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第一章 鹿谷の現状
第一話 四人旅
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3月とはいえ、まだまだ肌寒いとはいえ、馬に乗っているとはいえ、趣味が「体を動かすこと」でもない限り何日もかけてただ山の中を移動するというのはもはや何かの罰ゲームとしか思えない。
最も、その罰ゲームをやろうと言い出した張本人は私に他ならないので、文句を言えるはずもなく、ただひたすらに目的地を目指すしか選択肢はないんだけど。
「あ、ちょっと待ってください」
「どうしたの?草順」
「これ採らせてください。持って帰ります」
「分かった。じゃあちょっと休憩しようか」
光来寺を出発して三日目。
急ぎでもない旅だけど、ずっと山の中を歩いているだけなので正直退屈で、草順の薬草採取休憩ですら逆に楽しくなってくるほどだった。
馬を下りると、何も言わなくても察してくれた一松が火の用意を始めてくれる。
智久さんは草を払って座りやすくしてくれるし、前から思ってたけどこの時代の人の野宿スキル高過ぎて私が足でまといじゃないかと思ってしまうくらい。
まぁ、好き勝手野草を摘んでる草順も大差ない気はするんだけど、彼の薬草好きは人の役に立つものだしなぁ。
手持ち無沙汰なので、食事を始めた私の馬、桜号を撫でてあげるとしっぽで喜びを表現してくれて、疲れた心が少し癒された。
この子、好き嫌いはないけどめちゃくちゃ大食いなんだよね。
逆に草順の馬、白梅号は好き嫌いが凄くて食い気より遊びって感じ。
今も草順の襟の辺りを引っ張ってるけど、彼は野草採取に夢中で気付いてない。
「小太郎、支度が整ったぞ」
「ありがとう一松」
火がついて、かつ座れるところを作ってもらって、至れり尽くせりに整えてもらったスペースに腰を下ろした。
今の私は一松と同じ小坊主の旅姿だから、傍から見たら変な感じなんだろうけど、人目がない時はこうしてちゃんとお世話をしてくれる。一松って結構面倒見が良さそうだ。
「そろそろ日が傾く故、辺りに民家がないか見て来よう」
「あ、お気を付けて」
休憩時間にしたというのに、一秒も座らずに智久さんは行ってしまった。
私と草順は馬に乗ってても一松と智久さんはずっと歩きだから疲れているだろうに、体力の限界というものがないのだろうか?
「今日はどこかに泊まれると良いね」
「過度な期待はせぬ事だ」
「それはそうだけどさ・・・」
一松って、素は結構口数が少ない。
嫌われてる感じではないけど、お喋り相手としては物足りなくなってしまう。
まぁでも、思春期男子だから仕方がないのかも。
そんな事を思いつつ視線を移すと、ちょうど草順が戻ってくるところだった。
「大量だね」
抱えるほどの草花を手にホクホク顔の草順。楽しそうでなによりだ。
「少し珍しい花と茸が採れました。あ、この土筆と蕗は夕餉にでも使ってください」
「土筆って食べられるんだ」
「はい。僕はあまり好きではありませんが」
オブラートという概念をもちあわせていない草順から受け取った土筆と蕗を、どうするか迷って結局一松にパスした。
困り顔でもちゃんと受け取ってくれる一松偉い。あとでいい子いい子してあげよう。
そんな感じで三十分程は休憩してただろうか?近づいてきた足音に少し警戒したけど、現れたのが智久さんでホッとした。
と、言うのも先ほど草順が「熊の食料になる木の実が落ちてた」なんて口にしてくれたからだ。
お侍さんである智久さんとて熊に敵うとは思わないけど、それでもガタイのいい男性が一人いるのといないのとでは大違いなのだ。
「何か?」
「ううん。どうでした?」
「少し行った先の山間に集落があり、一晩の宿を借りれるよしとの事だ」
「やったー!」
とても良い報告に、思わず喜びの声を上げた。
それほどまでに野宿はしんどかったのだ。着替えを布団代わりに敷いて貰っても、荷物を枕にしてもらってもしんどくて、しかもダメ元で一松に抱き枕になってくれないか聞いたら「何言ってるんだお前」みたいな目で見られるし、草順にも断られるし、智久さんは目を合わせてくれなかったし。
でも今日は屋根の下で寝れる!
