勇者さまは女の子

藤ノ千里

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3.貿易都市ソアラ

(20)公然の秘密ってやつだよ

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 すぐに宿屋に戻って、借りてた部屋へ入ると、先にディーナンが戻って来ていた。
 今から何の話しをするのか分かっているのかいないのか、いつも通り軽薄な笑みを浮かべながら1番奥のベッドに腰掛けている。
「あんたどこに行ってたのよ」
 ラーニカに返事をしないのもいつも通り。
 私とラーニカが1番手前のベッドに座ると、コーダンはベッド脇の椅子に座った。
 「なんの話?」と首を傾げるラーニカに微笑んでみせる。
 コーダンを見ると、彼は言いにくそうに口を開いた。
「あれは愛玩用の魔獣を売ってる商人だ」
「愛玩用?」
「金持ちがペットとして飼ったりする」
 魔獣がペット?力の弱い魔獣のようではあったが、それでも魔獣と言うからには魔法を使うことだってあるのに?
「檻と首輪に魔具を使うんだったっけ?」
「あの感じだと餌にも混ぜもんしてるかもな」
「最悪ね」
 ラーニカも、知っているのか。
 また、知らないのは私だけか。
「違法、だよね?」
「あぁ」
「ならなんで?!」
「欲しいやつがいれば、売るやつもいるってことだ」
 意味が分からなかった。
 禁止されている事をしている人がいることもだけど、それを看過している人たちがいることが。
 だって、あんなに堂々と路地裏で売ってるってことは、誰も通報していないってことだから。
「知事に直訴する」
「止めとけ」
「なんで?!」
 私から、コーダンが目を逸らした。ラーニカもだ。
 勇者を目指すなら正しい行動のはずなのに、やっぱり意味が分からなくて、そんな私に答えをくれたのは静寂を打ち破る静かな声だった。
「公然の秘密ってやつだよ」
 ゆっくり振り返ると、ディーナンの黒い瞳と目が合う。
 口元は笑っていても、目は、笑っていなかった。
「ちなみにここ奴隷も売り買いされてる」
「おい、ディーナン」
 魔獣の売買が禁止されたのは10年前。比較的最近と言えなくもない。
 でも奴隷は、30年も前に禁止されていたはずで、それにそもそもこの国には奴隷の文化はないはずだった。
「人間じゃなくて亜人と魔族だけ、みたいだけどね」
「差別ってこと?」
「差別じゃなくて『区別』だって言うのがあの人たちの主張」
 人間と見た目の違う亜人に、見た目こそ似ていても生態の違う魔族。
 自分たちと違う彼らに嫌悪感を抱く人達がいるのだと、悲しそうにお父様が呟いていたのを思い出す。
「それでも、討伐前よりは扱いがマシになってはいるはずだ。勇者ローレンのおかげでな」
「へぇ、傭兵のくせに奴隷に肯定的なんだ」
「冒険者にとっちゃあ傭兵より奴隷の方が安くて使いやすいのも事実だろ。特に初心者は」
「それで?危なくなったら盾にして捨てて帰るんだろ?」
「・・・お前が奴隷に反対なのはよぉく分かったよ」
 ディーナンは魔族だから、同族が奴隷にされてるのは嫌に決まっている。
 珍しくコーダンに喧嘩を売っているのは、それほどまでにイライラしてるからだろう。
「勝手に命の値段を決めて売り買いして、俺から言わせれば、恥ずかしいと思わないのが逆に不思議だね」
「止めなさいよ。コーダンが奴隷を買った訳じゃないでしょ」
「黙認してるくせに、自分は違うって?」
「それは・・・」
「ほら、言ってみなよ、どこが違うんだよ」
「ディーナン」
 途中から作り笑顔も忘れたディーナンは、視線をラーニカからゆっくり私に移した。
 その目が、痛みを堪えているようにも見えた。
「僕は違うよ」
「どこが?」
「奴隷を解放する」
「どうやって?」
 私には、ディーナンの痛みは分からない。けれど、同じような痛みを知っていた。
 一方的に違う生き物だと拒絶され、自分のままで生きられない。これはそんな痛みだ。
「奴隷を捕らえている建物を襲撃する。だから場所を教えて」
「お前っ!」
「何を言っているか分かってるの!?」
「ディーナンなら場所が分かるよね?」
 コーダンとラーニカの反対の声は、多分正しい。
 きっと間違ってるのは私の方なんだ。それでも、いい。
「本気?」
「本気」
 相手が違法な事をしているとはいえ、やろうとしているのは強盗だ。
 それでも、いい。
「コーダンとラーニカは待ってて。バレてもとぼけてくれていいから」
「でもリーアン!」
「大丈夫。ちゃんと正体は隠すよ」
 不安そうなラーニカとしかめっ面のコーダンに笑みを浮かべてみせる。
 仲間を巻き込むつもりは無い。これはパーティリーダーとしての、リーアンとしての判断じゃない。ただの私のわがままだから。
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