巫女様と私

藤ノ千里

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6章 伝わる想い

37話 伝えたい事

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「あぁ、梧桐さんちょうど良かった・・・飛行機ですか?」
「あ、実はまた行こうと思ってて」
「アザラ島へ?」
「はい」
「何か心残りでも?」
 教材を片付け・・・山積みにしていく教授を横目に見ながら、返事に詰まった。
 アザラ島に、キターニ族の村にいた時は半分浮かれていた事もあって「また恋人に会いに行く」くらいの感じで考えていたけど、学生の本分である学業をずっとほっぽり出しておくわけにはいかない事に気づいてしまった。
 卒業まではまだ一年以上あるし、今年度の単位は足りているとしても、研究室でやらないといけない事はまだある。
 全部放り投げて恋人の元へ行くなんて、学費を出してもらってる学生の身ではできるはずもないんだ。
「相談があります」
「何でしょう?」
「休学って・・・」
 言いつつ、どう聞くのが最適か分からなくなってきて。
 一度休学して彼の元へ行くことを考えたけど、その後は?そもそも滞在可能日数ってどう数えればいいんだっけ?
 いや、それよりまず、交際だけならいいけどその先、結婚とかってなったら国籍はどうなるんだろう?領事館もない国どころか、あちらの国の国籍もあるかどうか分からない相手なのに。
「休学を考えてらっしゃるんですか?」
「あ、すみません」
 まずい、話しかけておいて黙り込んでしまった。
 悪い癖だ。昔からの。
「いいえ。今日は予定も空いていますので、考えがまとまってからで結構ですよ」
「ありがとうございます」
 外薗教授は物凄く変わり者だけど、こうやって気が長い上に懐が深いところは、今まで出会った大人の中で一番尊敬できる。
 この研究室に来た最大の理由でもあるしね。
「実は・・・キターニ族の方と、交際を考えていまして」
「あの杯を贈ってくださった方でしょうか?」
「はい。・・・それで、またすぐ会いに行く約束をしてて」
「なるほど」
「ただ、将来的な事とかはまだ考えていなくて、学校をどうするかとか、悩んでて・・・」
「なるほど」
「飛行機代も馬鹿にならないし、向こうでの生活は物価が低いからどうにかなるとは思うんですけど」
「なるほど」
「これって、どうしたらいいと思いますか?」
 まとまりがない上に、丸投げの質問で。
 失礼なのは分かっている。相手が外薗教授じゃなかったら相談しようとも思わなかった。
 けど、教授は、教授であればちゃんと考えて答えてくれると、知っていた。
「これはあくまでも提案になりますので、最終的な決定権は梧桐さんにある事はご認識おきください」
 実は教授のこの独特の言い回しちょっと好き。
 ちょっとだけ癒されつつ、「はい」と答える。
 私の返事に、教授は満足そうに頷いて、提案を教えてくれた。
「梧桐さんは次学年へは進級可能であると伺っていますので、半年ほど休学しじっくりと将来の事を考えるのが最適ではないかと思います。休学してアルバイトをすればアザラ島へ行く資金も調達できるでしょうし、お相手の方と話し合う時間もできるかと思います」
「なるほど」
「すぐにあちらへ行きたいのであれば今回の旅費は私の方で負担することもできます。持って来てくださったお土産への代金として、になりますが」
「良いんですか?」
「えぇ、お土産の買い取り自体はお願いしたいと思っていたんです。資料としての価値もとても高い物ではありますが、そもそも芸術的な価値も高く、骨董品としても十分に価値がある物ですので、これは是非ともお支払いをせねばと思っていました」
 教授の顔はキラキラと輝いていた。
 最高の論文を読んだ後みたいに、ワクワクが溢れているのが分かった。
「もしキターニ族の方と結婚となった場合は、アズーラ連峰国への申請が必要になるでしょうが、もしキターニ族がそもそも国民として国籍を持っていない場合は申請も不要になるかもしれないのでそれについては事前に問い合わせを行った方が良い・・・いや、逆にそれだと却下される恐れがあるから婚姻関係という既成事実を先に作った方が・・・」
「居座った方が良いって事でしょうか?」
「本気で結婚をしたいのであればそれも手かもしれませんね・・・」
「なるほど・・・」
 そんな感じで、当面の悩みはいったん解決した。
 明日の飛行機で日本を発って、ひとまず滞在上限まであちらで将来の事を話し合う。
 アズー君と一緒に、話し合うんだ。


 2回乗り継いだ飛行機から降りると、多湿だけど少しひんやりとした空気が出迎えてくれた。
 飛行場の人の案内で、空港の建物へ入る。
 銃を携帯した警備がいる、大きめの建物。
 洋風にも見える空港だけど、入管検査はやっぱり雑で、今回も「本当に良いのかな?」って不安になったほどで。
 でもそんな不安もすぐに忘れた。
 アズー君がいたから。
 アズー君が、私を迎えに来てくれていたから。
「アズー君・・・!来てくれたの?」
 嬉しくて駆け寄ると、彼は満面の笑みで出迎えてくれた。
「Yuma Wali Yan Ta Noa Yuma-de ra.」
「あ、もう1回、もう1回言って」
 慌ててスマホを取りだして、翻訳アプリを起動した。
 プライベートモードは・・・今はいいか。
「リナ-ni Yuma Wali Yan Ta-de ra.(リナに会いたかった)」
「私も会いたかったよ」
 ほんの数日ぶりなのに、好意を口にしてくれるアズー君に気恥ずかしくなってきちゃう。
「アズー君」
 私が好きな、私を好きな男の子。
 人種も国籍も言葉も違って、常識も全く違う、私たち。
 でも、心は通じ合える。互いを理解したいという思いがあるから。
「アズー君、 Muru Yuma Rakia.」
「Wa Lun-mo, Muru Yuma Rakia-de ra.(僕も、愛してる)」
 急に距離を詰めて来たアズー君が私の頬に触れる。
 手の次に近づいてきたアズー君の唇。嬉しくて目を閉じると、彼の愛が私に降ってきた。
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