小坊主日誌

藤ノ千里

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聖女の私にできること第三巻

拾玖

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 八ツ笠より小瑠璃様の侍女らが到着されると、いよいよ肩身が狭くなる。
 元より己の寺である意識は低くはあったが、それにしても女人が何人も身近におるというのは、複雑なものだ。
 が、小瑠璃様の縁者が増えれば道明様も安心されたようで、かねてより画策されていた近隣の寺への訪問を実行に移された。
 道案内は六郎様だ。源助様をも伴われたのは、不在の間にしでかさぬよう見張る為であろうか。
 一つ目の寺は、無人であったが悪い状態ではなかった。清掃し、読経を上げ、そのまま後にする。
 二つ目の寺は、物乞いの様なみすぼらしい身なりの者が住み着いておった。
 その者へ僅かであるが食料を分け与え、光来寺を頼るよう伝えたが・・・果たしてあれは聞いていたと言えるのであろうか?
 ここでも清掃と読経は行った。読経は六郎様に任せられたが、あれしきの読経しか上げられぬのであらば私の方がマシではなかろうかと、思わずにはおれなんだ。
 三つ目を目前に、日が傾いた。山道ばかりであるから致し方ないが、たどり着けなかったゆえ野宿となる。
 野宿の準備は源助様へ任せられたが、なにぶん手際が悪い。道明様にご指名いただいたゆえ、途中から私が主導し教えて差し上げる事となった。
 二日目、三日目と回った寺は朽ちていたが、四日目に訪れた寺は高齢の住職がお一人で管理されていた。
 あまり大きな寺ではなかったが、齢57の住職お一人では手が足りる訳もなく、墓の管理をしているだけでもやっとと言った体であった。
「源助」
「はい」
「三日ほどこの寺に留まり手を貸して差しあげなさい」
 指名された源助様は、嫌さを隠そうともせずに目を伏せられた。
 無駄な抵抗であろうと、重々承知しているであろうに。往生際が悪いお方だ。
「それとも、あと半月ほど冷たい部屋で過ごすか?」
「・・・この寺にてお手伝いをさせていただきます」
「任せたぞ」
 源助様は41で、まだ比較的お若い上に修行も経ている。このような場では貴重な人員となるであろうが、よもやこれを見越して連れてこられたのであろうか?
 やはり道明様の聡明さは底が知れぬな。
 道中、墓を見れば磨き清め経を上げもしたし、仮宿をお恵みいただいた村では僅かの間ではあるが説法も説かれていたゆえ、行程は思いのほか遅れていた。
 そして五日目、訪れた寺は無法者らの根城と化していた。
 光来寺に次ぐほどの規模の寺であって、十年も前は交流があったというその寺は、見るからに荒れ果て、取り払われた戸板の向こうでは今まさに浪人と思しき者らが私闘を始めんとしていた。
 それも、引き倒された仏像に腰掛けながら、だ。
 あまりの光景に道明様のお顔にも苦い笑みが浮かぶ。
 私も道明様同様形ばかりの僧ではあるが、これほどまで御仏がぞんざいに扱われておると、さすがに笑みは浮かべておれなんだ。
 僅かに呆けてしまい、踵を返される道明様の後を慌てて追いかけた。
「いかがしましょう?」
「今はまだ、何も。く光来寺へ戻るぞ」
「承知いたしました」
 私にも遅れて六郎様が駆けて来られる。物憂げな眼差しで口を引き結ばれる道明様は、お歳を召された六郎様が息を切らすのにも気づかぬご様子で、ひたすらに光来寺への道のりを歩いて行かれた。


 光来寺へと戻ると、しばしのお休みを頂ける事となった。
 当然のように道明様はお休み等取られぬゆえ、私もゆるりと休んでなどおれぬ。結果、一松のやつに付きまとってやったわ。
「鬱陶しいわ。阿呆が」
「致し方なかろう。部屋におっても隣室に小瑠璃様がいらっしゃればおちおち寝てもおれぬゆえ」
「であらば仕事をせい」
「私はお休みをいただいているのだ。道明様からな」
 一松は専ら寺内の見回りと、情報収集。怪しい動きをする者らへの接近であったりと、表沙汰にできぬ仕事が多い。
 今しがたも、年嵩の僧らより漏れる道明様への不満の声を、半ば賛同しながら聞き出していたところであった。
 私は当然とそちらへ顔は出さぬ。役割の分担は何よりも大切なのだから。
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