雨風を凌げるし、虫も来ない!
それに、床板があるなら着替えは抱き枕にできる!
宿を貸してくれる仏様みたいな人にはめちゃくちゃ感謝しないとだー!
宿を貸してくれることになったのは、十軒ほどしかない集落の、一番端にある若いご夫婦だった。
奥さんのお腹は少し大きくて、たぶん妊娠六ヶ月ほど。
つわりもなく赤ちゃんも元気にお腹を蹴っているけれど、初めての出産に不安そうではあった。
「無事赤子が生まれるよう祈願させていただいてもよろしいでしょうか?」
「ぜひお願いします」
なんて、ちゃんとお坊様やってる一松が経をあげるのを後目に、なんちゃって小坊主の私は草順と晩ご飯の準備中。
採れたての土筆と蕗だけでなく、来る途中で品種不明の柑橘の実も拾ったので、いただいたお米も合わせれば十分にご飯になる。
「本当に柑橘を入れてご飯を炊いても美味しくなるんですね」
「でしょ?」
草順にゴリ押して作ったみかんご飯もどきが炊きあがると、晩ご飯が完成した。
土筆はお味噌汁で蕗は煮物。質素だけど、粗食に慣れ親しんでしまった身にはそこそこ豪華に見えてしまって複雑な気分。
こちらをちゃんと気にしていてくれたのか、ご飯の完成と共にちょうど一松の読経も終わった。
さすが道明様の弟子。彼ほどではなくても、明らかに一般人の括りに入らない程度には凄い子だ。
「よろしければ夕餉の後、御仏の教えをお話させてくださいませ」なんて微笑む姿は、私が一昨日「厠に行きたい」と言った時に変な顔をしていた人と同一人物とは思えない。
ああいうのを器用貧乏って言うんだろうか?
最も、その罰ゲームをやろうと言い出した張本人は私に他ならないので、文句を言えるはずもなく、ただひたすらに目的地を目指すしか選択肢はないんだけど。
「あ、ちょっと待ってください」
「どうしたの?草順」
「これ採らせてください。持って帰ります」
「分かった。じゃあちょっと休憩しようか」
光来寺を出発して三日目。
急ぎでもない旅だけど、ずっと山の中を歩いているだけなので正直退屈で、草順の薬草採取休憩ですら逆に楽しくなってくるほどだった。
馬を下りると、何も言わなくても察してくれた一松が火の用意を始めてくれる。
智久さんは草を払って座りやすくしてくれるし、前から思ってたけどこの時代の人の野宿スキル高過ぎて私が足でまといじゃないかと思ってしまうくらい。
まぁ、好き勝手野草を摘んでる草順も大差ない気はするんだけど、彼の薬草好きは人の役に立つものだしなぁ。
手持ち無沙汰なので、食事を始めた私の馬、桜号を撫でてあげるとしっぽで喜びを表現してくれて、疲れた心が少し癒された。
この子、好き嫌いはないけどめちゃくちゃ大食いなんだよね。
逆に草順の馬、白梅号は好き嫌いが凄くて食い気より遊びって感じ。
今も草順の襟の辺りを引っ張ってるけど、彼は野草採取に夢中で気付いてない。
「小太郎、支度が整ったぞ」
「ありがとう一松」
火がついて、かつ座れるところを作ってもらって、至れり尽くせりに整えてもらったスペースに腰を下ろした。
今の私は一松と同じ小坊主の旅姿だから、傍から見たら変な感じなんだろうけど、人目がない時はこうしてちゃんとお世話をしてくれる。一松って結構面倒見が良さそうだ。
「そろそろ日が傾く故、辺りに民家がないか見て来よう」
「あ、お気を付けて」
休憩時間にしたというのに、一秒も座らずに智久さんは行ってしまった。
私と草順は馬に乗ってても一松と智久さんはずっと歩きだから疲れているだろうに、体力の限界というものがないのだろうか?
