聖女の私にできること第五巻

藤ノ千里

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第七章 愛するという事

第五十二話 黒峰城への登城

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 翌朝。朝食を食べ終えた私は、お美代さんの手によって完璧な聖女の姿となり、そのまま黒峰城へ向かう。
 と思ったら、道明様はまず本堂の裏に向かった。
 本堂裏の畑で水を撒いていたお里さんは、普段よりしっかりとした正装の道明様を見て表情を硬くした。
「朝早くからご苦労様にございます。お忙しい中で恐縮ではございますが、少々お話をさせていただけませぬでしょうか?」
「そういうまどろっこしいのはいいよ。どうせあれだろ、お春の事だろ?」
「左様にございます」
 お春ちゃんは向こう側で水を撒いているから、こちらの会話は聞こえないようだった。
 それをチラリと確認してから、お里さんはハァとため息をついた。
「話すのは構わないよ。とっくに知られてるはずだしね」
「どこまででしたらお許しいただけますでしょうか?」
「任せる。でもあの子の事を勝手に決めるのは止めとくれ」
「心得てございまする」
 どうせ詳細は教えてもらえないだろうからと聞き流していたけど、これってすごく大事な話だったらしい。
 尤も、それが分かるのは、この後のゴタゴタのさ中で、になるんだけどね。


 改めて光来寺を出発して、道明様と一緒に黒峰城へ向かった。
 後ろを付いて来てくれるのは当然ながら晴彦と智久さん。
 でも黒峰城に到着すると、この二人は当然のように控え室に留め置かれて、城主様にお目通りが叶ったのは道明様と私だけ。
 今まではなかった対応だった。だから心の中で少しだけ警戒していた。
 通されたのはいつもと同じ応接間だったけど、頭を下げずに待つ私の前に現れたのは城主様だけじゃなかった。
 城主様より年上のちょんまげのおじさん三人が、城主様に続いて現れて、そして廊下側に並んで座った。
 座り位置から考えて、おそらく城主様の家臣だ。それにあの偉そうな態度、そこそこの重鎮だろう。
 三人とも明らかに怪訝そうな顔をしてるのは、頭を下げてない不届き者がいるからか、それとも私が女だからか。
 それに、城主様も少し困り顔で、呼び出しておいて全く歓迎されていないのがひしひしと伝わってきた。
「長旅ご苦労」
「もったいなきお言葉にございまする」
 ちなみに道明様は私の隣でちゃんと恭しく頭を下げている。
 お坊様って身分は低いらしい。俗世を捨てているからとか何とかの理由で。
「して、上様にはお目通り叶えたのか?」
「はい。小瑠璃は江戸においても聖女としてその使命を果たし、上様より直々に聖女としてお認めいただきましてございまする」
「大奥へと上がるため江戸へ向かったのではなかったのか?」
 またまたちなみに、城主様へは「江戸城に用事があるから行ってきます」としか言ってない。
 「ついにか!」とのご期待を否定はしなかったけど、「大奥」なんて単語私たちからは一言も申し上げてない。
「小瑠璃は聖女にございまする。聖女としての務めを果たすべく江戸城へ赴いたのでございます」
「私を謀ったのか」
「断じてそのような事はございませぬ。小瑠璃が上様よりご寵愛をいただいている事は、賜りましたこの簪をご覧になれば明白にございましょう」
 吉家様から「持って帰れ」と言われた簪。泊をつけるために三つともつけてきたけど、やっぱり「聖女の証」だと言う金ピカは断トツで目立っていた。
 しっかり目のお化粧がナチュラルメイクに見えちゃうくらいに、目立っていた。
「それを、上様が?」
「はい。聖女としてお認めになる証であると、直々に賜りましてございまする」
「そう、か・・・」
 この金ピカ、目立って嫌だなぁと思ってたけど、こういう場では目立つのが正解のようだ。
 開幕から敵意さえ感じていた城主様が、私の頭を見るなり目に見えて嬉しそうになった。
 やっぱりこの人扱い易い。
 けど、そんな風に油断できたのも一瞬だけ。
「殿、お待ちください」
 なんて、茶々を入れて来たのは、重鎮三人組のうち、一番上手かみてに座るおじちゃんだったのだ。
「その者らの話、誠にございましょうか?」
「どういう事じゃ?」
「その娘が誠江戸城へ登城が叶ったかなど、確かめようがございますまい。高価な簪をこれみよがしに見せびらかしてはおりますが、それを根拠に『聖女として認められた』というのは些か信に足りませぬ」
 おじちゃんの難癖は確かに的を射てはいた。
 後から送ってくださると言われた文も、追加の贈り物とやらもまだ届いていなくて、彼らから私の証言の真偽を確かめる術は今のところない。
 権力者の存在をチラつかせればすぐに信じて下さる城主様と違って、家臣は慎重派らしい。
 慎重過ぎな気も、しなくもないけど。
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