聖女の私にできること第三巻

藤ノ千里

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第二章 道明様との共謀

第十二話 共同作業は続く

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 道明様の部屋に戻ると、床に倒れ込んだ。
 吐き気は収まっても、短時間で膨大な量の情報を処理した頭は、まだぐるぐると掻き回されているように気持ち悪かった。
 道明様が傍らに膝をつき、優しく頭を撫でてくれる。今日はもうこのまま寝てしまいたくなってきて、それじゃあ駄目だ!と気合いで目をこじ開けた。
「私、お役に立てたでしょ?」
「役に立つどころか・・・!」
 道明様の体温が覆いかぶさってくる。彼の体温と香りに包まれて、凄く幸せだ。
 体重をかけないようにしてくれているのが、尚更愛おしい。
「そなたがおらねばなし得なかった」
 最上級の褒め言葉だ。それもお世辞なんかじゃない、彼の心からの言葉。
 私が伝えた真実を、道明様はこれ以上ないほどに役立ててくれるのだろう。まるで共同作業みたいで嬉しい。
 にっこり微笑むと、道明様は優しくキスをしてくれた。好き。大好きだ。
 もう少しイチャイチャしていたかったが、ちょうど晩ご飯の時間だったので仕方がない。
「道明様、夕餉をお持ちいたしました」
 晴彦さんの声が聞こえてきて、道明様が離れていく。ふらつきながらも私も何とか体を起こした。
 晴彦さんと一松さんが4人分の晩ご飯を持ってきてくれて、安心する。
 彼らには年少者の付き添いをお願いしていたが、戻ってきたということはあのおじいちゃん二人が今代わりに見てくれているのだろう。
 そう、三郎太おじいちゃんと六助おじいちゃんに与えた罰は、「年少者の面倒をきちんと見ること」だった。
 年功序列のお寺で、おじいちゃん達が付き添っていれば他の僧は年少者に手出しができなくなる。
 一応修行も終えている彼らが年少者に指導をしてくれればこちらも手が空くし、一石二鳥なのだ。そんな事をすぐに考えれる道明様は本当に凄いと思う。
 念の為「不必要な折檻は禁止」とも伝えていて、不必要かどうかはこちらで判断することになっていた。
 こちらの裁量次第でどうにでもできるという脅しだ。鮮やかすぎて心の中で拍手を送りたくなる。


 何とか晩ご飯を食べて、今日は道明様に付き添ってもらってお風呂に入った。
 私の後に彼が入浴し、二人で部屋に戻る。部屋には既に布団が二組敷かれていた。
 布団にうつ伏せに倒れ込み、体を伸ばす。
 今日は朝早かった上に聖女の業をどちらも使って、人生で初めての悪巧みもして、すごく濃い1日だった気がする。
 明日からまた頑張るために、今日は早く寝なくては・・・!
 そう思う私と裏腹に、隣の布団に座り込んだ道明様の手が、私のお尻を撫でた。

ーーー
 昨晩はまぁ一応手加減をしてくれたようで、今朝はちゃんと早く起きれた。
 昨日の出来事で年少者の安全は一旦確保出来た。それに、念の為晴彦さんが見張りに立ってくれることになっていたので、当面の間は大丈夫だろう。
 だからといって気は抜けない。私には、やらなければならない事がまだ残っていた。
 一松さんの後に続いて本堂脇の廊下を歩く。この先は、僧房だ。
 離れにある年少者用の小さな僧房ではない。修行を終えたお坊様方が暮らす、手入れが行き届いている方の建物だ。
 庭の方に目を向けると、冷たい雨がパラついている。
 雨には当たっていないというのに、一歩踏み出す毎に、私の心からは熱が失われ、情が取り払われていくような気がした。


 大きな僧坊の隣には道場が隣接しているらしい。
 念の為先にそちらを確認したが、当然のように誰もいない。朝ご飯前だからという訳では無いんだろうことが、ホコリの積もり具合から分かる。
 やはりまだ寝ているのだろう。もう少しで朝日も登る時間だというのに。
 道明様風に言うならば「全く嘆かわしい」状況だ。
 一松さんに続いて僧房に入ると、ムワッとした暖かい空気に迎え入れられた。嫌な男臭さだ。お香の香りも少ししかしない。
 顔を一瞬だけしかめてしまったが、気合を入れてにっこりとした笑顔を作った。
 油断させるためには、なるべく警戒されない方がいいのだ。
「おはようございます」
 一松さんがうるさ過ぎない声量で挨拶しながら襖を開けると、沢山の布団が敷かれた大部屋だった。
 大部屋と言っても、衝立で所々仕切られてはいて、人によってはある程度プライベートが確保されているらしい。
 全員寝ているのかと思ったが、4人ほど既に身を起こしていたようだ。
 品定めするような視線が飛んでくる。寝ていたらしき数人もモゾモゾと動き始めた。
「ご就寝のところ申し訳もございませぬが、道明僧正様からのお話がございますので、この後数名ずつ本堂へお越しくださいませ」
 一松さんが喋る傍らで、私はお坊様方の顔を一人一人確認していく。
 探していたクソ野郎は5人。あいつとあいつとあいつと、あとの2人はまだ寝ているのか。
「話とは?」
 起きていたうちの一人が声を上げる。心を読んだが特にやましい事は考えてなさそうだ。
「申し訳もございませぬ。お話としか伺っておりませぬゆえ」
 新たに身を起こしたお坊様の中に、クソ野郎をもう1人見つけた。
 それでも1人足りない。トイレにでも行っているのだろうか。
「我らも暇では無いのだがな!」
 衝立で広々スペースを確保しているおじさんが野太い声で嫌味を言ってきたが、これは想定内。
「存じております。あくまでもお願いでございますので、来れる方のみお越しくださいませ」
 一松さんと一緒ににこやかな顔のまま頭を下げる。
「それでは失礼いたしまする」と襖を閉め、早足に僧房を後にした。
 本堂脇まで移動したところで、一松さんがこちらを見ずに「おったか?」と聞いてきたので、「4人は」と手短に答える。本堂内で待ってくれていた道明様の隣に座る頃には、一松さんはいなくなっていて、残りの1人を探しに行ってくれたようだった。
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