ぎたからドキドキしてたんだ。
「ご無事なようで何よりです」
もう立ち上がったのか、目の前に手が差し伸べられる。
この恩人、手が綺麗だなぁなんて思いながら、何も考えずにその手を取って立ち上がって。
立ち上がって、またまた驚く事になる。
めちゃくちゃ綺麗な人だったんだ。
俳優さんだと言われれば信じてしまうほどに、綺麗な男性だった。
男らしさのある目元に、すっと通った鼻筋。唇の形も整っていて、作り物かなって思ったくらい。
普通に推せる。
ファンクラブがあれば迷わず加入する。
「あ、ありがとうございました」
言いながら顔を伏せた。
もうドキドキなんてもんじゃない。心臓はバックバクで、声は上ずるし、顔は変な顔になっちゃうしで逃げ出したいくらいの気分。
イケメンはテレビ越しに見るのは眼福だけど、この距離はしんどくなるって初めて知ったよね。
手を引っ込めようとしたのに、何故か放してくれない恩人さん。
恐る恐る顔を見上げると、もの凄く真剣な顔をしてらっしゃった。
その目が、どこか泣きそうにも見えた。
「お役に、立てたなら、お礼をいただけませんか?」
「え?」
混乱するってこういう事だと思う。
「少しで良いので私にお時間を下さい」
懇願するように、彼は言った。
その顔が、何故か泣いているように見えた。
新手のナンパにしては、いたく真剣だったので結局着いてきてしまった。
何故か放してくれない手を引かれて、入ったお店は普通に普通のチェーン店のカフェ。
よく分からないままに、奢られてしまって、手を繋いだまま1番奥の席に座った。
改めて私の顔をまじまじと見た彼は、嬉しそうで悲しそうな顔をしていた。
「俺の名前、道明って言うんだ。聞き覚えない?」
唐突に始まった質問もよく分からない。
彼の意図が全く分からない。
でも聞き覚え、ないかと言われればあるような気もしなくもない?
「様とか付きそうな名前ですね」
「良いよ、付けても」
「道明様?」
てっきり冗談だと思ったのに、私が口にした瞬間繋いだ手に力が入ったのが分かった。
彼の目は、やっぱりずっと私を見ていた。
「君の、名前は?」
「私は・・・すみれです。西ノ宮すみれ」
また、力が入った。
何だろうこの人。
変な人。だけど嫌な感じはしない。
イケメンだからって訳じゃなくて、こう、話していると落ち着く感じがするんだ。
「すみれは彼氏いる?」
「え、いません・・・けど・・・?」
「じゃあ俺と付き合おうか」
「え??」
夢でも見てるんだと思った。
だって夢以外有り得ないじゃん。
命の恩人がイケメンで、かつ急に交際を申し込んでくるとか有り得ないじゃん?
有り得ないのに、夢じゃなかった。
道明さんの反対の手が、私の頬を撫でる感触は、夢じゃなかった。
「え、と、なんで??」
「一目惚れ。運命だよ」
冗談を言う人には見えないし、けど私そんな風に言われた事なんて初めてなくらい容姿は普通だし、有名人でもなければお金持ちでもないし。
意味が分からなすぎて頭の中にハテナが溜まっていく。
情報を処理し切れない。
「嫌?」
「嫌、じゃ、ないですけど・・・」
「じゃあ付き合おう。決まりね」
オラオラ系ってこういう事?
分かんない。分かんないけど、何故か嫌じゃない。
「え、あの・・・」
「すみれ」
「・・・はい」
「静かなとこ行こうか」
「・・・は、い」
駅よりも人通りが多い中央広場は、幸せそうに歩く人が多い。
その光景を見ているだけで少し幸せな気持ちにもなれる。
でも俺が探しているのは、そんな民の姿じゃない。
俺が、探しているのは・・・。
「・・・いた」
無意識に、口から言葉が漏れていた。
数十人の人混みの中で、彼女だけは浮き上がっているように見えた。
「え?何何?」
ほとんど反射で駆け出す。
人をかき分けていたのか、ぶつかっていたのかはもう分からなかった。
だって、転んだのだ。
あの子が、あの時と同じように。
初めて君に会った時と同じように転んで、俺の腕の中に落ちてきたのだ。
俺の妻が、すみれが、帰ってきたんだ。
------
段差がね、あったんだよ。
気づかないくらいの・・・って事はないけど、少なくともその時の私の目には見えない感じの段差があったんだよ。
で、見事なまでに転んだ。段差から落ちる感じで転んだ。
転んだ先は、硬い石畳。
かと思ったのに、誰かの胸元にすっぽりとハマっていた。
お線香みたいなやたらいい匂いのする胸元だった。
その匂いのせいかやけに安心するような、しっくり来るような気がして、数秒固まってたと思う。
「お怪我は、ありませんか?」
左上の方から降ってきた品のいい声に、めちゃくちゃ焦った。
私男の人に抱きしめられてるじゃん!!
