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第七章 愛していればこそ
第六十一話 至れり尽くせり
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光来寺へ戻ると、晩ご飯前に講堂に呼び出された。
呼び出したのはもちろん目の前のこの人。
「お忙しい折にお集まりくださり感謝申し上げます」
人畜無害な住職様の笑みを浮かべる道明様だ。
呼び出されたのは、木村先生、お美代さん、お凛さんと私で、道明様の方には田助と、実は彼の弟子だったという伝六もいる。
私の隣のお美代さんの腕の中にはあの赤ちゃんがいて、ちょっとぐずっていた。ぐずっている姿も可愛い。
「この度、当光来寺にて寺子屋を始めることとなりましたが、そちらに我が妻たっての願いで託児所なる施設を併設することにいたしました」
さすが道明様だ。今日の今日で早速私のお願いを実現まで持って行ってくれたらしい。
夫の有能っぷりに顔がにやけそうになったが、表情筋に力を入れて誤魔化した。田助と伝六の前ではきちんと住職様の妻としての貫禄を保たなければならないのだ。
「寺子屋および託児所の監督はこの田助に委ねておりまする。こちらの伝六は助役としておりますので、何かございましたらこの者らにお声をおかけくださいませ」
何のためにいるのかと思ったら、この二人は体よく責任者を押し付けられたらしい。
田助はすでに道明様の無茶ぶりに慣れてしまったのか、微動だにせず目を伏せているが、伝六は大きい体を縮こまらせていてちょっとかわいそうにも思える。
にこやかな道明様が対比で魔王に見える瞬間だ。
「お気遣い感謝いたします。では、我らをお呼びになった理由をお聞きしても?」
木村先生の穏やかな微笑みに裏がないのは知っているが、道明様と向かい合うとなんというかこう、表面上は笑顔なのに心理戦を繰り広げているようにも見えてしまう。
そんな大人たちをよそに、ぐずり終えて笑っている赤ちゃんのなんと可愛い事か。
「木村様には寺子屋を、お美代様とお凛様には託児所のお手伝いをいただきたく、お願いの為にお呼びだていたしました」
突然のご指名に、お凛さんとお美代さんは目を丸くしていた。そうだよね、普通はそういうリアクションになるよね。
「私は異論ございませぬが、お二人はどうでしょうか?」
道明様の事を知っているからか、人生経験の差か、木村先生は笑いながらこちらを見た。快諾できるという事は、もしかして予想していたのだろうか。
「お美代はお手伝いさせていただきたいです!」
覚悟を決めたような表情のお美代さんは、もう赤ちゃんに情が移ってしまっているんだというのが感じられた。
「私は・・・」
逆に、お凛さんは浮かない表情で少し俯く。
彼女の迷いは何となく分かっていた。責任感の強いお凛さんにとって、これはこの地に骨を埋めるかどうかの選択になるんだろう。
「すぐに答えよとは申しませぬ。八ツ笠へお帰りになるまでの僅かの間でも良いので、お気が向かれましたらお手伝いくださいませ」
道明様はいったいどこまで知っているんだろう?
彼はお凛さんについてはほとんど知らないはずだし、彼女の性格も知らないはずなのに、良く知っている私より明らかに的確な言葉をかけている。
顔がいいだけじゃなく、悩んでいる時に欲しい言葉をくれるなんて、あれじゃあまるでプレイボーイだ。
思わず顔がムッとしてしまう。道明様と目が合ったのですぐに「なんでもありませんよ」という顔をしたが。
その後、道明様は寺子屋と託児所の概要について教えてくれた。
基本的には道場を使うらしいが、隣接する個室二つも使わせてくれるそうで、あそこは確か三郎太と六郎の部屋だったはずだが・・・きっと追い出されたんだろうな。
寺子屋は朝から夕方までで三食付き。託児所は一日中いつでも好きな時間に使ってもいいようにするらしい。
詳細はおいおい決めていくとの事だが、利用料は取らないらしい。親からするとあちらの世界より破格の条件だった。
至れり尽くせりの寺子屋と託児所について、さすがに誰からも異論は上がらなかった。けど、話が終わりそうな雰囲気の中で道明様が「ただし」と付け加えた。
「これだけのことを行うには黒峰城城主様のご許可を取らねばなりませぬ。ご面会のお願いを差し上げておりますので、御前に上がっていただけませぬでしょうか?」
