聖女の私にできること第二巻

藤ノ千里

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第六章 愛する覚悟

第五十一話 試練の内容

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 半刻毎に休憩をとの事だったが、軽傷の患者ばかりだったので午前中はほとんど休憩なしで対応させてもらう事にした。
 その代わりお昼ご飯の時間をゆっくりと取らせてもらい、午後もまた休憩少なめで患者を診る。
 風邪は症状が緩和するくらいだし、原因不明の腹痛は痛みが少し和らぐくらいで、治せるのはほとんど外傷だけなのだが、それでも患者はみんな笑顔で帰って行った。
 数えていなかったが、夕方までの時間でそこそこの人数を診れた。やはり医療所での特訓の日々のおかげだろう。
 日が落ちる頃には閉門するため、残っていた患者もまた明日に持ち越しだ。
 そこそこの疲労とまずまずの達成感を胸に、私は部屋へと戻った。
 私が部屋に戻って30分ほどして帰ってきた道明様は、まず呆れた顔をしていた。
「そなた・・・」
 ちゃんと聖女の仕事を達成した上に、部屋でだらけていたわけでもないのに心外だ。
 道明様は私の正面に座る。小さくため息をついてから口を開いた。
「聖女の業には限りがあるのではなかったのか?」
 質問の意図が読めなくて頭にハテナが浮かぶ。
「ありますよ?今日は疲れました」
 主に業を使うばかりで聖女対応がほとんどなかったとはいえ、効率よく回してそこそこの人数の患者を診たのだ、疲れないわけが無い。
 無限に使えるものでは無いことは道明様も知っていると思っていたのだが。
「84人だ」
 道明様は怒っているような困っているような複雑な顔をしている。
「治る治らないは差し引くが、今日一日で聖女様の元へ案内したのは84人と聞いたが」
 嘘、そんなに今日の患者さん診たっけ?
 川平の火事の時は例外としても、84人は私史上最多の患者数ではないだろうか。
 それは確かに道明様もこんな顔になるか。
「頑張り過ぎました・・・?」
「手遅れだ」
 どうやら世の中には頑張り過ぎると良くないこともあるらしい。
 私のせいで大変な思いをしたであろう道明様。この夜の情事が少し激しかったのは言うまでもない。


 翌日の正午。皇后様から指定があった時間より少し前に、私と道明様、晴彦さんと一松さんのいつもの4人は御所の待合室にいた。
 お昼は早めに済ませていたし、朝道明様に「迎えに来るまでここで大人しくしておれ」と言われてしまって午前中はずっと部屋に籠っていたため、元気も有り余っていた。
 道明様はいつもの僧正スマイルを浮かべているが、緊張しているんだろうなと思う。
 私は、何度見ても見慣れない建物の雅さに恐縮こそしていたが、正直そこまで緊張していない。
 同郷だからというのもあるかもしれないが、あの可愛らしく笑う皇后様が、試練とは言え無理難題を言い出すとは思えなかったからだ。
「聖女殿、道明僧正殿、ご案内いたします」
 時間になると女官の人が案内をしてくれる。
 後ろを歩きながら、彼女に見覚えがあった。確か、前回皇后さまに紹介いただいた女官、涼風さんと言ったか。
 雅な廊下を雅な涼風さんに付いて行くと、見覚えのある謁見室に通される。
 やはりまた人払いがされていて、涼風さんに御簾の目前に座るよう促された。
 言われたとおりに腰を下ろすと、御簾が上がり上品に微笑む皇后様のお姿が現れた。
「お待たせしたわね」
 ここで、隣に座る道明様に肘でつつかれ、頭を下げ忘れていたことに気づく。
 そうだ、知り合いとお喋りに来たつもりでいたが、この方はこの国で二番目に尊い方であらせられるのだ。
 慌てて頭を下げるが、皇后様は不敬を咎めるどころかコロコロと笑った。
「道明僧正、いいのよこの子は。ちゃんと顔を見てお話ししたいの」
「・・・失礼をいたしました」
 礼儀としては正しいはずの道明様が注意されてしまい、なんだか申し訳ない気分になる。
 だが、顔を見て話したいと言われれば従うほかない。私は頭を上げて皇后様へ顔を向けた。
「今日は、伝えていた通り試練の詳しい内容を伝えるわ。涼風」
 皇后様が声をかけると涼風さんが私に手紙を渡しに来てくれる。
 手紙の表にはやはり丸っこく可愛らしい文字で「試練の内容」と書かれていた。
「読み上げてみて」
 道明様に分かるようにということか。促されるままに手紙を開ける。
 漢字が多めだったのでちょっとウッとしたが、道明様の為だと頑張って読み上げることにした。

聖雅院セイガイン院主道明ならびに聖女澄恋スミレへ次の試練を与えることとする
 ひとつ 鹿谷カヤの地を平定させること
 ひとつ 聖雅院院主道明は二年フタトセの間、鹿谷の光来寺コウライジにて住職の職を全うすること
 ひとつ 聖女澄恋は二年の間に、鹿谷の地にて聖女としての地位を確立すること

 試練にあたり、聖雅院院主道明ならびに聖女澄恋へ次の権利を与える
 ひとつ 聖雅院院主道明は、鹿谷の光来寺における全ての権限を有する
 ひとつ 聖女澄恋は皇后の典侍テンジとして、試練を全うする上で必要な人員物資を御所へ要請する権利を有する」
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