聖女の私にできること第五巻

藤ノ千里

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第三話 私にしかできないこと

第二十八話 下心込みのお礼

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「私が直々に選んだものは嫌でも持たせる」
「嫌でもって・・・」
 これって、甘えてるのか。
 最後だから、こんなに甘えてくれるのか。
「支度は克信が手配しておる。明日、発つが良い」
 言いながらそっぽを向いて、そんな姿が可愛くて。
 だって、旅の用意なんてすぐにできるものではないのだ。
 という事は、ずっと私を引き留めておきながら、ちゃんと用意を進めてくださっていたのだ。
 素直になれないところが可愛いなんて、変だろうか?
 でも私にはグッときちゃうんだ。厄介な事に。
「船を用意してくれたんですか?」
「商船への乗り合わせじゃ。内密に送らねば騒ぎになるやもしれぬ故」
「お礼を、してもいいですか?」
「礼?」
 いじけ顔のまま、吉家様がこちらを向いた。
 腰を浮かし膝立ちになると、彼を少し見下ろす高さになる。
 あえてそんな不敬な体制で、彼の両頬に手を添えた。
「いいですか?」
 見上げてくる目は驚いていた。
 けれど徐々に喜びの、いや欲情の色に染まっていく。
 色仕掛けってこんな感じなのかと思いながら、こちらもドキドキしてきてしまって。
 やっぱり、道明様みたいにはなれそうにないなぁ。
「どこまでじゃ?」
「どこまででしょう?」
「押し倒しても良いのか?」
「駄目です。吉家様は動いちゃ駄目です」
「駄目か?」
「駄目です」
 ゆっくりと顔を近づけると、吉家様は目を閉じた。
 目を閉じると尚更優翔君に似ていて、眼鏡をかけていないからそういう事をする時みたいで。
 ちょっとだけ、ムラッとしちゃう。
 私が澄恋で彼が優翔君なら押し倒していたかも。
 触れるように、おでこ同士を合わせて、鼻をくっつけて。
 撫でるように唇を、彼の唇に合わせて、重ねた。
 少しカサつく厚めの唇。懐かしくて愛おしい、彼の温もり。
 しっかりとその感触を確かめてから、唇を離した。
 離したのに。
「ぇ・・・っ!」
 離れた唇がまた重なっていた。
 頭の後ろに回された吉家様の手に押さえつけられて、強引にキスされていた。
 動いちゃ駄目って言ったのに、しかも吉家様は舌を入れてきて・・・!
「ん、んんっ!」
 手馴れたようにディープキスしてきた上に、腰も引き寄せられたせいで彼に覆い被さるように倒れ込んで。
 まるで私が押し倒してるみたいな体制で、なおも彼は私の唇を貪った。
 キスが、気持ち良かった。
 優翔君よりも乱暴だけど、経験値が違うのかもの凄く上手くて。
 頭を抑える手がいつの間にか無くなっていた事も気づかなくて、しばらくキスをしていたと思う。
 苦しくなって口を離した時、「やらかしてしまった」と思いつつすぐには動けなかった。
 彼にもっと触れていたいと思った。
 服が邪魔だとも思った。
 でも彼が、吉家様が腕をどかしてくれたから。
 彼の上から下りて、口元を拭って。
 馬鹿な事を思ってしまったと反省しつつ、一応胸元を引き寄せた。
 吉家様の事だから、からかわれるかもなんて思ってもいたんだけど、何故か彼は起き上がる様子がなくて。
 ドキドキが収まってきた頃に大きなため息が聞こえてきたから、平気な顔を作ってから振り返った。
 彼は、大の字に寝転んでいて、そして眉を顰めながらも嬉しそうなかつ悔しそうな顔をしていた。
 そして、こう呟いたのだ。
「これしきで果ててしまうとはな・・・」


 翌日。朝ご飯の直後に克信様がいらっしゃって、昼に船が出る事やら、霧巻に着いた後の事も船長に言いつけてあるという事やら、荷物はあーだこーだということを説明してくださった。
 そして最後に手渡されたのは、金色の繊細な細工の簪だった。
 ひな祭りの時の桃の花のように見えるけど、金色だけでシンプルに作られているから、違う花にも見える。
 手に取るとユラユラ揺れて、胸元に刺しても映えそうだ。
「この意匠が上様が認めた聖女である証。消して手放すことはないようにせい」
「はい」
 ただ、目立ちすぎる気もするのでとりあえず箱にしまっておくことにしよう。
 しまった箱は・・・手元に置いとくしかないか。
「思い残した事がなければ港へ案内させるが、どうじゃ?」
「あ、ひとつ聞きたいことがあります」
 思わず挙手してしまい、慌てて手を引っ込めた。
 吉家様と違って克信様は品位とかに厳しそうだから、真面目にしないと。
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