「分かりました。城へ伺うのは私と、小瑠璃殿でよろしいか?」
「はい、よろしくお願い申し上げまする」
呼び出したのはもちろん目の前のこの人。
「お忙しい折にお集まりくださり感謝申し上げます」
人畜無害な住職様の笑みを浮かべる道明様だ。
呼び出されたのは、木村先生、お美代さん、お凛さんと私で、道明様の方には田助と、実は彼の弟子だったという伝六もいる。
私の隣のお美代さんの腕の中にはあの赤ちゃんがいて、ちょっとぐずっていた。ぐずっている姿も可愛い。
「この度、当光来寺にて寺子屋を始めることとなりましたが、そちらに我が妻たっての願いで託児所なる施設を併設することにいたしました」
さすが道明様だ。今日の今日で早速私のお願いを実現まで持って行ってくれたらしい。
夫の有能っぷりに顔がにやけそうになったが、表情筋に力を入れて誤魔化した。田助と伝六の前ではきちんと住職様の妻としての貫禄を保たなければならないのだ。
「寺子屋および託児所の監督はこの田助に委ねておりまする。こちらの伝六は助役としておりますので、何かございましたらこの者らにお声をおかけくださいませ」
何のためにいるのかと思ったら、この二人は体よく責任者を押し付けられたらしい。
田助はすでに道明様の無茶ぶりに慣れてしまったのか、微動だにせず目を伏せているが、伝六は大きい体を縮こまらせていてちょっとかわいそうにも思える。
にこやかな道明様が対比で魔王に見える瞬間だ。
「お気遣い感謝いたします。では、我らをお呼びになった理由をお聞きしても?」
木村先生の穏やかな微笑みに裏がないのは知っているが、道明様と向かい合うとなんというかこう、表面上は笑顔なのに心理戦を繰り広げているようにも見えてしまう。
そんな大人たちをよそに、ぐずり終えて笑っている赤ちゃんのなんと可愛い事か。
「木村様には寺子屋を、お美代様とお凛様には託児所のお手伝いをいただきたく、お願いの為にお呼びだていたしました」
突然のご指名に、お凛さんとお美代さんは目を丸くしていた。そうだよね、普通はそういうリアクションになるよね。
「私は異論ございませぬが、お二人はどうでしょうか?」
道明様の事を知っているからか、人生経験の差か、木村先生は笑いながらこちらを見た。快諾できるという事は、もしかして予想していたのだろうか。
「お美代はお手伝いさせていただきたいです!」
覚悟を決めたような表情のお美代さんは、もう赤ちゃんに情が移ってしまっているんだというのが感じられた。
「私は・・・」
逆に、お凛さんは浮かない表情で少し俯く。
彼女の迷いは何となく分かっていた。責任感の強いお凛さんにとって、これはこの地に骨を埋めるかどうかの選択になるんだろう。
「すぐに答えよとは申しませぬ。八ツ笠へお帰りになるまでの僅かの間でも良いので、お気が向かれましたらお手伝いくださいませ」
道明様はいったいどこまで知っているんだろう?
彼はお凛さんについてはほとんど知らないはずだし、彼女の性格も知らないはずなのに、良く知っている私より明らかに的確な言葉をかけている。
顔がいいだけじゃなく、悩んでいる時に欲しい言葉をくれるなんて、あれじゃあまるでプレイボーイだ。
思わず顔がムッとしてしまう。道明様と目が合ったのですぐに「なんでもありませんよ」という顔をしたが。
その後、道明様は寺子屋と託児所の概要について教えてくれた。
基本的には道場を使うらしいが、隣接する個室二つも使わせてくれるそうで、あそこは確か三郎太と六郎の部屋だったはずだが・・・きっと追い出されたんだろうな。
寺子屋は朝から夕方までで三食付き。託児所は一日中いつでも好きな時間に使ってもいいようにするらしい。
詳細はおいおい決めていくとの事だが、利用料は取らないらしい。親からするとあちらの世界より破格の条件だった。
至れり尽くせりの寺子屋と託児所について、さすがに誰からも異論は上がらなかった。けど、話が終わりそうな雰囲気の中で道明様が「ただし」と付け加えた。
「これだけのことを行うには黒峰城城主様のご許可を取らねばなりませぬ。ご面会のお願いを差し上げておりますので、御前に上がっていただけませぬでしょうか?」
「分かりました。城へ伺うのは私と、小瑠璃殿でよろしいか?」
「はい、よろしくお願い申し上げまする」
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