聖女の私にできること第四巻

藤ノ千里

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第四章 有為の転変

第三十六話 光来寺改造計画

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 お風呂から上がった後、部屋で待っていると、湯上りの道明様が晩ご飯を持ってきてくれた。
「お帰りなさい」
「あぁ」
「今日はずっと出かけてたんですか?」
 二つの膳を置いて、向かい合わせに座る。
 朝ぶりに愛しの夫に会えて、ニヤついてしまいそうになる頬を頑張って抑え込んだ。
「昼と夕には戻っておったが、囲まれてしまった故部屋には戻らずにいたのだ」
 なるほど、彼目当ての参拝者が増えてしまうと光来寺内でも猫かぶりしていないといけなくなるのか。
 部屋で休んでる私が気を使わなくていいようにしてくれるのだから、道明様って本当に優しくて好き。
 溢れ出そうになる思いをグッと抑えながら、「いただきます」と手を合わせた。
 贅沢ではないけど、きちんと栄養があるおかずと小鉢が揃った旅館の様なご飯。帰って来てからずっとこんな感じのご飯だから、もしかしなくてもこれからはこんなちゃんとした食事を毎食摂れるっぽい。
 晴彦の背が伸びた気がしたのも、藍ちゃんと栄太郎君がもちもちになってきたのもご飯が良いお陰だな。
 やっぱり食事は大事だ。次の旅ではもうちょっとちゃんとご飯を食べれるように考えよう。
「書き物をしていたと楠木に聞いたが?」
 雑穀米を口に運ぶ姿ですら絵になる道明様は、相変わらず情報収集も抜け目がない。
 というか、あれか。
 道明様が半笑いしてるってことは、楠木のやつ私が服に墨を付けちゃったことチクったな。本当に性格悪いんだから。
「ちょっと色々考えていることがあって、筆の練習がてら書き出してみました」
「ほぅ、そなたの前世の知識が役に立ちそうという事か?」
「役に立つ、のかな・・・ご飯の後見てくれますか?」
「当然だ」
 道明様には前世の事をちょくちょく話してはいたけど、こうやって私のアイデアを話すのは初めてで。
 でも、優しく微笑んでくれる麗しいお顔には私への愛が溢れていたから、どんなに荒唐無稽だったとしても彼になら話せる、話したいと思ったのだった。


 という事で、ご飯を片付けた後に道明様に話した光来寺改造計画は、簡単に言うと寺兼職業訓練校化するというものだ。
 現在光来寺では、寺子屋を開いていてそこで子ども達に簡単な教育を施してはいる。
 けれども、子ども達と同じくらい大人達にも教育が必要ではないかと、旅をしながら思ったんだ。
 技術と知識を持っていても、その価値を理解していないせいで生かすことも継承することもせずにいたお初おばあちゃんだけでない。彼女の娘さん達だって、知識がないせいで害獣の被害をどうすることもできずにいた。
 河入で治療所の被害にあっていた人たちだって、少しでも医療の知識があればもっと早くおかしい事に気づけただろうし、城主様も見過ごせない量の投書が寄せられていたはずだ。
 あの、谷根の港町の人達だってそう。
 もっとちゃんとした教育を受けていれば、人柱なんて立てても意味がないと、理解できていたはずなんだ。
 読めないだろうからと私が読み上げた計画書を、道明様はその長い指先で確かめるように撫でた。
「民が学を付けると統治が難しくなると話したであろう」
 憂うように伏せたまつ毛が、悲し気に影を作っているようにも見えるのは、気のせいだろうか。
「寺子屋の話の時に聞きました」
「では何故?」
 道明様の懸念は最もだし、前世のように教育レベルが上がってしまった事による問題だって起こるとは思う。
 けれども、そんなデメリットがあったとしても、見過ごす事のできない問題が現に今も起こっているのを目の当たりにしてしまったのだ。
「今って、悪い事を企んでる人ほどもう学を付けちゃってるんですよ」
 八ツ笠のように統治する側が善人であれば民は学がなくても幸せに生きて行けるだろう。
 でもここは、この鹿谷は、統治者が正しく統治をできていない。
 さながら軽い無法地帯。そんな中で運よく学を身に付ける事ができてしまった福田さんは、商才もないのに犯罪スレスレの行為に手を染めることで大店の店主にまでなっていたのだ。
 庄屋の嶋原さんに足切りされたらしいから今はどうなっているか分からないけど、人道にもとる事が出来てしまう人だからまた同じような行為を繰り返しそうだ。
 本当なら黒峰城城主様の裁量でどうにかしてもらいたいけれど、彼は明確な罪には問えないと弱腰だったから頼りにならない。
 なら、自衛能力を付けてもらう他、手段がないのだ。
「全体の教育水準が上がればなくなる悲劇も確実にあります。それに、そもそも鹿谷は統治できていないから難しくなるも何もないかと思いますけど」
「ハッハッハッ、言うではないか」
 つい本音が漏れてしまって、道明様に声を上げて笑われてしまった。
 でも道明様が口をあけて笑う時の顔って、ちょっと幼くて可愛いから見れたら嬉しくなるんだ。この距離で見れるのだって妻の特権だしね。
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