「今日はどこかに泊まれると良いね」
「過度な期待はせぬ事だ」
「それはそうだけどさ・・・」
一松って、素は結構口数が少ない。
嫌われてる感じではないけど、お喋り相手としては物足りなくなってしまう。
まぁでも、思春期男子だから仕方がないのかも。
そんな事を思いつつ視線を移すと、ちょうど草順が戻ってくるところだった。
「大量だね」
抱えるほどの草花を手にホクホク顔の草順。楽しそうでなによりだ。
「少し珍しい花と茸が採れました。あ、この土筆と蕗は夕餉にでも使ってください」
「土筆って食べられるんだ」
「はい。僕はあまり好きではありませんが」
オブラートという概念をもちあわせていない草順から受け取った土筆と蕗を、どうするか迷って結局一松にパスした。
困り顔でもちゃんと受け取ってくれる一松偉い。あとでいい子いい子してあげよう。
そんな感じで三十分程は休憩してただろうか?近づいてきた足音に少し警戒したけど、現れたのが智久さんでホッとした。
と、言うのも先ほど草順が「熊の食料になる木の実が落ちてた」なんて口にしてくれたからだ。
お侍さんである智久さんとて熊に敵うとは思わないけど、それでもガタイのいい男性が一人いるのといないのとでは大違いなのだ。
「何か?」
「ううん。どうでした?」
「少し行った先の山間に集落があり、一晩の宿を借りれるよしとの事だ」
「やったー!」
とても良い報告に、思わず喜びの声を上げた。
それほどまでに野宿はしんどかったのだ。着替えを布団代わりに敷いて貰っても、荷物を枕にしてもらってもしんどくて、しかもダメ元で一松に抱き枕になってくれないか聞いたら「何言ってるんだお前」みたいな目で見られるし、草順にも断られるし、智久さんは目を合わせてくれなかったし。
でも今日は屋根の下で寝れる!
雨風を凌げるし、虫も来ない!
それに、床板があるなら着替えは抱き枕にできる!
宿を貸してくれる仏様みたいな人にはめちゃくちゃ感謝しないとだー!
宿を貸してくれることになったのは、十軒ほどしかない集落の、一番端にある若いご夫婦だった。
奥さんのお腹は少し大きくて、たぶん妊娠六ヶ月ほど。
つわりもなく赤ちゃんも元気にお腹を蹴っているけれど、初めての出産に不安そうではあった。
「無事赤子が生まれるよう祈願させていただいてもよろしいでしょうか?」
「ぜひお願いします」
なんて、ちゃんとお坊様やってる一松が経をあげるのを後目に、なんちゃって小坊主の私は草順と晩ご飯の準備中。
採れたての土筆と蕗だけでなく、来る途中で品種不明の柑橘の実も拾ったので、いただいたお米も合わせれば十分にご飯になる。
「本当に柑橘を入れてご飯を炊いても美味しくなるんですね」
「でしょ?」
草順にゴリ押して作ったみかんご飯もどきが炊きあがると、晩ご飯が完成した。
土筆はお味噌汁で蕗は煮物。質素だけど、粗食に慣れ親しんでしまった身にはそこそこ豪華に見えてしまって複雑な気分。
こちらをちゃんと気にしていてくれたのか、ご飯の完成と共にちょうど一松の読経も終わった。
さすが道明様の弟子。彼ほどではなくても、明らかに一般人の括りに入らない程度には凄い子だ。
「よろしければ夕餉の後、御仏の教えをお話させてくださいませ」なんて微笑む姿は、私が一昨日「厠に行きたい」と言った時に変な顔をしていた人と同一人物とは思えない。
ああいうのを器用貧乏って言うんだろうか?
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