聖女の私にできること第五巻

藤ノ千里

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第五章 招福寺にて

第三十六話 きょうだいの時間

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「あの・・・晴兄ってもう聖雅院に行かないんですよね?」
「そうだね。よっぽどの事がない限りは行かないはずだよ」
「じゃあ招福寺にいてくれる?」
「うーん・・・どうだろう」
 本当は、晴彦は光来寺に来るのが決まっていたし、招福寺に留まってるのだって雲善と話をするためだった。
 でも聞く限り、晴彦って弟妹きょうだいにたまにしか会いに来てないようで、しかもそれも道明様のお使いだからって理由で、その上すぐに帰っちゃうらしくて。
 「晴兄」なんて言われて慕ってくれる下の子に対してドライすぎる気もしていたから、お節介を焼きたい気持ちが顔を出して来たのだ。
「私と冬兄ふゆにい、もうすぐ招福寺を出るんです」
「招福寺を出る?」
「冬兄、お坊さんにならないって言ったら、和尚様が『なら八ツ笠に行きなさい』って言ってて」
「それだと会えなくなるかもしれないって事?」
「そうなんです」
 何という事だ、仲良しの兄弟が生き別れになってしまうかもしれないなんて。
 招福寺の和尚さんって良い人みたいだから、変な所に連れて行かれるわけじゃなさそうだし、お坊さんにならないならお寺を出ないといけないのも分からなくはない。
 けどこのまま小夏ちゃんと冬馬君が八ツ笠に行ってしまったら、気の利かない晴彦はそれこそ年単位で会いに行かない可能性が出て来る。
 それは駄目だ。
 晴彦は若いから知らないんだろうけど、会えなくなってから後悔しても遅いのだ。
 だからやっぱりお節介を焼こう。
 可愛い義理の弟子の為に、強引に弟妹きょうだいとの時間を作ってあげよう。
「じゃあ私が何とかしてあげるね」
「あ、ありがとうございます!」
 最近、晴彦が実は腹黒だって気づき始めてしまっているから、小夏ちゃんのストレートな笑顔が眩しい。
 彼もこんな風に素直な時期もあっただろうに。近くにいる大人が極悪人なせいで染まってしまったんだろうな・・・。
 まぁあの聖雅院で生き抜くためには仕方なかったんだと、思っておくことにするか。


 晩ご飯も目前だというのに、雲善は帰って行ってしまったらしい。
 愛想の欠片もない子だ。玄さんの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらい。
「聖雅院の方、大丈夫そうでした?」
「あぁ、徳栄様が良きように取り計らってくださるとの事だ」
「道明様の私財も?」
「そうだな」
 憑き物が落ちたからか、笑顔が明るい道明様。
 ああやって笑っていると、手にしているお茶碗もワンランク上の物に見えるし、口に運ぶ野菜も厳選されたものに見える。
 釣られて私のご飯も美味しく感じられるから不思議だ。
「あ、そうだ、晴彦の事なんですけど」
 言いつつほうれん草を飲み込む。
 招福寺のご飯は質素ではあるけど具材の種類が豊富だから旅館みたいだ。
「晴彦って、ここを出た後一緒に光来寺に行くんですよね?」
「あれは私たちとは別に、先行して帰らせるつもりだ」
「まっすぐに?」
「あぁ」
「八ツ笠に寄り道させる事ってできません?」
何故なにゆえだ?」
 やっぱり道明様はご存知なかったようで、冬馬君と小夏ちゃんの事を話してあげた。
 でも苦笑してたから、晴彦の不精さは知ってたんだろうな。
「なので、冬馬君と小夏ちゃんを八ツ笠に送り届ける役を晴彦に任せたいなーって思って」
「それは良いな」
「でしょ!」
 という事で急遽決まった晴彦の弟妹きょうだいとの時間作っちゃうぞ作戦。
 上手くいくかは道明様の口先次第!


 翌日。朝のお務めを終えた晴彦を、道明様に連れて来てもらった。
 呼び出した先は道場。
 晴彦を待ち受けていたのは私と智久さんと冬馬君と小夏ちゃん。
「これは・・・?」
「座りなさい」
 道明様に促されると大人しく座る晴彦。
 道明様はその真正面にゆっくりと腰を下ろした。
「晴彦、お主弟妹ていまいに不義理をしておると聞いたぞ」
 突然の展開に驚いたのか、晴彦はサッと素早く辺りを見渡した。
 けど流石に道明様の一番弟子。顔色はあまり変えずに口を開く。
「忙しさに顔を出せずにいた事は申し訳なく思うておりますが、御仏に仕える身。まめに会いに来る事は難しゅうございまする」
「では弟妹ていまいの為の苦労は厭わぬな?」
「当然にございます」
「冬馬、小夏、良かったな。晴彦はお主らと共に来てくれそうだぞ」
「わーい!」
「やったぁ」
 無邪気に喜び出す弟と妹を見ながら、晴彦は「やらかしたかな?」という顔をしていた。
 道明様はちょっといたずらに笑っていた。可愛かった。
「お主の弟妹ていまいは八ツ笠に移るそうだ。兄としてしかと送り届けてやれ」
「失礼ながら道明様。私にはあなた様の身の回りのお手伝いがございますれば」
「私であらば心配無用。己の事は己で如何様にもできる」
 お小姓さんとしての仕事を拒否られて、少し驚き顔になる晴彦。
 でも面の皮が厚いのか、またすぐにいつも通りのよそ行きのニコリに戻った。
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