勇者さまは女の子

藤ノ千里

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8.番外編

(2)家族の呼び方

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「やだ」
 口にくわえたスプーンをブラブラ揺らしながら、お行儀悪くテーブルに肘を付くディーナン。
 こいつ魔王の息子のくせに礼儀も行儀もなってないし、何なら私より子どもっぽい時がある。
「何で?」
「だって俺、その他になりたくないもん」
 そう言うと、話は終わりとばかりにご飯を食べ始める。 
 こいつの言う事はたまに意味が分からない。けど、せっかくの出来たてが冷めてしまうと勿体ないので、私も手を合わせてご飯を食べ始める事にした。


 見習いとはいえ、仕事はきちんと夕方まで。
 映像通信の魔具でマクマさんに今日の報告をしたら、仕事が終わり。
 休みもちゃんとあって、明日は4日ぶりのお休みの日なのだ。
 背伸びをして、席を立つ。
 この後は少しの自由時間。その後食堂で晩ご飯を食べて、お風呂に入ったらあとは寝るだけだ。
 窓の方へ目をやると、空が赤く染まっていた。
 人間の土地でも魔族の土地でも空は同じ。こうやって室内で仕事をしてるとここが魔族の土地だと言うのも忘れてしまいそうになる。
 扉の方へ目を戻すと、ディーナンが立っていた。
 相変わらずの軽薄な笑み。これは、いつもの冗談を言う時のやつだ。
「勇者さまの呼び名なんだけど、『ミーア』って呼んじゃダメ?」
「それは恋人の呼び方だから駄目」
「じゃあ恋人になってよ」
「はいはい、そこどいて出れないから」
 通せんぼみたいに扉に寄りかかるディーナンに、怒った顔をしてみせる。
 すんなりと脇に避けてくれたで扉に手をかける。と、その手の上にふた周り大きい手が重なった。
「ダメ?」
 いつもより近い距離で囁かれて、心臓がドクンと音を立てた気がした。
 でも、ディーナンはいつも通り軽薄な笑みを浮かべていて・・・。
「駄目」
「えー、俺結構貢献してるんだけどなー」
 離れていった手のひらの体温が、私の手の甲に少しだけ残っている気がして、いやでもだからなんだと言うのだ。
「配下なんだから当然でしょ」
「じゃあ、『ミア』なら良い?」
 それは家族の呼び方だった。親兄弟を呼ぶ時の呼び方。
 でも、うちはお父様の方針で使用人も「ミア様」って呼んだりするし、ディーナンも侍女みたいだから、ってことは問題ないか。
「それなら良いよ」
 ディーナンが私に変なこと言ってくるのは出会った時からだったし、もう慣れたからもう何とも思わなくて。
 なのに、「やったぁ」の声がいつもと違う気がして、思わず彼の方を見た。
 軽薄な笑み、じゃなかった。
 目を細めて、どこか寂しそうにも見える顔で、ディーナンは笑ってた。
 心臓が、ギュッてする。
 手の甲に、重なった温もりが蘇る。
 なんだこれ。
 ディーナンは私の配下で元仲間で部下で侍女みたいで。
 なのに、なんか変なんだ。
「ミア」
 呟くような声が、耳に入ったはずなのに、心臓を締め付ける。
 なんだ、これ。
 いや違う。きっと疲れただけだ。
 廊下に出て、あいつを閉じ込めるように扉を閉めた。
 疲れただけ。そう、疲れただけなんだ。
 だって、ディーナンに触りたいとか、そんな風に思うなんて。そんなの、変だもん。


 大使見習いになって半年。私は15歳の誕生日を迎えた。
 そして同時に、マクマさんから大使の役目を正式に引き継ぐ事にもなった。
「人間側の業務はほとんど補佐が引き継ぐから、あなたの仕事は基本的に今と変わらないわ。強いて言うなら祭典への出席義務があるけれど、ローレンの名前を出せば断れるくらいのものよ」
「じゃあ大使館にはあまり来なくていいの?」
「えぇ、必要な時は呼ばれるけど多くて週に一回くらいじゃないかしら?」
「それってずっと?」
「あなたが成人するまではってところね」
 成人。つまり16歳。
 下町では16歳で結婚する人も多いくらいだから、そこがターニングポイントになるのか。
 お父様が変な婚約者候補とか連れて来ないといいけど。
「はい、完成。無理矢理形を変えたけど何とかなるものね」
 マクマさんが着せてくれたのは、大使の式典用の正装だった。
 背中とお尻に穴を開けて私でも着れるようにしてくれたけど、そのせいで1人では脱ぎ着できなくなってしまったのだ。
 脱ぐ時は・・・ダアラにでも手伝ってもらうしかないか。
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