聖女の私にできること第四巻

藤ノ千里

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第二章 お喋りな情報提供者

第十三話 嵐が去った後

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 玄さんから聞いた話は案の定とてもとても有益な話で、私たちが知りたかったこと満点の内容ではあった。
 治療所の建物ができたのは一年前、治療所になったのは半年前。建てた人は定かじゃないけど、治療所を運営していたのはあの福田という商人。
 ただし、福田さんの後ろにはどこぞのお侍さんがついているっぽいというのが、彼の見立てだ。
 「そこがなかなか尻尾を出さなくてねぇ」と言っていたから、玄さんも何とかしようと調べてくれていたようだ。やはり良い人、なんだろう。
 黒幕がいるならそこを叩きたい。今回の旅は多少日程を多めに見ているから、あと二、三日であれば時間は取れる。
 それだけあれば私の聖女の業でどうにでもできそうだ。
「それほどまでのお話をどのようにしてお調べになられたのですか?」
「なぁに、ただひたすらに聞いて回ったのよ。人の口に戸は立てられないだろ」
 一松の質問にちゃんと答えているように聞こえるけど、たぶんこれはちょっと嘘だ。
 治療所の責任者が福田さんだということは容易に調べられたとしても、その後ろまでを探ろうとする人は早々いないだろう。
 尻尾を出す出さないまでたどり着けているというからには、ある程度ちゃんとした情報網がありそうだ。
「で?で?あたしはちゃんと話したよ。どうだい?見返りはどんなもんだい?」
 真面目な話が終わった途端にこれなのだからやはり彼は憎めそうにない。ちょっと可愛く見えてきたくらいだ。
「情報の真偽がまだ分かりませんよね?」
「そりゃあそうだけどさぁ」
「こちらで動いて関わっていた人たちを懲らしめてきます。見返りはその後考えますね」
「えー!えー!えー!」
 流石に焦らし過ぎたのか、玄さんは「えー」しか言わなくなってしまった。
 これはこれで面白い。けど、今から作戦会議をするのにずっとここに居られても困る。
 それに、ちょっと煩い。
「じゃあ、いったんこれで」
 言いつつ、彼の頭を撫でた。
 六助にするみたいに、ヨシヨシと優しく撫でてあげた。
 更に文句を言うかと思った玄さんだけど、意外にも静かに撫でられていて、逆に驚きだ。
 無精なのかちょっとごわつく髪の毛。少し長めに撫でてから手を引っ込めると、玄さんは子どものように唇を尖らせていた。
「あんた、本当にズルい女だね」
 なんて言うから不満なのかと思ったけど、すぐに「よし!」と立ち上がる玄さん。
 いったんはご満足いただけたようだ。最終的な見返りとやらはおいおい考えよう。
「今日は帰るよ。明日また来るからあたしが恋しくなったらちゃんと素直に言いなよ」
「はいはい、お休みなさい」
「お休み小瑠璃」
 来た時と同じようにすんなりと、嵐の様な玄さんは治療所を出て行った。
 彼が出ていくと開けていた出入り口を智久さんが閉めてくれて、一松が壁際に積んでいた布団を取りに行ってくれる。
 草順は衝立を動かしに行ったので、私も手伝う事にした。
「意外でした」
「ん?何が?」
「ああいう手合いはお好きでないのかと思っていました」
 手合いって、確かちょっと悪口だ。草順には珍しいちょっと刺々しい言葉だ。
「あれだけ分かりやすいと逆に好きかな。面白い人だったしね」
 大きめの衝立で、壁際に簡易個室を作る。十中八九私用のスペースで、男性陣は逆に周りを取り囲むように寝てくれるんだろうことが、敷かれた布団の位置で分かった。
「面白いというか無駄口が多いだけでは?」
「確かに。考えてること全部口に出てますって感じだったね」
 玄さんのあのマシンガントークを思い出してまた笑いが込み上げてきた。
 あそこまでやかましい人って、あちらの世界でも会ったことないかも。しかもあれで素面しらふっぽいし、お酒飲んだら更に喋りそうでやっぱり面白い。
 衝立を設置し終わると、次は体を拭く準備。
 一松から手拭いを受け取って土間に移動する。流しまで行くと、草順がかまどからお湯を汲んできてくれた。
「ありがとう」
「いえ。もうぬるいとは思いますが・・・どうでしょう?」
 手渡された桶に指を浸ける。晩ご飯の時に一度沸かしたお湯は、湯気は出ていてももう熱くはない。むしろお風呂くらいの温度になっていた。
「ちょうどいい感じ。浸かりたいくらい適温」
「明日は銭湯に行きますか?」
「お財布係に許可をもらえたらね」
 お湯で温まった手拭いを絞りながら伺うと、お財布係こと一松は敷き終えた布団の脇で読経を始めるところだった。
 彼が道明様からいくら預かっているのかは教えてもらっていない。金銭感覚がしっかりしてそうだからお金の管理は丸投げしていたけど、果たして銭湯代を必要経費としてみなしてくれるかどうか・・・。
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