聖女の私にできること第四巻

藤ノ千里

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第九章 立ちはだかる運命

第七十一話 まるで導かれるように

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 さすがの大先生。めちゃくちゃ頼りになる。
 あ、でも、葉の英語は分かるけど、複数形にするとどうなるんだったっけ?
「Buyin' 'em? If you are, I can make 'em cheaper for ya.」
 船員さんはミントの種をアピールしながら何か言ってるけど、この感じ、何だか購入を急かされている気がする。
 正確な英語・・・じゃなくてもいっか。要は伝わればいいだけだし。
「Do you have medicine leaf?」
「Medicine leaf?」
 「薬の葉」で薬草になるかなーと思ったんだけど、船員さんは大げさに聞き返しながら大げさに肩をすくめた。
 こういう風にオーバーにリアクションを取られるのって実はちょっと苦手。
 やっぱり、伝わらなかったかな?
 単語が間違ってた?それとも発音が?
 言い直し方を必死で考えながら、コメディ映画みたいな仕草で考え込む船員さんを見ていた。
 「薬の葉」が駄目なら「ミントの葉みたいなもの」にしようか。でもそれだと葉野菜みたいだし違うよなぁ。
 困り顔の私と、あっちに首を傾けたりこっちに首を傾けたりしている船員さん。
 にらめっこの時間は、どうやら私の根気がちだったようだ。
 船員さんは考え中の顔のまま、体の前でポンと手を合わせた。そして一転して「思いつきました」と言わんばかりの晴れやかな顔になった。
「Ah, you mean herbs! We got this one and... this one...」
 歯に挟まったものが取れたからか、船員さんは軽快な動きでカラカラの葉っぱをいくつも取り出して並べていく。
 草順が食いつくところを見ると、あれが薬草でいいらしい。
 そうか、薬草ってハーブって言えば伝わったのか。
 思いつつ木村先生を見ると、やっぱり楽しそうに微笑まれていて。
 もしかして、知っていて私が正解にたどり着くのを観察してたんだろうか?
 なんていう疑いを持ってしまうほど、楽しそうに微笑まれていたのだった。


 船員さんから五種類の薬草を買い、おまけでミントの種をもらった。
 ちなみに支払いは頭に刺してたかんざし一本で足りた。楠木が勝手に刺して来た簪だけど、意外と高価なやつだったらしい。
 勝手に刺して来たんだし、勝手に売っちゃっても仕方ないよね。支払いに使えそうなものって、あとは胸に忍ばせてる皇后様から頂いた櫛だけだったけど、これを使うわけにはいかなかったしね。
 で、今は再びの宿屋。
 作戦会議パートツーだ。
「あの人、本当に診なくて良かったんですかね?」
「恐らくは、非正規の船である故に騒ぎとしたくなかったんでしょうな」
 薬草を売ってくれた船員さんとは別の、船から下りて来た細身の船員さん。
 明らかに顔色が悪くて厠に駆け込んでいたけど、厠から出てきてもまだ具合が悪そうだった。
 けど「医師だ」と伝えても、頑なに診せてくれくれなかったのだ。
 慣れない土地での体調不良なんて、大変だろうに・・・。
「それで、直接ご覧になって何かお分かりになりましたか?」
「そう、ですね・・・」
 窓際で、ブツブツ言いながら俯く草順の周りには、買ったばかりの薬草たち。
 残念ながら品ぞろえでは何も分からなかった。
 国を特定されないためにあえて分かりにくくしているようにも見えたくらいだ。
「彼らが話していた英語は、いくつかの国で使われてるんです。なのでどこの国かは分かりませんが少なくともオランダではないです」
 フーと息をつく様なため息を、初めて木村先生から聞いた気がした。
 それに、思い悩むような顔はきりりとしていて、普段よりも少し若く見えた。
 膝の上の手をギュっと握り、チラリと草順の背中を見る。そして、私を、初めて会った時のように真剣な表情で見た。
「公儀に信書を出さねばなりませぬ」
「公儀?」
「幕府に、ひいては将軍様に、です」
 さすがに将軍様なんて言われてしまうと、一瞬であのお方のお姿を思い出してしまった。
 経過観察に伺った時に、きちんと座って難しい本を読んでいたあの姿。
 最後の最後で私の「すみれ」の名を返してくださったあの表情。
 踏み込まれてしまっても、どうしてだか強く拒めない、あの熱い眼差しを持つあのお方。
 今生の別れだと思って見送ったというのに、忘れたいと思っているのに、どうしてこうも頻繁にあの方の存在が頭にチラつくのか。
 あぁ、嫌だな。
 嫌だと思えないのが、嫌だなぁ。
「信書ってお手紙ですか?」
「はい。内容が内容だけに、信頼でき、かつ江戸城へ登城が叶うほどの方に届けて頂かなくてはなりませぬ」
「黒峰城の城主様とか?」
 複雑な胸の内を誤魔化すために、駄目元で茶化してみた。
 城主様は当てにならないと分かっていたから、足掻きみたいなものだったけれど。
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