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第三話 私にしかできないこと
第二十六話 生まれる希望
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とは言えども、玄信先生はお産への知識は薄いと見える。
「陣痛の間隔ってどのくらいですか?」
「間隔?」
「痛みが収まって次に痛むまでの間隔が一分程度になったら生まれる合図なんです」
言いつつ、先生の隣に膝を着いたけど・・・こんな呼吸じゃ体力を使い過ぎだ。
「玄信先生、腰を強めにさすってあげてください!」
「承知した」
移動した玄信先生に変わって、女性の顔の前に行き、顔を覗き込む。
そして、安心させるためにニッコリと優しく微笑んだ。
「大丈夫。今、赤ちゃんも一緒に頑張ってますからね。赤ちゃんが苦しくならないようにゆっくり息を吐きましょうか」
汗で張り付いた髪の毛をかき分けながら、頬に手を当てる。
すると、潤んだ目と、視線が合った。
あれ?この子ちょっと私に似てるかも・・・?
いや、今はそんな事どうでもいいんだ。
「息を吐く時はできるだけ長くなるようにふぅー、ですよ。ほら、ふぅー・・・」
素直に従って息を吐いてくれる女性の手を握る。
玄信先生は腰をさすってくれているし、息を吐いたことで体の力は抜けてそうだ。
「あ、痛っ!!」
「息を吐いて!ゆっくり、そう、上手」
また陣痛がきたようで、手に力が入る。
でも少しずつ弱くなっていって、ちゃんといきみを逃す事ができてそうだ。
「上手ですよ。そうやって息を吐いていれば赤ちゃんも元気に生まれてきますからね」
長い息を吐きながら、女性はこくりと頷いてくれた。
素直だし、飲み込みも早い。
それにやっぱり、少しだけど面立ちが私に似てる。って事は、この子が以前吉家様が言っていた子か。
そうしている内に、陣痛の波も収まったようで、女性はぐったりとしていて。
「玄信先生、秒数を数えておいてください」
なんて言ったけど、玄信先生はもう数え始めてくれているようで、無言で頷いてくれた。
それから女性、いや、純さんのお産は順調に進んだ。
いきみも上手に逃がせたおかげで体力も温存できたようで、陣痛の合間に水分も取れていた。
陣痛の感覚も一分程度が続いていて、先ほど破水もした。
そんなそろそろだろうというタイミングで、産婆さんが「仰向けになりな」と言い、純さんはゆっくりだけど従って。
「次痛みが来たらお腹に力を入れるんだよ」
「・・・はい」
小さな声で、だけどしっかりと産婆さんに返事をする純さんは、格好良かった。
そして、彼女の額の汗を拭うと、すぐに次の陣痛の波が訪れたのだ。
「うっ!!!」
「お腹の方を見て!しっかり力を入れて!」
歯を食いしばりながら、体全部の力を集中させていきむ姿は『生きる事』そのもののようで。
産んだことはあっても、他人のお産に立ち会うのは初めてだったから、圧倒されそうになるくらいだった。
「ぅ、あ・・・はぁはぁはぁ」
「進んでるよ!少し頭見えてるからね!」
満身創痍の純さんの、額の汗を再度ぬぐう。
握った手には彼女の爪がくい込んでいたけど、こんな痛み彼女の大変さに比べればかすり傷みたいなもんだ。
「もうひと頑張りで赤ちゃんに会えますね」
「は、い・・・うぅ!」
「ほらしっかり!もう出てくるよ!」
「うっ!!」
「そこまで!もう力を抜いていいよ!」
ゆっくりと現れた黒い髪。続いてまだ色の白い肌。
ちょっとずつ回転しながら、もどかしいくらいゆっくりと出てきて、それを産婆さんが受け止めた。
健康的な大きさの赤ちゃんだった。
男の子だった。
産婆さんが産湯に浸からせて布で拭いて綺麗にしていくのを、既視感と共に眺めていた。
すぐには泣かない赤ちゃん。でも、産婆さんがお尻を叩くと小さく「ふぇぇ」とだけ泣いた。
泣いて、黙ってしまう。
チアノーゼが出ているのに。
「この子は・・・」
産婆さんの顔が苦々しげになり、諦めの色が浮かぶ。
その手から、無意識に赤ちゃんをひったくっていた。
「ちょっと・・・!」
抱き寄せた赤ちゃんは、全然赤くなくて。
息が絶え絶えと言った感じで、明らかに危険な状態で。
その姿を見て、一瞬で色んな思いが頭を駆け巡った。
ゆあが生まれた時に、看護師さんが驚くほど泣いていた優翔君の姿。
ゆあが新生児の頃、私よりも早く泣いたのに気付いたり、おむつが汚れたのに気付いて、幸せそうにお世話をしていた優翔君の姿。
「澄恋がいないと駄目だ」なんて言ってたくせに、私が単身出張の時だってゆあといつも通りに過ごせていた優翔君の姿。
子どもは、未来で、希望で、生きる意味で。
だから、私が死んだ後だってゆあがいれば優翔君はきっと立ち直れると思った。
吉家様に、私は何もあげられない。けど、聖女としてこの子は、この子だけは助けてあげたい。
あの人を親にしてあげたいの・・・!
