42 / 57
6.そんな夢をずっと見ていたかった
(40)いなくなるなよ。馬鹿
しおりを挟む
人間には毒のはずの闇の魔力も、私には心地いい。
体内で作り出す魔力とは別に、空気中の闇の魔力を体が勝手に吸収しているのが分かる。
魔法の調子も良く、すんなりと魔王城へ侵入できて、すんなりと王座の間まで来れた。
仰々しい椅子に座るのは、私と同じくらいの魔力量を持った魔族。遠目でも感じられる威圧感からも、あの人が魔王であることが分かる。
謁見をいくつか終えて、小間使いと思しき魔族が外に出る。
1人きりになった魔王へ襲撃をかけるために、梁から飛び降りた。
音も、魔力の気配も出さずに着地し、床を蹴る。
5秒あれば魔王の元へたどり着けるはずだった。
踏み出した足が、床から放たれるトラップ魔法に捕まりさえしなければ。
闇魔法で防ごうと思ったけど、そのトラップは風と土と闇が混ざった複雑なものだった。視ながら対処していっても、慣れていない闇魔法ではどうにかできるはずもなく、瞬く間に捉えられてしまう。
まるで磔だ。せり出してきた石壁に、ピクリとも動けないくらいがっちりと体を拘束され、しかも、見慣れない反転魔法が込められているらしく、魔法も使えない。
「何者だ」
1ミリも動じていない魔王の視線が飛んでくる。今すぐ殺されることはなさそうだけど、この状況から私に倒されてくれるなんてことはありえないだろう。
終わった。
リーアンの冒険はここで終わったんだ。
終わって、しまったんだ。
そう思ったら、涙が出てきた。
ずっと我慢してたのに、ずっと頑張って来たのに、私の努力の全てがもう終わってしまったんだ。
もう勇者になれない。みんなの所にも帰れない。私は、私はもう・・・。
拭う事も出来ない涙が、ポロポロと頬を伝い落ちていく。惨めになるだけなのに、止まってくれないんだ。
あぁでも、もうリーアンじゃなくなったならいいのかな?リーミアなら、泣いてもいいのかな?
全身から力が抜ける。そんな、絶望に支配されそうになる私を止めたのは、とめどない涙を掬った指先だった。
「あーあ、俺じゃない男に泣かされちゃった」
軽口に続いて、歌うような詠唱が伸びやかに響く。私を捕らえていた土壁を反転魔法で壊してくれたのは、軽薄な笑みを浮かべるディーナンだった。
「ほんと勇者さまは罠に弱いな」
「なん、で、お前・・・!」
また、逃げたんだと思っていた。
魔王城を目の前にして、ディーナンほど魔力量の少ない魔族であれば逃げ出すのもおかしくはないと思っていた。
だから、平気だと思っていたんだよ?こんな風に助けてくれるなんて、1人にしないでくれるなんて、そんな事されなくても私は大丈夫だと思ってたんだよ?
でも来るんだったら最初からいなくなるなよ。馬鹿。
魔王の方を向いたディーナンに、そうだったと大きく息を吸って涙を止めた。
魔王の前で気を抜くなんてありえない。相変わらず優雅に座る魔王。その暗紫の瞳は、私じゃなくディーナンを捕らえていた。
「ほう、我が愚息と顔見知りか」
地の底から響く様な声が何を言ったのか、すぐには理解できなかった。
「俺の主。だから手出ししないでね」
「その娘が勝手に罠にかかりおったのよ。我は何もしておらぬわ」
「あ、じゃあやっぱ魔力至上主義が集まってるのおやじのせいじゃない?」
コーダン達と話す時と全く同じ態度で、ディーナンが魔王と話をしている。
それに愚息?魔王の?
