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2.勇者としての素質
(13)ゴブリンの巣
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地図を見ながら「ゴブリンなら・・・巣はここだろうな」とコーダンが当たりを付けた場所へ、向かう。
知能が高いので斥候がいる可能性は分かっていた。
だから、迷路のような下水道の分岐の影からヤツらが飛びかかって来たのも、想定内だった。
ディーナンにはラーニカを任せていたし、背後からのやつはコーダンが仕留めるだろう。
私は、左手から出てきた一匹を始末する為に、剣を振る。
その時、ゴブリンの姿を、初めて、間近で見た。
人型で、子どもサイズで、だから趣味の悪いお面を被った人間の子どもに見えた。見えてしまった。
剣が、ゴブリンの首に届く前にピタリと止まる。
迷ったのは一瞬だった。
けれど次の瞬間には、私の横から伸びた細身の剣が、ゴブリンの頭を貫いていた。
絶命したゴブリンから引き抜かれる剣の先には、いつも通り軽薄な笑みを浮かべるディーナンがいて・・・。
「迷うとやられるよ」
私の心を見透かすように言うと、剣を収める。
不快な音を立てて床に落ちたゴブリンだったものは、よく見ると全く人間になんて似ていなかった。
「魔獣を殺すのは初めてか?」
とっくに剣を収めたコーダンは、慰めるように頭をワシワシと撫でてくれた。
「獣型のは、仕留めたことあったんだけどね」
獣型の魔獣は動物とほとんど変わらない。でも人型の魔獣は、実物を見るのすら初めてだったのだ。
冒険する上で、生き物の命を奪う覚悟は出来てたつもりだったのに、形が人間に近いだけでこんなに気持ちが揺れるなんて・・・。
でも、どんなに人間に近い形をしていても、所詮は魔獣。
それに、仕留めなければ街の人間に被害が及ぶのだ。
腹をくくれリーミア、いや、リーアン。お前は勇者になるんだろう?ゴブリンの一匹や二匹仕留められないでどうする。
冒険者じゃなくたって、冒険を続けるのであればこれは避けては通れない道なのだ。
「止めにするか?」
ふーと大きく息を吐いた。
そして、グッとお腹に力を入れて覚悟を決め直した。
「いや、行く。僕は勇者になりたいから」
そこから10分も歩くと、目的地にたどり着く。
大きな下水管の合流地点。メンテナンスのためにちょっとした広場になっていて、明かりもある。
ゴブリンの巣にするにはうってつけの場所に、当然のようにやつらはいた。
明らかに他の個体よりでかいのが1匹。杖を持っていて魔力を感じるのが1匹。あとは雑魚だろうが12匹。
そして、女の人が3人。ボロボロの服を着て木の檻に閉じ込められていた。
服を着ていても全身に怪我をしているのが分かる。狩りの練習ってやつなんだろう、少し古い傷から真新しい傷まで、致命傷にならないようにいたぶられたのが分かる。
教えてもらっていたとは言え、実際に痛々しい人質の姿を目にするとしり込みしてしまいそうになる。
「やっぱ止めとく?」
見計らったように声をかけてくるディーナンは、さっきから私の心でも見透かしているんだろうか?
