聖女の私にできること第五巻

藤ノ千里

文字の大きさ
27 / 62
第三話 私にしかできないこと

第二十六話 生まれる希望

しおりを挟む
 とは言えども、玄信先生はお産への知識は薄いと見える。
「陣痛の間隔ってどのくらいですか?」
「間隔?」
「痛みが収まって次に痛むまでの間隔が一分程度になったら生まれる合図なんです」
 言いつつ、先生の隣に膝を着いたけど・・・こんな呼吸じゃ体力を使い過ぎだ。
「玄信先生、腰を強めにさすってあげてください!」
「承知した」
 移動した玄信先生に変わって、女性の顔の前に行き、顔を覗き込む。
 そして、安心させるためにニッコリと優しく微笑んだ。
「大丈夫。今、赤ちゃんも一緒に頑張ってますからね。赤ちゃんが苦しくならないようにゆっくり息を吐きましょうか」
 汗で張り付いた髪の毛をかき分けながら、頬に手を当てる。
 すると、潤んだ目と、視線が合った。
 あれ?この子ちょっと私に似てるかも・・・?
 いや、今はそんな事どうでもいいんだ。
「息を吐く時はできるだけ長くなるようにふぅー、ですよ。ほら、ふぅー・・・」
 素直に従って息を吐いてくれる女性の手を握る。
 玄信先生は腰をさすってくれているし、息を吐いたことで体の力は抜けてそうだ。
「あ、痛っ!!」
「息を吐いて!ゆっくり、そう、上手」
 また陣痛がきたようで、手に力が入る。
 でも少しずつ弱くなっていって、ちゃんといきみを逃す事ができてそうだ。
「上手ですよ。そうやって息を吐いていれば赤ちゃんも元気に生まれてきますからね」
 長い息を吐きながら、女性はこくりと頷いてくれた。
 素直だし、飲み込みも早い。
 それにやっぱり、少しだけど面立ちが私に似てる。って事は、この子が以前吉家様が言っていた子か。
 そうしている内に、陣痛の波も収まったようで、女性はぐったりとしていて。
「玄信先生、秒数を数えておいてください」
 なんて言ったけど、玄信先生はもう数え始めてくれているようで、無言で頷いてくれた。


 それから女性、いや、スミさんのお産は順調に進んだ。
 いきみも上手に逃がせたおかげで体力も温存できたようで、陣痛の合間に水分も取れていた。
 陣痛の感覚も一分程度が続いていて、先ほど破水もした。
 そんなそろそろだろうというタイミングで、産婆さんが「仰向けになりな」と言い、純さんはゆっくりだけど従って。
「次痛みが来たらお腹に力を入れるんだよ」
「・・・はい」
 小さな声で、だけどしっかりと産婆さんに返事をする純さんは、格好良かった。
 そして、彼女の額の汗を拭うと、すぐに次の陣痛の波が訪れたのだ。
「うっ!!!」
「お腹の方を見て!しっかり力を入れて!」
 歯を食いしばりながら、体全部の力を集中させていきむ姿は『生きる事』そのもののようで。
 産んだことはあっても、他人のお産に立ち会うのは初めてだったから、圧倒されそうになるくらいだった。
「ぅ、あ・・・はぁはぁはぁ」
「進んでるよ!少し頭見えてるからね!」
 満身創痍の純さんの、額の汗を再度ぬぐう。
 握った手には彼女の爪がくい込んでいたけど、こんな痛み彼女の大変さに比べればかすり傷みたいなもんだ。
「もうひと頑張りで赤ちゃんに会えますね」
「は、い・・・うぅ!」
「ほらしっかり!もう出てくるよ!」
「うっ!!」
「そこまで!もう力を抜いていいよ!」
 ゆっくりと現れた黒い髪。続いてまだ色の白い肌。
 ちょっとずつ回転しながら、もどかしいくらいゆっくりと出てきて、それを産婆さんが受け止めた。
 健康的な大きさの赤ちゃんだった。
 男の子だった。
 産婆さんが産湯に浸からせて布で拭いて綺麗にしていくのを、既視感と共に眺めていた。
 すぐには泣かない赤ちゃん。でも、産婆さんがお尻を叩くと小さく「ふぇぇ」とだけ泣いた。
 泣いて、黙ってしまう。
 チアノーゼが出ているのに。
「この子は・・・」
 産婆さんの顔が苦々しげになり、諦めの色が浮かぶ。
 その手から、無意識に赤ちゃんをひったくっていた。
「ちょっと・・・!」
 抱き寄せた赤ちゃんは、全然赤くなくて。
 息が絶え絶えと言った感じで、明らかに危険な状態で。
 その姿を見て、一瞬で色んな思いが頭を駆け巡った。
 ゆあが生まれた時に、看護師さんが驚くほど泣いていた優翔君の姿。
 ゆあが新生児の頃、私よりも早く泣いたのに気付いたり、おむつが汚れたのに気付いて、幸せそうにお世話をしていた優翔君の姿。
 「澄恋がいないと駄目だ」なんて言ってたくせに、私が単身出張の時だってゆあといつも通りに過ごせていた優翔君の姿。
 子どもは、未来で、希望で、生きる意味で。
 だから、私が死んだ後だってゆあがいれば優翔君はきっと立ち直れると思った。
 吉家様に、私は何もあげられない。けど、聖女としてこの子は、この子だけは助けてあげたい。
 あの人を親にしてあげたいの・・・!
「お願い・・・」
 赤ちゃんを抱く腕全体に、意識を集中させる。
 手のひらから生まれてきた熱で、赤ちゃんを包み込むように。しっかりとだけど痛くないように抱きしめる。
「お願い、生きて・・・」
 私の体に流れる不思議な力を、全てこの子にあげても良いと思った。
 それくらい強く強く、念じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り

楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。 たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。 婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。 しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。 なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。 せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。 「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」 「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」 かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。 執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?! 見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。 *全16話+番外編の予定です *あまあです(ざまあはありません) *2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

殿下、私の身体だけが目当てなんですね!

石河 翠
恋愛
「片付け」の加護を持つ聖女アンネマリーは、出来損ないの聖女として蔑まれつつ、毎日楽しく過ごしている。「治癒」「結界」「武運」など、利益の大きい加護持ちの聖女たちに辛く当たられたところで、一切気にしていない。 それどころか彼女は毎日嬉々として、王太子にファンサを求める始末。王太子にポンコツ扱いされても、王太子と会話を交わせるだけでアンネマリーは満足なのだ。そんなある日、お城でアンネマリー以外の聖女たちが決闘騒ぎを引き起こして……。 ちゃらんぽらんで何も考えていないように見えて、実は意外と真面目なヒロインと、おバカな言動と行動に頭を痛めているはずなのに、どうしてもヒロインから目を離すことができないヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID29505542)をお借りしております。

処理中です...