37 / 78
第四章 有為の転変
第三十六話 光来寺改造計画
しおりを挟む
お風呂から上がった後、部屋で待っていると、湯上りの道明様が晩ご飯を持ってきてくれた。
「お帰りなさい」
「あぁ」
「今日はずっと出かけてたんですか?」
二つの膳を置いて、向かい合わせに座る。
朝ぶりに愛しの夫に会えて、ニヤついてしまいそうになる頬を頑張って抑え込んだ。
「昼と夕には戻っておったが、囲まれてしまった故部屋には戻らずにいたのだ」
なるほど、彼目当ての参拝者が増えてしまうと光来寺内でも猫かぶりしていないといけなくなるのか。
部屋で休んでる私が気を使わなくていいようにしてくれるのだから、道明様って本当に優しくて好き。
溢れ出そうになる思いをグッと抑えながら、「いただきます」と手を合わせた。
贅沢ではないけど、きちんと栄養があるおかずと小鉢が揃った旅館の様なご飯。帰って来てからずっとこんな感じのご飯だから、もしかしなくてもこれからはこんなちゃんとした食事を毎食摂れるっぽい。
晴彦の背が伸びた気がしたのも、藍ちゃんと栄太郎君がもちもちになってきたのもご飯が良いお陰だな。
やっぱり食事は大事だ。次の旅ではもうちょっとちゃんとご飯を食べれるように考えよう。
「書き物をしていたと楠木に聞いたが?」
雑穀米を口に運ぶ姿ですら絵になる道明様は、相変わらず情報収集も抜け目がない。
というか、あれか。
道明様が半笑いしてるってことは、楠木のやつ私が服に墨を付けちゃったことチクったな。本当に性格悪いんだから。
「ちょっと色々考えていることがあって、筆の練習がてら書き出してみました」
「ほぅ、そなたの前世の知識が役に立ちそうという事か?」
「役に立つ、のかな・・・ご飯の後見てくれますか?」
「当然だ」
道明様には前世の事をちょくちょく話してはいたけど、こうやって私のアイデアを話すのは初めてで。
でも、優しく微笑んでくれる麗しいお顔には私への愛が溢れていたから、どんなに荒唐無稽だったとしても彼になら話せる、話したいと思ったのだった。
という事で、ご飯を片付けた後に道明様に話した光来寺改造計画は、簡単に言うと寺兼職業訓練校化するというものだ。
現在光来寺では、寺子屋を開いていてそこで子ども達に簡単な教育を施してはいる。
けれども、子ども達と同じくらい大人達にも教育が必要ではないかと、旅をしながら思ったんだ。
技術と知識を持っていても、その価値を理解していないせいで生かすことも継承することもせずにいたお初おばあちゃんだけでない。彼女の娘さん達だって、知識がないせいで害獣の被害をどうすることもできずにいた。
河入で治療所の被害にあっていた人たちだって、少しでも医療の知識があればもっと早くおかしい事に気づけただろうし、城主様も見過ごせない量の投書が寄せられていたはずだ。
あの、谷根の港町の人達だってそう。
もっとちゃんとした教育を受けていれば、人柱なんて立てても意味がないと、理解できていたはずなんだ。
読めないだろうからと私が読み上げた計画書を、道明様はその長い指先で確かめるように撫でた。
「民が学を付けると統治が難しくなると話したであろう」
憂うように伏せたまつ毛が、悲し気に影を作っているようにも見えるのは、気のせいだろうか。
「寺子屋の話の時に聞きました」
「では何故?」
道明様の懸念は最もだし、前世のように教育レベルが上がってしまった事による問題だって起こるとは思う。
けれども、そんなデメリットがあったとしても、見過ごす事のできない問題が現に今も起こっているのを目の当たりにしてしまったのだ。
「今って、悪い事を企んでる人ほどもう学を付けちゃってるんですよ」
八ツ笠のように統治する側が善人であれば民は学がなくても幸せに生きて行けるだろう。
でもここは、この鹿谷は、統治者が正しく統治をできていない。
さながら軽い無法地帯。そんな中で運よく学を身に付ける事ができてしまった福田さんは、商才もないのに犯罪スレスレの行為に手を染めることで大店の店主にまでなっていたのだ。
庄屋の嶋原さんに足切りされたらしいから今はどうなっているか分からないけど、人道にもとる事が出来てしまう人だからまた同じような行為を繰り返しそうだ。
本当なら黒峰城城主様の裁量でどうにかしてもらいたいけれど、彼は明確な罪には問えないと弱腰だったから頼りにならない。
なら、自衛能力を付けてもらう他、手段がないのだ。
「全体の教育水準が上がればなくなる悲劇も確実にあります。それに、そもそも鹿谷は統治できていないから難しくなるも何もないかと思いますけど」
「ハッハッハッ、言うではないか」
つい本音が漏れてしまって、道明様に声を上げて笑われてしまった。
でも道明様が口をあけて笑う時の顔って、ちょっと幼くて可愛いから見れたら嬉しくなるんだ。この距離で見れるのだって妻の特権だしね。
「お帰りなさい」
「あぁ」
「今日はずっと出かけてたんですか?」
二つの膳を置いて、向かい合わせに座る。
朝ぶりに愛しの夫に会えて、ニヤついてしまいそうになる頬を頑張って抑え込んだ。
「昼と夕には戻っておったが、囲まれてしまった故部屋には戻らずにいたのだ」
なるほど、彼目当ての参拝者が増えてしまうと光来寺内でも猫かぶりしていないといけなくなるのか。
部屋で休んでる私が気を使わなくていいようにしてくれるのだから、道明様って本当に優しくて好き。
溢れ出そうになる思いをグッと抑えながら、「いただきます」と手を合わせた。
贅沢ではないけど、きちんと栄養があるおかずと小鉢が揃った旅館の様なご飯。帰って来てからずっとこんな感じのご飯だから、もしかしなくてもこれからはこんなちゃんとした食事を毎食摂れるっぽい。
晴彦の背が伸びた気がしたのも、藍ちゃんと栄太郎君がもちもちになってきたのもご飯が良いお陰だな。
やっぱり食事は大事だ。次の旅ではもうちょっとちゃんとご飯を食べれるように考えよう。
「書き物をしていたと楠木に聞いたが?」
雑穀米を口に運ぶ姿ですら絵になる道明様は、相変わらず情報収集も抜け目がない。
というか、あれか。
道明様が半笑いしてるってことは、楠木のやつ私が服に墨を付けちゃったことチクったな。本当に性格悪いんだから。
「ちょっと色々考えていることがあって、筆の練習がてら書き出してみました」
「ほぅ、そなたの前世の知識が役に立ちそうという事か?」
「役に立つ、のかな・・・ご飯の後見てくれますか?」
「当然だ」
道明様には前世の事をちょくちょく話してはいたけど、こうやって私のアイデアを話すのは初めてで。
でも、優しく微笑んでくれる麗しいお顔には私への愛が溢れていたから、どんなに荒唐無稽だったとしても彼になら話せる、話したいと思ったのだった。
という事で、ご飯を片付けた後に道明様に話した光来寺改造計画は、簡単に言うと寺兼職業訓練校化するというものだ。
現在光来寺では、寺子屋を開いていてそこで子ども達に簡単な教育を施してはいる。
けれども、子ども達と同じくらい大人達にも教育が必要ではないかと、旅をしながら思ったんだ。
技術と知識を持っていても、その価値を理解していないせいで生かすことも継承することもせずにいたお初おばあちゃんだけでない。彼女の娘さん達だって、知識がないせいで害獣の被害をどうすることもできずにいた。
河入で治療所の被害にあっていた人たちだって、少しでも医療の知識があればもっと早くおかしい事に気づけただろうし、城主様も見過ごせない量の投書が寄せられていたはずだ。
あの、谷根の港町の人達だってそう。
もっとちゃんとした教育を受けていれば、人柱なんて立てても意味がないと、理解できていたはずなんだ。
読めないだろうからと私が読み上げた計画書を、道明様はその長い指先で確かめるように撫でた。
「民が学を付けると統治が難しくなると話したであろう」
憂うように伏せたまつ毛が、悲し気に影を作っているようにも見えるのは、気のせいだろうか。
「寺子屋の話の時に聞きました」
「では何故?」
道明様の懸念は最もだし、前世のように教育レベルが上がってしまった事による問題だって起こるとは思う。
けれども、そんなデメリットがあったとしても、見過ごす事のできない問題が現に今も起こっているのを目の当たりにしてしまったのだ。
「今って、悪い事を企んでる人ほどもう学を付けちゃってるんですよ」
八ツ笠のように統治する側が善人であれば民は学がなくても幸せに生きて行けるだろう。
でもここは、この鹿谷は、統治者が正しく統治をできていない。
さながら軽い無法地帯。そんな中で運よく学を身に付ける事ができてしまった福田さんは、商才もないのに犯罪スレスレの行為に手を染めることで大店の店主にまでなっていたのだ。
庄屋の嶋原さんに足切りされたらしいから今はどうなっているか分からないけど、人道にもとる事が出来てしまう人だからまた同じような行為を繰り返しそうだ。
本当なら黒峰城城主様の裁量でどうにかしてもらいたいけれど、彼は明確な罪には問えないと弱腰だったから頼りにならない。
なら、自衛能力を付けてもらう他、手段がないのだ。