覗いていた頭を引っ込めてディーナンを見ると、相変わらずの軽薄な笑みを浮かべながら立っていた。彼なりの激励だったということだろう。お礼は言わないけど。
「でかいのがゴブリンリーダーで、杖持ちがゴブリンマージだ。あの2匹は直接叩かないと駄目だろうな」
コーダンの経験則からくる意見は凄く頼りになる。当初の予定ではラーニカの炎魔法さえあればいいかと思っていたけど、そう甘くはいかないらしい。
「僕とコーダンで突っ込む。僕はマージを仕留めるから、コーダンはリーダーをお願い。ラーニカは僕たちが飛び出た瞬間になるべく強い炎魔法を爆発させて」
次は、必ず仕留める。炎魔法に紛れて近づけば難なく倒せるだろう。
「俺は?」
「ラーニカに反転魔法をかけるのと、何かあった時のために守ってあげて」
ディーナンは実力が未知数なのもあるが、多彩な魔法を使えるはずだから余力として残しておきたかった。
もし私が失敗しても、ディーナンとコーダンさえいればどうにかなる。とも思っていた。
「人質はどうする」
「人質3人と僕とコーダンの分までなら僕が反転魔法をかけられる」
「5つも同時に?」
「うん」
動きながら魔法を使うのは難しい。魔法の複数同時使用も難しい。動きながら5つ同時使用なんて、ラーニカみたいな正統派魔法使いは考えもしなかった事だろう。
正直、私もギリギリだ。けど、練習では上手くいっていた。
できるはず、だった。
「ダメ」
茶々を入れてきたディーナンは、珍しく真剣な顔で目を細めた。
「何で?」
「それだとマージが別系統の魔法を使ったら勇者さまは丸裸。だろ?」
図星を付かれて息をのむ。
黒目とは言え、なぜこいつはこうも的確に私の事が分かるのか。
いやこの場合、黒目は関係ない。魔力からは私の限界は読めないはずだ。
心が読める。とか・・・?
「炎魔法使いと人質は俺が反転魔法をかける」
ディーナンの考えは私には読めない。けれど、私の中には、いつの間にか彼への信頼感があった。
「できるの?」
「任せて」
それが、揺らがない態度のせいなのか、魔族なのに魔族に相応しくない魔力の色のせいなのか、私の魔力の事を喋らないでいてくれるからなのか、分からない。
分からないけど、信じられる。もしかしたら、これが勇者になる者の勘というやつなのかもしれない。
「リーアン!こいつの言うこと信じるの?」
「ラーニカ、彼は僕たちの仲間だよ」
そう、仲間だ。ディーナンも、ラーニカも、コーダンも、私の仲間だ。
まだ知り合って日が浅くても、仲間なのだ。
「・・・分かったわ」
「ディーナン任せたよ」
彼らを信頼している。
そして、私は彼らに信頼されている。
その事が何よりも心強かった。
知能が高いので斥候がいる可能性は分かっていた。
だから、迷路のような下水道の分岐の影からヤツらが飛びかかって来たのも、想定内だった。
ディーナンにはラーニカを任せていたし、背後からのやつはコーダンが仕留めるだろう。
私は、左手から出てきた一匹を始末する為に、剣を振る。
その時、ゴブリンの姿を、初めて、間近で見た。
人型で、子どもサイズで、だから趣味の悪いお面を被った人間の子どもに見えた。見えてしまった。
剣が、ゴブリンの首に届く前にピタリと止まる。
迷ったのは一瞬だった。
けれど次の瞬間には、私の横から伸びた細身の剣が、ゴブリンの頭を貫いていた。
絶命したゴブリンから引き抜かれる剣の先には、いつも通り軽薄な笑みを浮かべるディーナンがいて・・・。
「迷うとやられるよ」
私の心を見透かすように言うと、剣を収める。
不快な音を立てて床に落ちたゴブリンだったものは、よく見ると全く人間になんて似ていなかった。
「魔獣を殺すのは初めてか?」
とっくに剣を収めたコーダンは、慰めるように頭をワシワシと撫でてくれた。
「獣型のは、仕留めたことあったんだけどね」
獣型の魔獣は動物とほとんど変わらない。でも人型の魔獣は、実物を見るのすら初めてだったのだ。
冒険する上で、生き物の命を奪う覚悟は出来てたつもりだったのに、形が人間に近いだけでこんなに気持ちが揺れるなんて・・・。
でも、どんなに人間に近い形をしていても、所詮は魔獣。
それに、仕留めなければ街の人間に被害が及ぶのだ。
腹をくくれリーミア、いや、リーアン。お前は勇者になるんだろう?ゴブリンの一匹や二匹仕留められないでどうする。
冒険者じゃなくたって、冒険を続けるのであればこれは避けては通れない道なのだ。
「止めにするか?」
ふーと大きく息を吐いた。
そして、グッとお腹に力を入れて覚悟を決め直した。
「いや、行く。僕は勇者になりたいから」
そこから10分も歩くと、目的地にたどり着く。
大きな下水管の合流地点。メンテナンスのためにちょっとした広場になっていて、明かりもある。
ゴブリンの巣にするにはうってつけの場所に、当然のようにやつらはいた。
明らかに他の個体よりでかいのが1匹。杖を持っていて魔力を感じるのが1匹。あとは雑魚だろうが12匹。
そして、女の人が3人。ボロボロの服を着て木の檻に閉じ込められていた。
服を着ていても全身に怪我をしているのが分かる。狩りの練習ってやつなんだろう、少し古い傷から真新しい傷まで、致命傷にならないようにいたぶられたのが分かる。
教えてもらっていたとは言え、実際に痛々しい人質の姿を目にするとしり込みしてしまいそうになる。
「やっぱ止めとく?」
見計らったように声をかけてくるディーナンは、さっきから私の心でも見透かしているんだろうか?