「お願い・・・」
赤ちゃんを抱く腕全体に、意識を集中させる。
手のひらから生まれてきた熱で、赤ちゃんを包み込むように。しっかりとだけど痛くないように抱きしめる。
「お願い、生きて・・・」
私の体に流れる不思議な力を、全てこの子にあげても良いと思った。
それくらい強く強く、念じた。
「陣痛の間隔ってどのくらいですか?」
「間隔?」
「痛みが収まって次に痛むまでの間隔が一分程度になったら生まれる合図なんです」
言いつつ、先生の隣に膝を着いたけど・・・こんな呼吸じゃ体力を使い過ぎだ。
「玄信先生、腰を強めにさすってあげてください!」
「承知した」
移動した玄信先生に変わって、女性の顔の前に行き、顔を覗き込む。
そして、安心させるためにニッコリと優しく微笑んだ。
「大丈夫。今、赤ちゃんも一緒に頑張ってますからね。赤ちゃんが苦しくならないようにゆっくり息を吐きましょうか」
汗で張り付いた髪の毛をかき分けながら、頬に手を当てる。
すると、潤んだ目と、視線が合った。
あれ?この子ちょっと私に似てるかも・・・?
いや、今はそんな事どうでもいいんだ。
「息を吐く時はできるだけ長くなるようにふぅー、ですよ。ほら、ふぅー・・・」
素直に従って息を吐いてくれる女性の手を握る。
玄信先生は腰をさすってくれているし、息を吐いたことで体の力は抜けてそうだ。
「あ、痛っ!!」
「息を吐いて!ゆっくり、そう、上手」
また陣痛がきたようで、手に力が入る。
でも少しずつ弱くなっていって、ちゃんといきみを逃す事ができてそうだ。
「上手ですよ。そうやって息を吐いていれば赤ちゃんも元気に生まれてきますからね」
長い息を吐きながら、女性はこくりと頷いてくれた。
素直だし、飲み込みも早い。
それにやっぱり、少しだけど面立ちが私に似てる。って事は、この子が以前吉家様が言っていた子か。
そうしている内に、陣痛の波も収まったようで、女性はぐったりとしていて。
「玄信先生、秒数を数えておいてください」
なんて言ったけど、玄信先生はもう数え始めてくれているようで、無言で頷いてくれた。
それから女性、いや、純さんのお産は順調に進んだ。
いきみも上手に逃がせたおかげで体力も温存できたようで、陣痛の合間に水分も取れていた。
陣痛の感覚も一分程度が続いていて、先ほど破水もした。
そんなそろそろだろうというタイミングで、産婆さんが「仰向けになりな」と言い、純さんはゆっくりだけど従って。
「次痛みが来たらお腹に力を入れるんだよ」
「・・・はい」
小さな声で、だけどしっかりと産婆さんに返事をする純さんは、格好良かった。
そして、彼女の額の汗を拭うと、すぐに次の陣痛の波が訪れたのだ。
「うっ!!!」
「お腹の方を見て!しっかり力を入れて!」
歯を食いしばりながら、体全部の力を集中させていきむ姿は『生きる事』そのもののようで。
産んだことはあっても、他人のお産に立ち会うのは初めてだったから、圧倒されそうになるくらいだった。
「ぅ、あ・・・はぁはぁはぁ」
「進んでるよ!少し頭見えてるからね!」
満身創痍の純さんの、額の汗を再度ぬぐう。
握った手には彼女の爪がくい込んでいたけど、こんな痛み彼女の大変さに比べればかすり傷みたいなもんだ。
「もうひと頑張りで赤ちゃんに会えますね」
「は、い・・・うぅ!」
「ほらしっかり!もう出てくるよ!」
「うっ!!」
「そこまで!もう力を抜いていいよ!」
ゆっくりと現れた黒い髪。続いてまだ色の白い肌。
ちょっとずつ回転しながら、もどかしいくらいゆっくりと出てきて、それを産婆さんが受け止めた。
健康的な大きさの赤ちゃんだった。
男の子だった。
産婆さんが産湯に浸からせて布で拭いて綺麗にしていくのを、既視感と共に眺めていた。
すぐには泣かない赤ちゃん。でも、産婆さんがお尻を叩くと小さく「ふぇぇ」とだけ泣いた。
泣いて、黙ってしまう。
チアノーゼが出ているのに。
「この子は・・・」
産婆さんの顔が苦々しげになり、諦めの色が浮かぶ。
その手から、無意識に赤ちゃんをひったくっていた。
「ちょっと・・・!」
抱き寄せた赤ちゃんは、全然赤くなくて。
息が絶え絶えと言った感じで、明らかに危険な状態で。
その姿を見て、一瞬で色んな思いが頭を駆け巡った。
ゆあが生まれた時に、看護師さんが驚くほど泣いていた優翔君の姿。
ゆあが新生児の頃、私よりも早く泣いたのに気付いたり、おむつが汚れたのに気付いて、幸せそうにお世話をしていた優翔君の姿。
「澄恋がいないと駄目だ」なんて言ってたくせに、私が単身出張の時だってゆあといつも通りに過ごせていた優翔君の姿。
子どもは、未来で、希望で、生きる意味で。
だから、私が死んだ後だってゆあがいれば優翔君はきっと立ち直れると思った。
吉家様に、私は何もあげられない。けど、聖女としてこの子は、この子だけは助けてあげたい。
あの人を親にしてあげたいの・・・!
「お願い・・・」
赤ちゃんを抱く腕全体に、意識を集中させる。
手のひらから生まれてきた熱で、赤ちゃんを包み込むように。しっかりとだけど痛くないように抱きしめる。
「お願い、生きて・・・」
私の体に流れる不思議な力を、全てこの子にあげても良いと思った。
それくらい強く強く、念じた。
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