14 / 78
第二章 お喋りな情報提供者
第十三話 嵐が去った後
しおりを挟む
玄さんから聞いた話は案の定とてもとても有益な話で、私たちが知りたかったこと満点の内容ではあった。
治療所の建物ができたのは一年前、治療所になったのは半年前。建てた人は定かじゃないけど、治療所を運営していたのはあの福田という商人。
ただし、福田さんの後ろにはどこぞのお侍さんがついているっぽいというのが、彼の見立てだ。
「そこがなかなか尻尾を出さなくてねぇ」と言っていたから、玄さんも何とかしようと調べてくれていたようだ。やはり良い人、なんだろう。
黒幕がいるならそこを叩きたい。今回の旅は多少日程を多めに見ているから、あと二、三日であれば時間は取れる。
それだけあれば私の聖女の業でどうにでもできそうだ。
「それほどまでのお話をどのようにしてお調べになられたのですか?」
「なぁに、ただひたすらに聞いて回ったのよ。人の口に戸は立てられないだろ」
一松の質問にちゃんと答えているように聞こえるけど、たぶんこれはちょっと嘘だ。
治療所の責任者が福田さんだということは容易に調べられたとしても、その後ろまでを探ろうとする人は早々いないだろう。
尻尾を出す出さないまでたどり着けているというからには、ある程度ちゃんとした情報網がありそうだ。
「で?で?あたしはちゃんと話したよ。どうだい?見返りはどんなもんだい?」
真面目な話が終わった途端にこれなのだからやはり彼は憎めそうにない。ちょっと可愛く見えてきたくらいだ。
「情報の真偽がまだ分かりませんよね?」
「そりゃあそうだけどさぁ」
「こちらで動いて関わっていた人たちを懲らしめてきます。見返りはその後考えますね」
「えー!えー!えー!」
流石に焦らし過ぎたのか、玄さんは「えー」しか言わなくなってしまった。
これはこれで面白い。けど、今から作戦会議をするのにずっとここに居られても困る。
それに、ちょっと煩い。
「じゃあ、いったんこれで」
言いつつ、彼の頭を撫でた。
六助にするみたいに、ヨシヨシと優しく撫でてあげた。
更に文句を言うかと思った玄さんだけど、意外にも静かに撫でられていて、逆に驚きだ。
無精なのかちょっとごわつく髪の毛。少し長めに撫でてから手を引っ込めると、玄さんは子どものように唇を尖らせていた。
「あんた、本当にズルい女だね」
なんて言うから不満なのかと思ったけど、すぐに「よし!」と立ち上がる玄さん。
いったんはご満足いただけたようだ。最終的な見返りとやらはおいおい考えよう。
「今日は帰るよ。明日また来るからあたしが恋しくなったらちゃんと素直に言いなよ」
「はいはい、お休みなさい」
「お休み小瑠璃」
来た時と同じようにすんなりと、嵐の様な玄さんは治療所を出て行った。
彼が出ていくと開けていた出入り口を智久さんが閉めてくれて、一松が壁際に積んでいた布団を取りに行ってくれる。
草順は衝立を動かしに行ったので、私も手伝う事にした。
「意外でした」
「ん?何が?」
「ああいう手合いはお好きでないのかと思っていました」
手合いって、確かちょっと悪口だ。草順には珍しいちょっと刺々しい言葉だ。
「あれだけ分かりやすいと逆に好きかな。面白い人だったしね」
大きめの衝立で、壁際に簡易個室を作る。十中八九私用のスペースで、男性陣は逆に周りを取り囲むように寝てくれるんだろうことが、敷かれた布団の位置で分かった。
「面白いというか無駄口が多いだけでは?」
「確かに。考えてること全部口に出てますって感じだったね」
玄さんのあのマシンガントークを思い出してまた笑いが込み上げてきた。
あそこまでやかましい人って、あちらの世界でも会ったことないかも。しかもあれで素面っぽいし、お酒飲んだら更に喋りそうでやっぱり面白い。
衝立を設置し終わると、次は体を拭く準備。
一松から手拭いを受け取って土間に移動する。流しまで行くと、草順が竈からお湯を汲んできてくれた。
「ありがとう」
「いえ。もうぬるいとは思いますが・・・どうでしょう?」
手渡された桶に指を浸ける。晩ご飯の時に一度沸かしたお湯は、湯気は出ていてももう熱くはない。むしろお風呂くらいの温度になっていた。
「ちょうどいい感じ。浸かりたいくらい適温」
「明日は銭湯に行きますか?」
「お財布係に許可をもらえたらね」
お湯で温まった手拭いを絞りながら伺うと、お財布係こと一松は敷き終えた布団の脇で読経を始めるところだった。
