聖女の私にできること第二巻

藤ノ千里

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第四章 京の都

第三十三話 幸せな時間

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「だって、道明様といられるのが嬉しくて・・・」
 ぼそりと言い訳のように呟く。永遠にお別れかもしれないとほんの一時間前までは覚悟していたのだ、少しくらい浮かれたっていいじゃないかと思う。
 ふわりと道明様の香りがして、彼の手が私の頬を撫でた。その手に頬を摺り寄せる。
 もう二度と、感じるできないと思っていた感触。
 壊れ物を包むようにそっと抱きしめられると、溶けてしまいそうなほど幸せだった。
「そなたはいつも私の思う通りにいかぬ」
 吐息が漏れるようなつぶやきが聞こえる。
 計算高い彼にとって、私の行動はきっと常軌を逸してるのだろう。それでも曲げられないものがあるのだ。仕方ない。
 一度死んで味わった後悔の前では、囲われて守られて安全に穏やかに生きる暮らしなんて無意味に思えてしまうのだ。
「道明さま、あの・・・」
 まだ話せていないことがあるのを思い出し、彼の様子を伺う。
 返事がないのを不思議に思っていると、唐突に体が離れ、道明様の顔が目の前に現れた。
 唇が触れるか触れないかの距離。切なげで熱を帯びた視線。
「抱いても良いか?」
 お腹の奥がぞくりと疼いた。スイッチが入ったかのように背筋がぞわぞわと震える。
 唇が私のそれに触れて、ゆっくりと舌が挿入ってくる。
「・・・ぁ」
 官能的すぎる口づけに声が漏れてしまった。
 顔を俯いてそらす。この人は本当になんて蠱惑的な誘い方をしてくるのか。
「ま、まだ、昼間です・・・」
「だから良いのであろう」
 耳元でささやかれる声に腰が浮いてしまい、容易く押し倒されてしまう。
「夜は声が響く。今であればそなたの声も市井に紛れよう」
 言いながらも、手早く服が脱がされていく。言っていることは最もな気もしてしまうが、障子と襖の向こうにはそれぞれ道明様のお小姓さん達が控えているはずだ。
 そこで、ふと気が付く。
「もしかして、最初からそのつもりでした・・・?」
 通りに近い、人気のない奥の部屋。見張りのように控えているお小姓さんたち。
「どうであろうな」
 意地悪な顔。確定だ。
 このお坊様の姿をした人は、とんでもなくスケベな男の人だということを今更になって気づいたのだった。

ーーー
 駆け足気味の心音が心地よい。余韻に浸りながら、ぐったりとした体を道明様に密着させる。
 私の呼吸が整ったのを見計らって、道明様が口を開いた。
「して、女官を断ったというのは?」
 そう、そうだった。その話をしていたのだった。
「女官ではなく、聖女で居させてほしいって、お願いしてきました」
 道明様が背中を撫でる手がくすずったくて、クスクスと笑いが漏れてしまう。
 優しい声、優しい手。凄く、幸せだ。
「ご快諾くださったのか?」
「明日また同じ時間にと言われました。でも、たぶん大丈夫です!」
 頭をあげて道明様のお顔をのぞき込む。
 少し不安そうなおでこにキスを落としてやった。
「誠、そなたには叶わぬな」
 ため息が漏れる唇にもキスを落とすと、道明様は今度こそ笑顔になってくれた。
「そなたと共にいれるのであれば地獄も悪くはないかもしれぬな」
 失礼なことを言うものだ。道明様と違って私は悪いことなど一つもしていない自信があるのに。
「私だけ極楽かもしれませんよ?」
「言うたな」
 皇后様のお心は読まなかった。けど、なぜだか私の中には、「大丈夫」という確固たる自信があったのだった。
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