「あ、すいません!」
慌てて上体を起こして少し距離を取る。
驚き過ぎて心臓が飛び出そうなほどドキドキしてた。
そう、この時は、驚き過ぎたからドキドキしてたんだ。
「ご無事なようで何よりです」
もう立ち上がったのか、目の前に手が差し伸べられる。
この恩人、手が綺麗だなぁなんて思いながら、何も考えずにその手を取って立ち上がって。
立ち上がって、またまた驚く事になる。
めちゃくちゃ綺麗な人だったんだ。
俳優さんだと言われれば信じてしまうほどに、綺麗な男性だった。
男らしさのある目元に、すっと通った鼻筋。唇の形も整っていて、作り物かなって思ったくらい。
普通に推せる。
ファンクラブがあれば迷わず加入する。
「あ、ありがとうございました」
言いながら顔を伏せた。
もうドキドキなんてもんじゃない。心臓はバックバクで、声は上ずるし、顔は変な顔になっちゃうしで逃げ出したいくらいの気分。
イケメンはテレビ越しに見るのは眼福だけど、この距離はしんどくなるって初めて知ったよね。
手を引っ込めようとしたのに、何故か放してくれない恩人さん。
恐る恐る顔を見上げると、もの凄く真剣な顔をしてらっしゃった。
その目が、どこか泣きそうにも見えた。
「お役に、立てたなら、お礼をいただけませんか?」
「え?」
混乱するってこういう事だと思う。
「少しで良いので私にお時間を下さい」
懇願するように、彼は言った。
その顔が、何故か泣いているように見えた。
新手のナンパにしては、いたく真剣だったので結局着いてきてしまった。
何故か放してくれない手を引かれて、入ったお店は普通に普通のチェーン店のカフェ。
よく分からないままに、奢られてしまって、手を繋いだまま1番奥の席に座った。
改めて私の顔をまじまじと見た彼は、嬉しそうで悲しそうな顔をしていた。
「俺の名前、道明って言うんだ。聞き覚えない?」
唐突に始まった質問もよく分からない。
彼の意図が全く分からない。
でも聞き覚え、ないかと言われればあるような気もしなくもない?
「様とか付きそうな名前ですね」
「良いよ、付けても」
「道明様?」
てっきり冗談だと思ったのに、私が口にした瞬間繋いだ手に力が入ったのが分かった。
彼の目は、やっぱりずっと私を見ていた。
「君の、名前は?」
「私は・・・すみれです。西ノ宮すみれ」
また、力が入った。
何だろうこの人。
変な人。だけど嫌な感じはしない。
イケメンだからって訳じゃなくて、こう、話していると落ち着く感じがするんだ。
「すみれは彼氏いる?」
「え、いません・・・けど・・・?」
「じゃあ俺と付き合おうか」
「え??」
夢でも見てるんだと思った。
だって夢以外有り得ないじゃん。
命の恩人がイケメンで、かつ急に交際を申し込んでくるとか有り得ないじゃん?
有り得ないのに、夢じゃなかった。
道明さんの反対の手が、私の頬を撫でる感触は、夢じゃなかった。
「え、と、なんで??」
「一目惚れ。運命だよ」
冗談を言う人には見えないし、けど私そんな風に言われた事なんて初めてなくらい容姿は普通だし、有名人でもなければお金持ちでもないし。
意味が分からなすぎて頭の中にハテナが溜まっていく。
情報を処理し切れない。
「嫌?」
「嫌、じゃ、ないですけど・・・」
「じゃあ付き合おう。決まりね」
オラオラ系ってこういう事?
分かんない。分かんないけど、何故か嫌じゃない。
「え、あの・・・」
「すみれ」
「・・・はい」
「静かなとこ行こうか」
「・・・は、い」
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