覗いていた頭を引っ込めてディーナンを見ると、相変わらずの軽薄な笑みを浮かべながら立っていた。彼なりの激励だったということだろう。お礼は言わないけど。
「でかいのがゴブリンリーダーで、杖持ちがゴブリンマージだ。あの2匹は直接叩かないと駄目だろうな」
コーダンの経験則からくる意見は凄く頼りになる。当初の予定ではラーニカの炎魔法さえあればいいかと思っていたけど、そう甘くはいかないらしい。
「僕とコーダンで突っ込む。僕はマージを仕留めるから、コーダンはリーダーをお願い。ラーニカは僕たちが飛び出た瞬間になるべく強い炎魔法を爆発させて」
次は、必ず仕留める。炎魔法に紛れて近づけば難なく倒せるだろう。
「俺は?」
「ラーニカに反転魔法をかけるのと、何かあった時のために守ってあげて」
ディーナンは実力が未知数なのもあるが、多彩な魔法を使えるはずだから余力として残しておきたかった。
もし私が失敗しても、ディーナンとコーダンさえいればどうにかなる。とも思っていた。
「人質はどうする」
「人質3人と僕とコーダンの分までなら僕が反転魔法をかけられる」
「5つも同時に?」
「うん」
動きながら魔法を使うのは難しい。魔法の複数同時使用も難しい。動きながら5つ同時使用なんて、ラーニカみたいな正統派魔法使いは考えもしなかった事だろう。
正直、私もギリギリだ。けど、練習では上手くいっていた。
できるはず、だった。
「ダメ」
茶々を入れてきたディーナンは、珍しく真剣な顔で目を細めた。
「何で?」
「それだとマージが別系統の魔法を使ったら勇者さまは丸裸。だろ?」
図星を付かれて息をのむ。
黒目とは言え、なぜこいつはこうも的確に私の事が分かるのか。
いやこの場合、黒目は関係ない。魔力からは私の限界は読めないはずだ。
心が読める。とか・・・?
「炎魔法使いと人質は俺が反転魔法をかける」
ディーナンの考えは私には読めない。けれど、私の中には、いつの間にか彼への信頼感があった。
「できるの?」
「任せて」
それが、揺らがない態度のせいなのか、魔族なのに魔族に相応しくない魔力の色のせいなのか、私の魔力の事を喋らないでいてくれるからなのか、分からない。
分からないけど、信じられる。もしかしたら、これが勇者になる者の勘というやつなのかもしれない。
「リーアン!こいつの言うこと信じるの?」
「ラーニカ、彼は僕たちの仲間だよ」
そう、仲間だ。ディーナンも、ラーニカも、コーダンも、私の仲間だ。
まだ知り合って日が浅くても、仲間なのだ。
「・・・分かったわ」
「ディーナン任せたよ」
彼らを信頼している。
そして、私は彼らに信頼されている。
その事が何よりも心強かった。
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