彼が道明様からいくら預かっているのかは教えてもらっていない。金銭感覚がしっかりしてそうだからお金の管理は丸投げしていたけど、果たして銭湯代を必要経費としてみなしてくれるかどうか・・・。
治療所の建物ができたのは一年前、治療所になったのは半年前。建てた人は定かじゃないけど、治療所を運営していたのはあの福田という商人。
ただし、福田さんの後ろにはどこぞのお侍さんがついているっぽいというのが、彼の見立てだ。
「そこがなかなか尻尾を出さなくてねぇ」と言っていたから、玄さんも何とかしようと調べてくれていたようだ。やはり良い人、なんだろう。
黒幕がいるならそこを叩きたい。今回の旅は多少日程を多めに見ているから、あと二、三日であれば時間は取れる。
それだけあれば私の聖女の業でどうにでもできそうだ。
「それほどまでのお話をどのようにしてお調べになられたのですか?」
「なぁに、ただひたすらに聞いて回ったのよ。人の口に戸は立てられないだろ」
一松の質問にちゃんと答えているように聞こえるけど、たぶんこれはちょっと嘘だ。
治療所の責任者が福田さんだということは容易に調べられたとしても、その後ろまでを探ろうとする人は早々いないだろう。
尻尾を出す出さないまでたどり着けているというからには、ある程度ちゃんとした情報網がありそうだ。
「で?で?あたしはちゃんと話したよ。どうだい?見返りはどんなもんだい?」
真面目な話が終わった途端にこれなのだからやはり彼は憎めそうにない。ちょっと可愛く見えてきたくらいだ。
「情報の真偽がまだ分かりませんよね?」
「そりゃあそうだけどさぁ」
「こちらで動いて関わっていた人たちを懲らしめてきます。見返りはその後考えますね」
「えー!えー!えー!」
流石に焦らし過ぎたのか、玄さんは「えー」しか言わなくなってしまった。
これはこれで面白い。けど、今から作戦会議をするのにずっとここに居られても困る。
それに、ちょっと煩い。
「じゃあ、いったんこれで」
言いつつ、彼の頭を撫でた。
六助にするみたいに、ヨシヨシと優しく撫でてあげた。
更に文句を言うかと思った玄さんだけど、意外にも静かに撫でられていて、逆に驚きだ。
無精なのかちょっとごわつく髪の毛。少し長めに撫でてから手を引っ込めると、玄さんは子どものように唇を尖らせていた。
「あんた、本当にズルい女だね」
なんて言うから不満なのかと思ったけど、すぐに「よし!」と立ち上がる玄さん。
いったんはご満足いただけたようだ。最終的な見返りとやらはおいおい考えよう。
「今日は帰るよ。明日また来るからあたしが恋しくなったらちゃんと素直に言いなよ」
「はいはい、お休みなさい」
「お休み小瑠璃」
来た時と同じようにすんなりと、嵐の様な玄さんは治療所を出て行った。
彼が出ていくと開けていた出入り口を智久さんが閉めてくれて、一松が壁際に積んでいた布団を取りに行ってくれる。
草順は衝立を動かしに行ったので、私も手伝う事にした。
「意外でした」
「ん?何が?」
「ああいう手合いはお好きでないのかと思っていました」
手合いって、確かちょっと悪口だ。草順には珍しいちょっと刺々しい言葉だ。
「あれだけ分かりやすいと逆に好きかな。面白い人だったしね」
大きめの衝立で、壁際に簡易個室を作る。十中八九私用のスペースで、男性陣は逆に周りを取り囲むように寝てくれるんだろうことが、敷かれた布団の位置で分かった。
「面白いというか無駄口が多いだけでは?」
「確かに。考えてること全部口に出てますって感じだったね」
玄さんのあのマシンガントークを思い出してまた笑いが込み上げてきた。
あそこまでやかましい人って、あちらの世界でも会ったことないかも。しかもあれで素面っぽいし、お酒飲んだら更に喋りそうでやっぱり面白い。
衝立を設置し終わると、次は体を拭く準備。
一松から手拭いを受け取って土間に移動する。流しまで行くと、草順が竈からお湯を汲んできてくれた。
「ありがとう」
「いえ。もうぬるいとは思いますが・・・どうでしょう?」
手渡された桶に指を浸ける。晩ご飯の時に一度沸かしたお湯は、湯気は出ていてももう熱くはない。むしろお風呂くらいの温度になっていた。
「ちょうどいい感じ。浸かりたいくらい適温」
「明日は銭湯に行きますか?」
「お財布係に許可をもらえたらね」
お湯で温まった手拭いを絞りながら伺うと、お財布係こと一松は敷き終えた布団の脇で読経を始めるところだった。
