勇者さまは女の子

藤ノ千里

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6.そんな夢をずっと見ていたかった

(42)仲間への信頼

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 腹の読めねぇ物言いはいつも通り。
 向き合うと、ゆっくりと空中から降りてきたディーナン。浮かべる嘘くさい笑みも、腹立たしいほどにいつも通りだった。
「リーアンはどこ?」
「内緒」
「俺たちに会いたくないってことか?」
 こいつは、言いたくないことはこうやって肩を竦めて誤魔化す。が、少なくともあいつが俺たちに会いたくない訳じゃないことは分かった。
「ディーナンさん魔族だったんすね!まじかっけぇす!」
 フィンは、こいつは本当にブレないな。
 魔族への忌避感がないのは若者ゆえか、それともこいつが変わり者なのか。いずれにしてもあいつという存在の前ではありがたいが。
「ついでに魔王の息子だよ。勇者さまの身元は俺が預かった」
 口調こそ軽いが、嘘は言わない奴だ。ディーナンの言葉は本当なのだろう。
 闇魔法を持つ勇者の娘に、魔王の息子か。
 つくづくとんでもねぇ奴らと一緒にいたもんだ。が、もう、驚きもしねぇな。
「勇者さまの命が惜しくば今すぐ帰るんだね」
 念の為、手で制してラーニカを下がらせる。
 有事の際はラーニカがフィンとシアラを守る事になっていた。2人はラーニカの後ろに隠れたはずだ。
 ディーナンは無意味な殺生をするやつとは思わないが、牽制のために攻撃してくる可能性は十分とあった。
 剣の柄に手をかけて、睨みつけ、臨戦態勢を取る。
 と、そこで違和感を感じた。
 こいつ、誰かを庇うように立ってねぇか?
「もしかしてそこにいんのか?」
「そこ??」
「ちょっ、フィン!」
 ラーニカをすり抜けて俺に並び立ったフィンが目を凝らすが・・・さすがに何も見えないか。
 大方、ディーナンのやつが闇魔法で隠しでもしてるんだろう。
「リーミア!お前の事は全部マクマから聞いたぞ。聞いた上で迎えに来た。お前のパーティメンバーとして」
 普段なら絶対に口にしない歯の浮くような言葉。その上、そこにあいつがいるかどうかも賭けではあった。
「俺も、護衛じゃなくてお前のパーティに入りたい」
 だが、そんな些細な事、今更構いはしない。
 言わなければ届かない。
 言えば、届くかもしれない。まだ、届くかもしれないんだ。
 ディーナンがチラリと自分の背後に目をやると、空気が陽炎のように歪み、次の瞬間にはそこにあいつが、リーミアが立っていた。
「全部って、どこまで?」
 小さい子どもみてぇな喋り方だった。拗ねたような表情も今まで見たことないもので、恐らくこれがリーミアの本当の姿なんだろう。
「お前が勇者ローレンの娘で、人間なのに闇の魔力を持ってること。あと、人間の土地に戻る気がないことも」
 顔を伏せながらも、リーミアはしっかりと俺を見ていた。その緑の目が寂しさを孕んでいるのに初めて気づく。
 俺は見たくねぇもんから目を逸らし続けたせいで、こんな大切な物も見えていなかったんだな。
「あたし達パーティじゃなかったの?」
「勇者さまを責めるのはやめてくれない?」
「なによ!あんたばっかりリーミアと一緒にいて!」
「だって俺、勇者さまの配下だもーん」
 魔王の息子だと知ったところで、ラーニカのディーナンに対する態度は変わらない。
 意外と肝が座っている・・・と言うか、リーミアの事となると周りが見えなくなるだけか。
「俺たちは、もうお前に必要ないか?」
 俺の言葉は、本当にリーミアには響くらしい。
 一瞬で泣き顔になり、その目からは涙が溢れ始めて。そんな姿が、なぜだか少し嬉しかった。
「だ、だって、私もう勇者になれないんだもん」
 しゃくりあげながら言う姿は、大人びた勇者志望のリーアンではなく、ただのリーミアだった。
 嘘を纏わない、ただのリーミアだった。
「なぁ、リーミアってなんで勇者になりたいんだ?」
「え?」
 終わりのない悲痛な涙を止めたのは、少し真剣なフィンの言葉。
 こいつ、分かっててやってるのかただのラッキーパンチなのか本当に分かんねぇな。
「だって普通、称号って後から着いてくるもんだろ?魔王倒して世界を平和にしたいとかなら分かるけど、ただ勇者になりたいんだろ?」
「そ、それは・・・」
 動揺するのは確信を付いている証拠だ。
 両手をギュッと握りしめて、口を開こうとしたリーミアを、しかしディーナンが遮る。
「どうせ言っても分かんないよ」
「言わないと分かんないすよ!」
「フィン、止めときなよ」
 いつも通りに見えて、ディーナンはイラついているのかフィンにすら鋭い視線を送っていた。
 シアラが引っ張って行かなければ、ちょっとヤバかったかもな。
「帰ろ、話にならないや」
 踵を返すディーナン。だが、リーミアはすぐには動かない。
「リーミア、お前の姿形が嘘だったとしても、お前が俺たちにかけてくれた言葉は嘘じゃなかっただろ」
「勇者さま行くよ」
 信頼を、本当にしてくれているなら。俺たちの前にこうやって現れてくれた事すらも、リーミアの助けを求める声なんだと思った。
「俺は、お前だからこそ迎えに来た。こいつらもだ」
「勇者さま?」
 その声をもう、聴き逃しはしてやらない。
「もしまだ俺たちを仲間だと思ってくれてるなら、話して欲しい。お前の口から、お前が苦しんでる事を全て」
 リーミアの瞳が揺れながら俺を見ていた。確かめるように、そして迷うように、先程とは違う涙を流しながら、俺を見ていた。
 数分、沈黙が流れる。
 涙が止まると、リーミアはゆっくりと口を開いた。
「ディーナン、みんな一緒に連れて行ける?」
「はぁあ、我が主の命なら仕方ないね」
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