聖女の私にできること第二巻

藤ノ千里

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第一章 聖女としての生活

第七話 治療所見学

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 草順先生の畑に使用する残飯は、塩分油分カットな上、粉砕し乾燥してから使用することになった。
 うろ覚えな知識だったが、草順先生は充分過ぎるほど役に立ててくれそうで、話して良かったとしみじみと思う。
 医療所へ戻ると、草順先生と話し込んでいる間に診察が始まっていたらしい。私を探していた先生方と目が合った。
「あ、聖女殿、あちらの方の治療お願いします」
「聖女ちゃーん!こっちもー!」
 今日もまた忙しい一日が始まりそうだった。


 一日に70人の治療をノルマにしたばかりだと言うのに、早速達成出来ない日が来るとは思わなかった。
 日々患者の数が減ってきていたとはいえ、お昼ご飯の時間に外来の列が途絶えたのは初めてではないだろうか。
「53人しか治療できなかった・・・」
 思わず不満が口から漏れる。今日の午後は往診の予定もないので、昨日チャージしたやる気の持って行き場がなかった。
「医師が退屈なのは良い事ですよ」
 郷広先生は自分だけじゃなく、ほかの先生が食べ終えた食器も甲斐甲斐しく片付けている。
 いつもは自分たちで片付けているが、園田先生と山田先生が早退したのでその二人の分だ。
 そうそう、お凛さんには園田先生が早退する時に「お凛さんは早退しないの?」と聞いたが、「嫌です」と言われてしまった。
 最近は何かあった時も私に同行できるように乗馬を練習しているとのことだ。姿が見えないということは、今ももう始めているのだろう。
 「ご馳走様でした」と手を合わせると、郷広先生がすかさず食器を回収してくれた。
「郷広先生は午後何をされるんですか?」
 朝の集会をブッチしてしまっていたので、今日はほかの先生方の予定を知らない。
 ちなみに私の午後の予定は今のところ空だ。
「それが、買い出しもないので今のところは何もないんですよね」
 苦笑する郷広先生。手ぶら仲間が見つかって少し安心してしまう。
 早めの大掃除でもしようかと医療所内を見渡していると、受付診療の方から歩いてくる人と目が合った。
「あ、聖女ちゃんと郷広先生ー。今ご飯終わったとこ?」
 幸太郎先生だ。受付は少し前に終わっていたはずだが残って掃除でもしていたのか。
「幸太郎先生、お戻りでしたか」
「うん今ね。ご飯食べてきちゃった」
 どうやらいつの間にか外出していたらしい。そういえば姿を見なかったような、そうでもないような。
「2人とも暇ならちょっといい?」
 幸太郎先生が、話しづらそうに視線を外しながら畳に腰かける。
 珍しいこともあるもんだと郷広先生を見ると、彼も少し驚いた顔をしていた。
「木村先生にはもう話してあんだけどさ、この後治療所に見学に来ない?」
 治療所と言えば、幸太郎先生の実家であるあの治療所だろう。
 いつかは見学したいと思っていたが、まさかこんなに早くその機会が訪れるとは思わなかった。
 外出は、見学の許可でも貰いに行っていたのか。
「私は行きたいです」
 郷広先生の方を伺いながら答える。
 彼はまだ治療の補助だけで本格的な治療は行なっていない。脳の治療、恐らく外科手術をいきなり見せるのはどうなんだろう。
「私も、連れて行ってください」
 少し迷った素振りを見せたが、郷広先生も行くことにしたらしい。
 さすがは木村先生の医療所に務める医師。医術を学ぶ姿勢はベテランの先生方とも変わらないようだ。
 幸太郎先生はというと、自分から言い出したくせに、私たちの返事に驚いたような喜んでいるような変な顔をしていた。


 ついこの前、園田先生の後を着いて通った道をしばらく歩くと、あの、宿屋のような建物が見えてきた。
 脳専門の治療所だ。
 相変わらず重苦しい雰囲気で、人の出入りがないのは外来を受け入れていないのか、患者が来たがらないのか分からない。
「連れてきたよー」
 幸太郎先生と郷広先生に続いて建物内に入ると、この間は見なかったおじさん二人が受け入れてくれた。
 2人とも少し険しい顔で、疲れが顔に滲み出ている。
「その方が、お前が言ってた聖女殿か」
 おじいちゃんに近い見た目のおじさんが孝太郎先生に話しかける。びっくりするほど声が低かった。
「そそ。あ、2人ともこっちが親父でこっちが兄貴ね」
 そして、幸太郎先生の声は場違いに明るい。しかも紹介が適当すぎる。
 お父さんとお兄さんの重苦しい雰囲気に比べて、幸太郎先生のなんとチャラいことか。
「今日は聖女ちゃんだけじゃなくて医療所の郷広先生も連れてきたから」
 郷広先生と一緒にぺこりと頭を下げる。ちゃんと自己紹介をと思ったが、それより前に幸太郎父が奥へ歩いていってしまった。
「こちらへどうぞ」
 幸太郎兄に促され、追いかけるように上がり込む。
 廊下を歩くと、両脇の部屋からいくつものうめき声が聞こえてきた。術後の経過を見ている患者なのだろうが、正直お化け屋敷みたいで怖い。
「無愛想だけど気にしなくていいからね」
 さすが幸太郎。実家だからこの重苦しい雰囲気にも慣れているのだろう。いつものようにチャラついた彼の存在が少しだけ雰囲気を和ませてくれた。
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