彼が道明様からいくら預かっているのかは教えてもらっていない。金銭感覚がしっかりしてそうだからお金の管理は丸投げしていたけど、果たして銭湯代を必要経費としてみなしてくれるかどうか・・・。
20
あなたにおすすめの小説
【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り
楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。
たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。
婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。
しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。
なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。
せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。
「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」
「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」
かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。
執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?!
見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。
*全16話+番外編の予定です
*あまあです(ざまあはありません)
*2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
召しませ、私の旦那さまっ!〜美醜逆転の世界でイケメン男性を召喚します〜
紗幸
恋愛
「醜い怪物」こそ、私の理想の旦那さま!
聖女ミリアは、魔王を倒す力を持つ「勇者」を召喚する大役を担う。だけど、ミリアの願いはただ一つ。日本基準の超絶イケメンを召喚し、魔王討伐の旅を通して結婚することだった。召喚されたゼインは、この国の美醜の基準では「醜悪な怪物」扱い。しかしミリアの目には、彼は完璧な最強イケメンに映っていた。ミリアは魔王討伐の旅を「イケメン旦那さまゲットのためのアピールタイム」と称し、ゼインの心を掴もうと画策する。しかし、ゼインは冷酷な仮面を崩さないまま、旅が終わる。
イケメン勇者と美少女聖女が織りなす、勘違いと愛が暴走する異世界ラブコメディ。果たして、二人の「愛の旅」は、最高の結末を迎えるのか?
※短編用に書いたのですが、少し長くなったので連載にしています
※この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています
【完結】裏切られ婚約破棄した聖女ですが、騎士団長様に求婚されすぎそれどころではありません!
綺咲 潔
恋愛
クリスタ・ウィルキンスは魔導士として、魔塔で働いている。そんなある日、彼女は8000年前に聖女・オフィーリア様のみが成功した、生贄の試練を受けないかと打診される。
本来なら受けようと思わない。しかし、クリスタは身分差を理由に反対されていた魔導士であり婚約者のレアードとの結婚を認めてもらうため、試練を受けることを決意する。
しかし、この試練の裏で、レアードはクリスタの血の繋がっていない妹のアイラととんでもないことを画策していて……。
試練に出発する直前、クリスタは見送りに来てくれた騎士団長の1人から、とあるお守りをもらう。そして、このお守りと試練が後のクリスタの運命を大きく変えることになる。
◇ ◇ ◇
「ずっとお慕いしておりました。どうか私と結婚してください」
「お断りいたします」
恋愛なんてもう懲り懲り……!
そう思っている私が、なぜプロポーズされているの!?
果たして、クリスタの恋の行方は……!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる