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第六章 二度目の視察
第五十話 イライラ?ムラムラ?
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海から離れているから魚はなかったけど、それが残念に思わないくらいのお肉づくし。
しかも行者にんにくと言い、葱と言い、居酒屋みたいな香辛料もりもりの味付けで、かつお酒も出されてしまった。
五人中三人はお坊さんの格好をしているのにも関わらず、だ。
「この酒、初めて飲む味だけどこりゃあいいね!土産に買って帰ろうかしら」
小太郎姿の私は、楠木よりも下の立場なわけで。
頭がカチカチな楠木は、飲酒なんて言語道断なわけで。
「いやぁ、一人だけでいただいちゃって悪いねぇ!」
出されたお酒を一人で美味しそうに飲む玄さんの姿を、ただ見ているしかできないわけで。
「楠木、様。お土産に買って帰るのは・・・」
「駄目だ」
お土産にする事すらも禁止されてしまったので、もうあのお酒を飲むことは一生無理かもしれない。
頭カチカチでけちんぼで意地悪で嫌味大魔神で。こうなってくるとこの人の良いところって美人なところだけじゃない?
不満顔を隠さないままご飯を食べ終えて、箸を置く。
食後のお茶は、ハーブの様な不思議な香りがした。
一口目は、てっきり料理の味が強くて舌が混乱したからだと思ったけど、二口目以降もやっぱり不思議な香りで、見た目は緑茶なのに味が違うなんて変な感じ。
でも、三口目。口に含んだ時に香りの正体をちょっと特定できた。
これナッツか何かを炒った香りだ。その後口の中に残るのは、発酵したお茶の香りっぽい。
ちょっと玄米茶に近いけど、嫌いじゃない味だなぁ。
なんて思いながら飲み干して、手を合わせた。
私が男装していると、私たちは一見男だけの五人旅。
だからまぁ、こういう展開も予想しようと思えばできたのかもしれない。
晩ご飯の膳を下げに来た店主のおじさんが引き連れて来たのは、いわゆる妙齢の女性が五人。
胸元が大きめに開いているのは、どう考えてもわざとだった。
「せっかくお越しいただきましたので夜もお楽しみいただければと思いまして」
なんて言う店主の言葉も恣意的過ぎて、思わず楠木を見た。
楠木は、一ミリもぶれない爽やか好青年スマイルを浮かべていた。
「せっかくのお心遣いではございますが、我ら御仏にお仕えする身でございます故、お気持ちだけいただいておきます」
取り付く島もない返事に、この時ばかりは楠木が格好良く見えた。
後ろの方で「えー!もったいない!」なんて騒いでいるお調子者は無視だ。
「ご遠慮なさいますな。お坊様とは言えたまには息抜きも必要でしょうし、ここで多少羽目を外されたとて外には洩れますまい」
なんて言う店主の言葉に違和感を感じたのは、私も駆け引きに慣れてきた証拠と言う事か。
「ご冗談を」
それとも、女性たちからやけに甘い匂いがしたからか、店主の喋り方がどこか呪文みたいに聞こえたからか。
「大丈夫、ここの女達はみな口が硬いのです」
笑顔が崩れない楠木を挟んで、変な顔の一松と目が合う。
それは何かを堪えるような、苦しそうにも見える顔で。
そして私はそんな顔を、昔見た事があった気がしなくもなくて。
「お引き取りくださいませ」
「では私は下がらせていただきます」
「そこの娘様方も、です」
楠木の声が微かに苛立っていて、彼もいつも通りじゃない事に気付く。
断られているのにも関わらずしつこい店主も変と言えば変で。
だから、声に出さずに謝りつつ、店主の心を読んでやった。
「いいえ、お若い殿方には女は必要でしょう?」
見えてきたのは、期待に満ちた下品な妄想。
それだけでも気が滅入りそうだったのに、続いて見えてきたのはごく現実的な卑劣な計画の一端で。
「もしや女の柔肌をご存知ないのですか?」
流石に露骨すぎる言葉に、思わず集中力が切れた。
でもまぁいっか。この気持ち悪い空気の正体は分かったし。
「お引き取りをと、申しておるのですが」
「楠木様」
笑顔が崩れかけた楠木の言葉を遮ると、咎めるような視線を返される。
イライラしてるんだろう。もしくはムラムラしてるんだろう。彼も若いしね。
「夕餉に薬が盛られていたようです。恐らくは媚薬のようなものかと」
楠木の目が、スッと細められた。一回だけ瞬きすると、ゆっくりと店主に向き直る。
彼はもう微笑んではいなかった。
美人の真顔からは、殺気に似た怒気が漏れ出ているように見えた。
「どういう事か、詳しく伺えますな?ご主人」
しかも行者にんにくと言い、葱と言い、居酒屋みたいな香辛料もりもりの味付けで、かつお酒も出されてしまった。
五人中三人はお坊さんの格好をしているのにも関わらず、だ。
「この酒、初めて飲む味だけどこりゃあいいね!土産に買って帰ろうかしら」
小太郎姿の私は、楠木よりも下の立場なわけで。
頭がカチカチな楠木は、飲酒なんて言語道断なわけで。
「いやぁ、一人だけでいただいちゃって悪いねぇ!」
出されたお酒を一人で美味しそうに飲む玄さんの姿を、ただ見ているしかできないわけで。
「楠木、様。お土産に買って帰るのは・・・」
「駄目だ」
お土産にする事すらも禁止されてしまったので、もうあのお酒を飲むことは一生無理かもしれない。
頭カチカチでけちんぼで意地悪で嫌味大魔神で。こうなってくるとこの人の良いところって美人なところだけじゃない?