「当然だ」
「心当たりは?」
「配下を売れ、と?」
「配下を諫めるのは主の仕事だろ?」
状況が飲めない私の目の前で話しが進んでいってしまう。
感情も思考もぐちゃぐちゃで、まるで記録映像を見ているようだと、ぼんやりと思うしかできなかった。
「・・・案内させよう。その娘であればすぐに服従させられるであろう」
執事の人に促されて移動した先は、ディーナンの私室だった。
魔王城に、あるのだ。ディーナンの私室が。
広すぎるくらい広い部屋。手入れの行き届いた装飾品。使用人の部屋なんかじゃない。それに、「愚息」と呼んでいた。
「愚息って何?」
食事はいらないはずなのに、軽食とお茶も出された。
執事の人の態度も、どこかディーナンを恐れているように見えた。
「俺。魔王の愚かな息子」
「聞いてないよ」
「言ってないもん」
体内で作り出す魔力とは別に、空気中の闇の魔力を体が勝手に吸収しているのが分かる。
魔法の調子も良く、すんなりと魔王城へ侵入できて、すんなりと王座の間まで来れた。
仰々しい椅子に座るのは、私と同じくらいの魔力量を持った魔族。遠目でも感じられる威圧感からも、あの人が魔王であることが分かる。
謁見をいくつか終えて、小間使いと思しき魔族が外に出る。
1人きりになった魔王へ襲撃をかけるために、梁から飛び降りた。
音も、魔力の気配も出さずに着地し、床を蹴る。
5秒あれば魔王の元へたどり着けるはずだった。
踏み出した足が、床から放たれるトラップ魔法に捕まりさえしなければ。
闇魔法で防ごうと思ったけど、そのトラップは風と土と闇が混ざった複雑なものだった。視ながら対処していっても、慣れていない闇魔法ではどうにかできるはずもなく、瞬く間に捉えられてしまう。
まるで磔だ。せり出してきた石壁に、ピクリとも動けないくらいがっちりと体を拘束され、しかも、見慣れない反転魔法が込められているらしく、魔法も使えない。
「何者だ」
1ミリも動じていない魔王の視線が飛んでくる。今すぐ殺されることはなさそうだけど、この状況から私に倒されてくれるなんてことはありえないだろう。
終わった。
リーアンの冒険はここで終わったんだ。
終わって、しまったんだ。
そう思ったら、涙が出てきた。
ずっと我慢してたのに、ずっと頑張って来たのに、私の努力の全てがもう終わってしまったんだ。
もう勇者になれない。みんなの所にも帰れない。私は、私はもう・・・。
拭う事も出来ない涙が、ポロポロと頬を伝い落ちていく。惨めになるだけなのに、止まってくれないんだ。
あぁでも、もうリーアンじゃなくなったならいいのかな?リーミアなら、泣いてもいいのかな?
全身から力が抜ける。そんな、絶望に支配されそうになる私を止めたのは、とめどない涙を掬った指先だった。
「あーあ、俺じゃない男に泣かされちゃった」
軽口に続いて、歌うような詠唱が伸びやかに響く。私を捕らえていた土壁を反転魔法で壊してくれたのは、軽薄な笑みを浮かべるディーナンだった。
「ほんと勇者さまは罠に弱いな」
「なん、で、お前・・・!」
また、逃げたんだと思っていた。
魔王城を目の前にして、ディーナンほど魔力量の少ない魔族であれば逃げ出すのもおかしくはないと思っていた。
だから、平気だと思っていたんだよ?こんな風に助けてくれるなんて、1人にしないでくれるなんて、そんな事されなくても私は大丈夫だと思ってたんだよ?
でも来るんだったら最初からいなくなるなよ。馬鹿。
魔王の方を向いたディーナンに、そうだったと大きく息を吸って涙を止めた。
魔王の前で気を抜くなんてありえない。相変わらず優雅に座る魔王。その暗紫の瞳は、私じゃなくディーナンを捕らえていた。
「ほう、我が愚息と顔見知りか」
地の底から響く様な声が何を言ったのか、すぐには理解できなかった。
「俺の主。だから手出ししないでね」
「その娘が勝手に罠にかかりおったのよ。我は何もしておらぬわ」
「あ、じゃあやっぱ魔力至上主義が集まってるのおやじのせいじゃない?」
コーダン達と話す時と全く同じ態度で、ディーナンが魔王と話をしている。
それに愚息?魔王の?
「当然だ」
「心当たりは?」
「配下を売れ、と?」
「配下を諫めるのは主の仕事だろ?」
状況が飲めない私の目の前で話しが進んでいってしまう。
感情も思考もぐちゃぐちゃで、まるで記録映像を見ているようだと、ぼんやりと思うしかできなかった。
「・・・案内させよう。その娘であればすぐに服従させられるであろう」
執事の人に促されて移動した先は、ディーナンの私室だった。
魔王城に、あるのだ。ディーナンの私室が。
広すぎるくらい広い部屋。手入れの行き届いた装飾品。使用人の部屋なんかじゃない。それに、「愚息」と呼んでいた。
「愚息って何?」
食事はいらないはずなのに、軽食とお茶も出された。
執事の人の態度も、どこかディーナンを恐れているように見えた。
「俺。魔王の愚かな息子」
「聞いてないよ」
「言ってないもん」
20
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる