聖女の私にできること第四巻

藤ノ千里

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第二章 お喋りな情報提供者

第十一話 お喋りの時間

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 多分一松は「この人めちゃくちゃ喋るじゃん」と思って困ってるんだと思う。
 草順と智久さんはとっくにご飯食べ始めてたから私も一緒になって食べてたし、もう彼の事はBGMだと思いながら焼き魚を頬張ってたんだけど、真面目な一松はお箸も持たずに礼儀正しく彼の方を見ながら聞いてたもん。
「いやぁ聖女様聖女様なんて言われてるからどんな絶世の美女かと思ったってのもあるけど、来てみたら普通の娘さんじゃないかい。ありゃこれは騙されたかな?って思ったけどさ、ずらあっと並んでたはずの病人が一人もいない上にこん中も見違えて綺麗になってんだからもう驚いたよね」
「お褒めに預かり光・・・」
「でもさ、普通聖女様なんて大層な呼ばれ方してたらこうお侍様と侍女をずらっと引き連れてるもんじゃないかい?まさか護衛一人だけであとは坊主とよく分かんない男だけって怪しさ満点過ぎてにわかには信じがたいねぇ」
 口を挟むタイミングを見計らっていたであろう一松がやっと相槌を打とうとしたのを遮られてしゃべり続けられている光景がさすがに面白過ぎた。
 思わずお味噌汁を吹き出しそうになって、ギリギリで堪えはしたけど笑いは堪えられなかった。
「お、笑うと可愛いじゃないか。やっぱり女の子は笑ってる姿が一番だよね。どうだい?もっと面白い話をしてやるからあたしんとこに来るかい?」
 流れるようなナンパも、下心を隠していないのが逆に好感が持てる。
 めちゃくちゃ面白い人だ。恋人になるには不誠実すぎるけど。
「お断りします」
「あらら、声も可愛いと来たもんだ。面白いのが駄目なら真面目な話でもするかね。あたしゃ情報通だから何でも知ってるよ」
 自称ではあるけど、「情報通」で「何でも知ってる」か。
 ちょっとだけ興味が出てきて玄さんを見ると、私の返事待ちなのかだいぶ前のめりでこちらを見つめていた。
 目が爛々らんらんとしているけど、珍しい物相手に好奇心が爆発してますって感じで、どくだみを観察していた時の草順に似ている。
 草順が薬草オタクなら、彼は人間オタクというところだろう。
 それなら、彼と話すことで得られるものも多そうだ。
「ご飯の後、ここでお話をする、というのでしたら良いですよ」
「よっしゃあ!じゃあぱぱっと食べちゃってよ。その間にあんたが好きそうな話いくつも考えといてやるからさ」
「はい」
「あ、でもあれだよ?口説くところまではいいけど、その気になったらちゃんと二人きりになっとくれよ?あたしゃ人前でまぐわう趣味はないからね」
 露骨すぎる言葉に、真面目な男性陣は顔を顰めていたけれど、私だけは笑いながらご飯の続きを口に入れたのだった。


 ご飯を食べている間も、片付けている間も玄さんは喋り続け、さすがの一松も困った顔をし始めた頃、お話の場が整った。
 場と言っても座布団を用意して座るだけだ。私の正面に玄さんが、私の両脇に一松と草順が座っていて、智久さんは一か所だけ開けている出入り口の近くにいてもらっている。
 窓は全部閉めた。話す内容によってはあまり大っぴらにしない方が良いから。
「いやぁ、ただ口説くだけなのにこうちゃんとした場を用意されると緊張してきちゃうねぇ。こりゃあ腕が鳴るよ」
「まずは自己紹介をお願いしても?」
 今回主に喋るのは私の役割だ。彼はきっと私相手じゃないと真面目に話してくれなさそうだしね。
「玄さんって呼んでおくれって言ったろ?」
「ちゃんとお名前を教えてくださらないなら私も名乗りません」
「あちゃー、そう来たか。じゃあ言うしかないねぇ」
 ふと、あちらの世界でバイトしていた時の事を思い出した。飲み屋さんだったから数えきれないくらい酔っぱらいの相手をしたものだ。
玄徳ゲントクだよ。でも名前を呼ばれるのは好きじゃないから玄さんて呼んでおくれよ?」
「名字は?」
「ない。なーんて言っても嘘だってばれちまってるんだろ?」
 ただの町人であれば名字がないのは分かるけど、彼がそうじゃない事には何となく気付いていた。
 上手く言えないけど、ちゃんとした教養の様なものがあるように感じたのだ。
「名字は訳あって言いたくないんだよねぇ。ねやでなら教えてあげてもいいけど?」
「よく分からない方とは布団には入れません」
「じゃあ分かるまで聞いとくれよ。あ、その前に名前、あたしが名乗ったんだからあんたのも教えてくれんだろ?」
「小瑠璃と申します」
「小瑠璃!いいねぇ、あれだろ小さい青い鳥だろ?あの鳥ぁ良い声で鳴くんだよねぇ」
 名字があって、野鳥の知識もあるのか。
 ならお侍様というよりは、商人の家系だろうか?
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