不満顔を隠さないままご飯を食べ終えて、箸を置く。
食後のお茶は、ハーブの様な不思議な香りがした。
一口目は、てっきり料理の味が強くて舌が混乱したからだと思ったけど、二口目以降もやっぱり不思議な香りで、見た目は緑茶なのに味が違うなんて変な感じ。
でも、三口目。口に含んだ時に香りの正体をちょっと特定できた。
これナッツか何かを炒った香りだ。その後口の中に残るのは、発酵したお茶の香りっぽい。
ちょっと玄米茶に近いけど、嫌いじゃない味だなぁ。
なんて思いながら飲み干して、手を合わせた。
私が男装していると、私たちは一見男だけの五人旅。
だからまぁ、こういう展開も予想しようと思えばできたのかもしれない。
晩ご飯の膳を下げに来た店主のおじさんが引き連れて来たのは、いわゆる妙齢の女性が五人。
胸元が大きめに開いているのは、どう考えてもわざとだった。
「せっかくお越しいただきましたので夜もお楽しみいただければと思いまして」
なんて言う店主の言葉も恣意的過ぎて、思わず楠木を見た。
楠木は、一ミリもぶれない爽やか好青年スマイルを浮かべていた。
「せっかくのお心遣いではございますが、我ら御仏にお仕えする身でございます故、お気持ちだけいただいておきます」
取り付く島もない返事に、この時ばかりは楠木が格好良く見えた。
後ろの方で「えー!もったいない!」なんて騒いでいるお調子者は無視だ。
「ご遠慮なさいますな。お坊様とは言えたまには息抜きも必要でしょうし、ここで多少羽目を外されたとて外には洩れますまい」
なんて言う店主の言葉に違和感を感じたのは、私も駆け引きに慣れてきた証拠と言う事か。
「ご冗談を」
それとも、女性たちからやけに甘い匂いがしたからか、店主の喋り方がどこか呪文みたいに聞こえたからか。
「大丈夫、ここの女達はみな口が硬いのです」
笑顔が崩れない楠木を挟んで、変な顔の一松と目が合う。
それは何かを堪えるような、苦しそうにも見える顔で。
そして私はそんな顔を、昔見た事があった気がしなくもなくて。
「お引き取りくださいませ」
「では私は下がらせていただきます」
「そこの娘様方も、です」
楠木の声が微かに苛立っていて、彼もいつも通りじゃない事に気付く。
断られているのにも関わらずしつこい店主も変と言えば変で。
だから、声に出さずに謝りつつ、店主の心を読んでやった。
「いいえ、お若い殿方には女は必要でしょう?」
見えてきたのは、期待に満ちた下品な妄想。
それだけでも気が滅入りそうだったのに、続いて見えてきたのはごく現実的な卑劣な計画の一端で。
「もしや女の柔肌をご存知ないのですか?」
流石に露骨すぎる言葉に、思わず集中力が切れた。
でもまぁいっか。この気持ち悪い空気の正体は分かったし。
「お引き取りをと、申しておるのですが」
「楠木様」
笑顔が崩れかけた楠木の言葉を遮ると、咎めるような視線を返される。
イライラしてるんだろう。もしくはムラムラしてるんだろう。彼も若いしね。
「夕餉に薬が盛られていたようです。恐らくは媚薬のようなものかと」
楠木の目が、スッと細められた。一回だけ瞬きすると、ゆっくりと店主に向き直る。
彼はもう微笑んではいなかった。
美人の真顔からは、殺気に似た怒気が漏れ出ているように見えた。
「どういう事か、詳しく伺えますな?ご主人」
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