「全体の教育水準が上がればなくなる悲劇も確実にあります。それに、そもそも鹿谷は統治できていないから難しくなるも何もないかと思いますけど」
「ハッハッハッ、言うではないか」
つい本音が漏れてしまって、道明様に声を上げて笑われてしまった。
でも道明様が口をあけて笑う時の顔って、ちょっと幼くて可愛いから見れたら嬉しくなるんだ。この距離で見れるのだって妻の特権だしね。
20
あなたにおすすめの小説
【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り
楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。
たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。
婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。
しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。
なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。
せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。
「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」
「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」
かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。
執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?!
見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。
*全16話+番外編の予定です
*あまあです(ざまあはありません)
*2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
召しませ、私の旦那さまっ!〜美醜逆転の世界でイケメン男性を召喚します〜
紗幸
恋愛
「醜い怪物」こそ、私の理想の旦那さま!
聖女ミリアは、魔王を倒す力を持つ「勇者」を召喚する大役を担う。だけど、ミリアの願いはただ一つ。日本基準の超絶イケメンを召喚し、魔王討伐の旅を通して結婚することだった。召喚されたゼインは、この国の美醜の基準では「醜悪な怪物」扱い。しかしミリアの目には、彼は完璧な最強イケメンに映っていた。ミリアは魔王討伐の旅を「イケメン旦那さまゲットのためのアピールタイム」と称し、ゼインの心を掴もうと画策する。しかし、ゼインは冷酷な仮面を崩さないまま、旅が終わる。
イケメン勇者と美少女聖女が織りなす、勘違いと愛が暴走する異世界ラブコメディ。果たして、二人の「愛の旅」は、最高の結末を迎えるのか?
※短編用に書いたのですが、少し長くなったので連載にしています
※この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています
【完結】裏切られ婚約破棄した聖女ですが、騎士団長様に求婚されすぎそれどころではありません!
綺咲 潔
恋愛
クリスタ・ウィルキンスは魔導士として、魔塔で働いている。そんなある日、彼女は8000年前に聖女・オフィーリア様のみが成功した、生贄の試練を受けないかと打診される。
本来なら受けようと思わない。しかし、クリスタは身分差を理由に反対されていた魔導士であり婚約者のレアードとの結婚を認めてもらうため、試練を受けることを決意する。
しかし、この試練の裏で、レアードはクリスタの血の繋がっていない妹のアイラととんでもないことを画策していて……。
試練に出発する直前、クリスタは見送りに来てくれた騎士団長の1人から、とあるお守りをもらう。そして、このお守りと試練が後のクリスタの運命を大きく変えることになる。
◇ ◇ ◇
「ずっとお慕いしておりました。どうか私と結婚してください」
「お断りいたします」
恋愛なんてもう懲り懲り……!
そう思っている私が、なぜプロポーズされているの!?
果たして、クリスタの恋の行方は……!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる